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「こっちは、クッキーの広告みたいですね」
「うん、チョコレートチップの入ったクッキーだな。女の子がおいしそうにかじってるイラストが、とても可愛いらしくて」
「なんだかチョコチップクッキーが、食べたくなってきますね」
思わず口の中に甘いクッキーの味が広がって、そう漏らすと、
「では、持って来てもらおうか」
と、彼が本から顔を上げて応じた。
「いえ、わざわざ持って来てもらわなくても」
他愛もない呟きに過ぎなかったこともあって、手を振って断るも、
「そろそろ紅茶も冷めたので、温かいものを淹れ直すついでに持って来てもらうから」
彼はそう言って、室内用のインターホンに「紅茶と、あればチョコチップクッキーを」と、伝えると、「君は、何も遠慮をしないでいいから」と、私の頭を手の平でぽんぽんと優しく叩いた。
ぽんぽんされた頭にそっと片手を当てて、思う──。
(こういうところに、ますますドキドキさせられちゃうっていうか……。また愛しさが募るみたいで……)
貴仁さんって、ズルい……。
初めて会った時には、なんてぶっきらぼうで冷たくてとも思ってたのに、素顔はこんなにも物柔らかで心温かな人だったなんて……。
彼自身も話してたように意図したわけでもないはずなのに、最初の印象とのギャップ萌えを感じないではいられなくて……。
ほんと、貴仁さんて、ズルい──。
そんな風にも思うと、ふっと顔がほころぶようだった……。
──程なくして、部屋のドアがノックされ、執事の源治さんが新しい紅茶と、チョコチップだけではないたくさんの種類のクッキーが盛られたお皿を、ワゴンに乗せて運んで来た。
「こちらの紅茶は、お下げしますね。それと坊っちゃま、そろそろ夕方になりますが、今晩のお食事はどうされますか? 彩花お嬢さまもご一緒に食べられますか?」
お食事までなんてもったいなくて、「いえ、そんな……」と、口に出しかけた私を制して、「ああ、彼女と食べるから」と、彼が源治さんへ話した。
「でも、私……もう……」
いつの間にか日も落ちてきているし、そろそろ帰ろうかとも考えていると、
「遠慮はしないでほしいと、さっきも言っただろう。それに一人の食事は味気ないので、付き合ってくれないか」
彼がそう口にして、私をじっと見つめた。
「えっと……それでは、あの、ご一緒させていただきますね……」
そんな風に見つめられては到底断れるはずもなかったけれど、何より一人では味気ないという食事を、せめても和やかにできたらと感じた。
「承知しました。では坊っ……」
そう言いかけたところで、貴仁さんが軽く咳払いをして、源治さんがハッとしたような顔で、「ああ貴仁さまでしたね」と、言い直した。
「それでは、彩花お嬢さまのためにも、とびきりのディナーをご用意させていただきますので、どうかお待ちくださいませ、坊ちゃま」
──去り際、源治さんがそう口にして、よっぽど”坊ちゃま”呼びが染みついてるみたいで、つい先ほどの訂正も忘れたらしい様子に、彼が苦笑いを浮かべて、釣られるように小さくふふっと笑ってしまった。