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そんな時、類のスマホが鳴る。画面に表示された名前も、勿論母さんだ。カタカタと震える手で履歴を見れば、母さんからのメッセージと不在着信がズラリと並んでいた。
未だに鳴り続けるスマホを握りしめて、脂汗をかきながら表情を青くして何もできないでいた。
不意に、自分の手からスマホが抜かれた。
司「はい」
朝比奈母『誰?あぁ、類を連れてった人ね。類に代わりなさい!』
司が神妙な顔と声で電話に出ると、即座に聞こえるのは母さんの怒声。類の血の気は更に引いた。
司がチラリと類を見た。
類「ぁ…ッ」
辛うじて出たかすれ声。司はそれを診察するように目を細めて見た。
司「類は今日、ウチへ泊まらせる。」
類を安心させるような笑みは無かった。
母さんは司に何か怒鳴りつけるように叫んでいたが、司は無表情のまま応ずることなく通話を切り、スマホの電源を落とした。
その後、司はしゃがみ込んでいる類に合わせて膝をついた。
司「もう充分待っただろう。そろそろ教えてくれないか?…それとも、俺はまだ信用には足らないか?」
眉を下げ、少し寂しそうに言う司を見て、類は胸が締められる心地と共に、何か別のものが解ける心地がした。
類「…僕は、」
類はありのままを司に曝け出した。
母さんが自分の才能に執着していること、天才のレッテルの傀儡となり勉強し続けていたこと、母さんの支配から抜け出すのを諦めていたこと、母さんの機嫌を損ねないようにと完璧で居たこと、姉さんが自由になるならそれでもいいと思っていたこと、ずっと姉さんと二人だけで支え合ってきたこと、幼少のトラウマで拒食症なこと、母さんの前ではそれでも食事をしていたこと、食事後にそれらを全て吐いてしまっていたこと、確かに司くんたちに救われていたこと、
…その救いも直ぐに終わってしまったこと。
いつの間にか類は、自分の身体を抱えて静かに涙を流していた。
司はそんな類の手を取って、自分の背中へと回させた。そして、自身も類の背中に腕を回した。
司「話してくれてありがとう。話すのすら辛かっただろうに…」
類「つかさ…く…」
恐る恐る、慎重に、ほんの少し、類は力を込めた。
司「声を上げて泣いて良いんだ。ここには俺しか居ないからな。」
その言葉に、類は司の肩に頭を置いた。
類「ひっ、うぅ…」
声は上擦り、声は喉に引っ掛かり、どもる。泣くという経験すら殆どない、嗚咽ばかりの下手な泣き方だった。それでも、類が出してくれた最大限の感情だ。それは、言うまでもなく天才なだけの人間には無い、成長である。
その間、司は別の方向にも思考を飛ばしていた。先程、類のスマホを拝借して通話をした。その時の保存してある連絡先が“母さん”“父さん”“姉さん”のみであった。類が教えてくれた内容と合わせて考えるに、まず間違いなく母親だろうな、と司は的を得た考えをする。
それから、類を抱えて走った時に感じた異様な軽さにも納得できる。
それから…
司(類は、姉を大切にしているのだな)
司にも妹がいるので兄弟を大切に想う気持ちは理解できる。だが、それと同時に今はお互いにお互いの事を気負わず、どちらも救われるべきだとも思う。
あれ、そういえば。
司「類、今日類のお姉さんはどうしているんだ?」
類「きょ、は、かなでさんの、ヒック、ところ、に…グスッ」
#兄弟パロ
かの
456
#暁山瑞希
ねる
722
101
ならば類の母親がお姉さんに当たる事も無さそうだ。
司(奏という人は知らんが…そっちはそっちで上手くやってると良いんだが…)
司は無意識の内に腕に込めている力を強くした。
そう考えていたら、いつの間にか泣き声が止んでいる。
司「…類?」
…こんなに泣くというのは初めてだったのだろう。類は司の腕の中で泣き疲れて眠っていた。
司は類の目尻に溜まった涙を拭い、自身のベッドへ横たえた。
司「少し待っていてくれ」
小声で呟くように言ってから部屋を出る。階段を降りた先には、テレビを見ている司の母親の姿があった。
司「母さん、話があるんだ。」
司は感情的になる時が多いが、無謀なことは無謀と分かる。
この問題は、高校生だけで対応できるものではないと判断した司は自身の親に包み隠さず全てを話した。それは、告げ口ではなく類を救う近道であった。
司母「分かったわ。今は神代くんの傍に居て上げなさい」
その一言で、司は部屋へ駆け上がった。扉を開けると、類は既に起きていて、ベッドの上でボーッとしていた。
司「類…大丈夫か?」
司がそう聞けば、類はコクリと頷く。司がそれに応えるように微笑めば、類の顔も綻んだ。
司はベッドに座り、類の頭を自身の肩に預けさせた。
類「つ、司くん…?」
司「頑張ったな、類」
類「ぇ…?」
類は今まで「頑張りなさい」としか言われてこなかった。どれだけ頑張ろうと、帰ってくる言葉は「もっと頑張れ」で、自分は頑張って無いのだと思って生きてきた。そんな中、君は頑張ってきたのだと認められた。あの息苦しい生活は、何も無しには成り立たなかったのだと、教えてくれた。
司「休憩しよう」
類が休むこと無く手を、頭を動かされ続けてきたと知った、司からの言葉だ。
類「いいの、かい…?僕が…そんな…」
類から表情は見えないが、司は少し苦々しい顔をした。「自分が休憩するなんて許されるのか?」そんな疑問を当然の様に浮かばせる、類に。休憩を教えなかった、類の母親に。
司「ああ、良いんだ。お前はもう、充分頑張ったんだ。」
類「そっ、か…」
類はその時初めて、自分から司に体重を預けた。その重みこそが、類が自分に休むことを許可した印であった。
司「沢山休んで、回復したら、類が楽しいと思えることをしよう。今までの分を、取り戻すように。」
類「ぅ、ん…」
司「類は、何がしたいんだ?」
類は顔を上げた。
類「僕は─」
コメント
1件
かのさん、第9話読みました…。もう、涙が止まりませんでした。 類がようやく「ありのまま」を司くんに打ち明けた瞬間、本当に胸が熱くなりました。特に「頑張ったな」という言葉に、類が初めて認められたような反応を見せる場面が、あまりにも切なくて尊くて。司くんが自分の親に相談するという、高校生の限界を超えた判断も、彼の優しさと賢さを感じました。 類が「休憩しよう」と言われて、初めて自分から体重を預けたラスト、すごく感動しました。次が本当に気になります!