コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後。
雪乃は噴水の前に来ていた。
雪乃が噴水に近づくと、羽を休めていたポッポやマメパトが一斉に翼を広げて飛び去っていく。
そんな中、スイスイと水辺を泳ぐポケモンの姿があった。
「マリ?」
アシマリは変わらずそこにいた。
雪乃が側に腰掛けると、アシマリが水から上がり隣にくる。
「…アシマリ、歌ってくれない?」
雪乃がそうお願いすると、アシマリは嬉しそうに歌い始めた。
「マァ〜マァ〜、マァリ〜」
まだぎこちないが、上手くなったなぁ、と暫く聞いていると、とあることに気付く。
驚いて雪乃はアシマリを見つめた。
「…この曲は」
その瞬間、スマホから着信音が鳴り響く。
雪乃は電話に出た。
「もしもし」
『もしもし、草凪さん!?』
通話相手は瀬戸。何故だか声が焦っている。
「どうしたの?」
『大変だ!立花さんが…』
続く言葉に驚愕し、雪乃は走り出した。
それは、タイムリミットを知らせる警鐘だった。
立花が風紀に、チーノに連行された。
痺れを切らしたのか、はたまた気分か。
彼は王手を打ったのだ。
雪乃は教室へ戻った。
教室にいたのは五十嵐。
「草凪…」
何とも言えない顔で、こちらを見る五十嵐。
手には楽譜が握られていた。
「立花さんは…!?」
「…風紀に連れていかれた」
遅かったか…。
恐らく風紀室に向かったはず。
雪乃は踵を返し走り出そうとした。
「草凪!!」
背後から呼び止められる。
雪乃は振り返って五十嵐を見た。
「…立花を、救ってやってくれ」
懇願するような、悔しそうな表情。
雪乃は何も言わず、走り出した。
「こら、廊下を走るんじゃない!」
教師の注意を無視しながら、雪乃は走り続ける。
風紀室までは渡り廊下を渡って隣の中央棟の3階まで行かないといけない。
順調に怒られながらも走り続け、渡り廊下を渡った。
早く行かなければ、立花が犯人で確定してしまう。
急げ、走れ!
「よぉ」
視界の隅に、緑色が映った。
雪乃は反射的に方向転換し、逆方向へ逃げ始める。
逆サイドの渡り廊下を渡り、専門棟の方へ猛ダッシュで逃げていく。
しかし奴は追ってくる。
「おい、何で逃げんねん」
お前が追ってくるからだろ!!と心の中でツッコミながらひたすら走る。
こんな時に、こいつに出会うなんて。
最悪だ。
目的地からどんどん離れていく。
こんな事してる場合ではないが、体が勝手に逃げるのだ。
染みついた恐怖には勝てない。
後ろからついてくる足音に叫び出しそうになりながら、階段を駆け上がりついに突き当たりの教室まで来てしまった。
美術室、と書かれた教室に飛び込む。
しかし追いついた緑の悪魔に巻いていたマフラーをギュッと引っ張られる。
「捕まえた」
雪乃は引っ張られた反動で体勢を崩し、その場に倒れ込む。
マフラーを掴んだまま倒れた雪乃を見下ろすようにしゃがみ込む緑の悪魔。
捕まった。終わった。
もうダメだ。
もう逃げられないことを悟り、雪乃は顔を逸らす。
視界に入れたくない。怖い。
しかしマフラーをグッと引っ張られ、強制的に顔を向けさせられる。
雪乃の涙で滲んだ瞳に、そいつが映る。
近くで見れば益々それはスリーにしか見えなかった。
恐怖で全身が震える。
唇も、手も、足も。
体が、覚えている。
彼に何をされたのか。
どれだけの苦しみを与えられたのか。
嫌だ。離れたい。怖い。
殺される。
脳裏に天の人がよぎる。
ダメだ、違う。
毎度助けて貰えるなんて甘い考え捨てろ。
助けなんて来ない。