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はじめまして、ほしのはなです。
この作品を、より多くの方に楽しんでいただけるように、サンプルとして第1〜2話までフリー公開にしてみました。
話の内容や作風など、こちらで確認してみてください。
もし続きを読みたいと思っていただけたら、【はじめに】をご一読の上、お気軽にフォロー申請していただければと思います。
よろしくお願いいたします。
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(sn視点)
大学院の論文資料と、画面に表示されたエントリーシートの白い枠。
夜にPCと向き合っていると、視界の端がじんじんと熱を持ってくる。
奨学金の返済計画書と、アルバイトのシフト表に企業選考会の案内。
自分の現実を証明する数字はいつも目に見える場所にあって、俺を急かす。
期待に応えることは得意なはずだった。
家族にとっても、指導教授にとっても、周りの友人にとっても、「明るくて頼りになる、優秀な奴」でいることは、そう難しいことじゃなかったからだ。
けれど、面接官に「あなた自身が、この会社で本当に実現したい望みは何ですか」と問われると、いつも喉の奥が固まったように言葉が詰まる。
俺の望みって、なんだっけ。
息抜きのために歩いた恵比寿の夜気は、季節の変わり目らしくひんやりと冷たかった。
ガラス張りの高級レストランや、ハイヤーが横付けされるホテルの車寄せ。
洗練された街の明かりは綺麗だが、どこか自分とは無縁の場所のように思える。
そんな雑踏の片隅で、泣きじゃくる幼い子供と、その前で困惑したように立ち尽くしている同世代くらいの男の姿が目に留まった。
男は質の良さがひと目でわかるシックなコートを羽織っていて、いかにも育ちが良さそうだった。
綺麗に切り揃えられた柔らかそうな髪に、はっきりして品のある顔立ち。
けれど寒さと困惑のせいか少し肩を窄め、どこか背中を小さく見せて佇んでいる。
その小さく丸めた背中が、なんだかひどく不器用に思えた。
「……大丈夫ですか?」
声をかけると、男は弾かれたようにこちらを振り返った。
ぱっちり大きな、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳。
けれどその澄んだ目の奥には、自分の不手際を責めるような痛々しさと、どこか消えない影が深く落とされていた。
「あ、すみません……この子が急に泣き出してしまって。迷子だと思うのですが、どう対応するのが適切か……」
冷静を装おうと整えられた、低く落ち着いた声。
けれど指先がかすかに震えている。
俺は自分の背格好の大きさが圧迫感を与えないよう、自然と身をかがめ、子供の目線に合わせて大きく微笑みかけた。
目元をくしゃっと崩して話しかけると、子供の泣き声が少し小さくなる。
「大丈夫だよ、怖くないよ。お名前、言えるかな?」
警察に連絡を入れ、近くの交番で無事に保護者へ引き渡すまでの小一時間。
男はずっと俺の少し後ろに立ち、手際よく動く俺の姿を、どこか眩しいものを見るような目で見つめていた。
「念のため、お二人のお名前と連絡先を教えていただけますか?」
警察官にそう言われ、俺は財布から身分証として大学の学生証を取り出し、カウンターに提示した。
横に並ぶ彼も、後から静かにカードケースから免許証を出している。
ふーっと息をつきながら交番を出た後、俺はふと隣に立つ彼のこわばった肩に気がついた。
「冷えましたよね。ちょっと待っててください」
交番のすぐ隣にあった自動販売機へ向かい、あたたかい缶コーヒーを一つ買って戻ってくる。
改めて間近で男の顔を見て、俺はふと足を止めた。
はっきりと主張する鼻筋に、吸い込まれそうなほど丸くて大きな垂れ目。男の俺から見ても思わず目を引くくらい、パーツ全てが綺麗で整った顔立ちをしている。
なのに、どこか雰囲気に儚さがあって、小さく肩をすくめて缶コーヒーと俺の顔を交互に見つめてくる。
その不器用な佇まいに、 (……綺麗な顔してんのに、なんか放っておけないな) と柄にもなく引っかかるものがあった。
まっすぐ向けられる視線になんだか急に気恥ずかしくなって、俺は少し目を逸らしながら缶コーヒーを彼の手に押し付けた。
「……はい、これ。熱いんで気をつけてください」
「……ありがとうございます。あなたがいなかったら、どうなっていたか」
彼は缶コーヒーを両手で包み込み、少しだけ肩の力を抜いた。
ふっと目元を緩めたその静かな微笑みは、さっきまでの張り詰めた空気とはどこか違って見えた。
品のある綺麗な佇まいと、あの丸い瞳の奥にある、誰にも踏み込ませない冷たい場所。
なぜかその表情から目が離せなくなっている自分に、俺はまだ気づいていなかった。
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(jn視点)
息が詰まるような時間だった。
一族の長男として、集まった親族や取引先の重鎮たちに完璧な祝辞を述べ、完璧な笑みを振りまく。
皿の上に並ぶ見たこともない繊細な料理も、ヴィンテージのワインも、俺にとってはただの重石でしかない。
決められた未来、決められたお見合い、決められた人生。誰一人として「俺」を見てなどいない。
彼らが見ているのは、「一族の未来を担う長男」という看板だけだ。
耐えきれなくなって途中で会場を抜け出し、目的もなく夜の街を歩いていたところで、あの迷子に出会った。
どう接すれば正解なのか分からず動転していた俺の前に現れたのは、親しみやすい雰囲気を纏った男だった。
背が高く、オーバーサイズの服の上からでもわかるほどしっかりした体格で顔にも華がある。力強い佇まいをしているのに威圧感はまるでなく、太陽みたいな温かい光を纏っているような人だった。
彼は驚くほど自然に子供の心を開き、躊躇なく手を差し伸べた。
そして何より俺を打ちのめしたのは、彼が俺を見る目だった。
一族の影も、俺の背負う肩書も知らない。
ただの目の前にいる、困っている人間として対等に、当たり前のように言葉をかけてくれた。
ふーっと息をつきながら交番を出た後、彼は
「冷えましたよね」
と隣にいた俺に声をかけ、すぐ近くの自販機から温かい缶コーヒーを買ってきてくれた。
「……はい、よかったらどうぞ。熱いんで気をつけてください」
暗くて表情は窺えないがそっと手渡してくれたのは缶コーヒー。
手のひらから伝わる熱と、彼がくれた屈託のない温もりが、じーんと胸の奥まで広がっていく。
高級料亭で出てきたどんなお茶よりも、それは温かかった。
けれど、温もりに触れれば触れるほど、自分が帰らなければならない冷たい現実が際立ってしまう。
胸の奥に消えない悲しさと寂しさを抱えたまま、俺は上手く言葉を返せなかった。
交番のカウンターで「身分証明書をお願いします」と言われた際、彼は迷いなく財布から大学の学生証を取り出し、警察官に見せていた。
ちらりと見えた青いプラスチックのカード。
『〇〇大学大学院 』——。
書類へ記入する彼の力強く綺麗な文字と、カードの写真に写るまっすぐな笑顔が、なぜか強く印象に残った。
それから名刺も渡さず、連絡先も聞かないまま別れた。
けれど、金色の籠のような日常に戻った俺の頭から、あの日俺を「ただの俺」として見てくれたあのまっすぐな眼差しが消えてくれない。
…らしくないな。
数日後、偶然にもあの彼の通う大学院近くの関連会社への挨拶回りがあった。
そして、それは拍子抜けするほど早く終わった。
運転手に「少し調べ物をしてから帰る」と言い残してハイヤーを途中で降りたのは、半ば衝動的な賭けだった。
奇跡的にできた数時間の猶予。
逃せば次はいつになるか分からない。
失礼で、ストーカーじみていることは分かっている。
必死な思いで学生街を何時間も歩き回り、講義終わりの学生たちが吸い込まれていく古びたカフェの裏口で、バイトに勤しむ彼をついに見つけたのは、本当に奇跡に近かった。
コメント
1件
読了〜!!😭💕 太陽みたいな勇斗くんと、影を抱えた彼…迷子の子供きっかけの出会いとかエモすぎる!!缶コーヒー差し出すシーン、JN視点で『高級料亭のどんなお茶よりも温かい』って描写がもうズルいよ…!! ただの俺として見てくれたあの日忘れられなくて探しに行っちゃう切実さ、胸が痛い…! 続き楽しみにしてます!!🎀✨