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「…ないこ、朝やで起きろ」
カーテンの隙間から朝の光が差し込んで、部屋の中にやわらかな白が広がっていた。
『んっ、あれ……もう朝?』
「とっくに。朝食やで、そろそろ集合時間やって。みんな起きてるし、俺らだけ遅れんのは勘弁な」
『……うわ、ごめん……』
寝ぼけた顔でむくっと起き上がったないこは、ふと俺の方を見つめた。
まぶたの重そうな瞳の奥に、昨夜のことがぼんやり残っているようだった。
『ねえ、昨日の夜さ…まろ、なんか言ってなかった?』
「……」
「言ったかもな。でもないこ、途中で寝たやん」
『……そっか。やっぱり俺、寝ちゃってたよね。ごめん。なんか、大事そうな話してた気がして』
「気のせいや。まぁ、大事な話だったか
『そっか….』
ないこは寂しそうに、でも無理やり納得したようにうなずいた。
食堂では、みんなが賑やかに朝食を囲んでいた。 話すことはあるのに、言葉が選べなくて。 目を合わせるたび、あの夜の“なにか”が喉元で引っかかる。
帰りのバスの中。
疲れた生徒たちが眠り始める中、ないこと俺は並んで座っていた。
ないこは窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。
『楽しかったね、修学旅行』
「ああ、そうやな」
『なんか……時間、あっという間だった』
「……ないこが寝なきゃ、もうちょっと濃い夜になってたけどな」
『え?』
「なんでもない」
まろはごまかすように笑って、帽子を目深にかぶった。
その横顔をちらりと見て、けれどそれ以上は何も言わなかった。
眠るふりをしながら、心だけが妙に冴えていた。
バスは、夕暮れに染まりかけた町へ向かって進んでいく。
そして、俺の言葉はまたしても
ないこの胸には、届かないままだった。