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戦いは、終わった。
爆音は遠ざかり、
警報も、赤い表示も、すべて消えている。
ただ――
機械が冷えていく音だけが、
格納庫に残っていた。
⸻
シラヌイは、
格納庫の中央に静かに立っていた。
白い装甲には、
無数の擦過痕と焼け跡。
完全ではない。
だが、立っている。
それが今のすべてだった。
朝倉恒一は、
その足元に立ち、
見上げていた。
「……」
何も、言葉が出てこない。
戦った記憶はある。
斬った感触も、
避けきれなかった衝撃も。
けれど――
それが「誰のため」だったのか、
まだ、整理できていなかった。
悠人。
その名前が、
胸の奥で沈んだまま動かない。
⸻
《アマノハシダテ、
これより次の連邦軍基地へ向かう》
艦内放送が流れる。
淡々とした、
いつも通りの声。
戦艦はゆっくりと進路を取り、
高度を上げていく。
⸻
展望デッキ。
恒一は、
ガラス越しに地上を見ていた。
街。
いや――
学校のある一帯。
屋根が崩れ、
校舎の一部は黒く焼けている。
(……みんな……)
連絡は、まだ取れていない。
無事かどうかも、
分からない。
自分だけが、
ここにいる。
その事実が、
胸を締めつける。
⸻
「……朝倉」
後ろから、
声がした。
振り返ると、
神崎艦長が立っていた。
疲労は、
隠している。
だが、目だけは鋭い。
「戦闘は、よくやった」
恒一は、
小さく首を振る。
「……よく分かってません」
正直な言葉だった。
「命令されたから、
動かしただけです」
神崎は、
少しだけ目を細める。
「それでいい」
「今のお前は、
“分かる”必要はない」
恒一は、
艦長を見た。
「だが、
迷う時間は来る」
「その時に、
立ち止まるな」
重い言葉だった。
それでも、
突き放す響きではない。
⸻
恒一は、
少しだけ間を置いてから、
口を開いた。
「……艦長」
「基地に向かう前に……」
声が、
かすれる。
「少しだけ、
家に……寄れませんか」
理由は、
言わなかった。
言えば、
崩れてしまいそうだったから。
神崎は、
すぐには答えなかった。
数秒。
戦艦のエンジン音が、
低く響く。
やがて、
静かに言う。
「……進路を調整する」
「時間は、
多くは取れない」
恒一は、
深く息を吸った。
「……ありがとうございます」
それだけで、
十分だった。
⸻
戦艦《アマノハシダテ》は、
わずかに針路を変える。
次の戦場ではない。
次の命令でもない。
一人の少年が、
戻ろうとする場所へ。
⸻
恒一は、
もう一度、
地上を見た。
(……待っててくれ)
誰に向けた言葉か、
自分でも分からない。
それでも――
今は、それでよかった。
⸻
格納庫で、
シラヌイは黙って立っている。
次の戦いを、
何も語らずに。