コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「クククク……!! クカカッ、見よ、全て破壊されたぞ!」
「お見事なり。我ら魔導士がこれより始まるのですな!」
「バヴァルが残した魔導書程度でこの威力、容易い……クフフ」
「この女、どうする?」
「……人形としても最弱だが、レザンスを乱すに使える。ラクルに戻り、すぐに向かう」
黒衣の男の他に姿を見せたのは、影と言われていた男たち。一人は人間、もう一人は闇の魔物のような存在。短剣使いのヘルガを解放せず、ラクルに移動するつもりがあるとみえる。
おれが作り出した幻影魔法は、以前レザンスの魔術師が見せたものに近い。ルティたちには黒衣の男の姿が見えているだけの光景になっているはずだ。それはいいとして、ここはラクルとの距離が少しだけ離れている。
奴らごと一帯を消すとなれば、当然ラクルにも被害が及ぶ。しかしラクルに罪は無く、破壊する理由がない。
そうなると――。
考え込んでいると、近くでミルシェの姿が見えた。おれに手を振って、呼んでいるようにも見える。
そういえばヘルガにやられたはずじゃなかったのか?
おれは風魔法を解き、地上へと降りた。
「アックさま、お気づき頂きありがとうございますわ」
「短剣の女にやられたんじゃ……?」
「ウフフ、そんなはずがありませんわ。あたしはアックさまのお強さに依存していますのよ?」
「幻影魔法をかいくぐって来たのか?」
「いいえ。これもあなたさまの防御魔法のおかげで、幻影を弾くことが出来ていますわね」
それならおれが見た光景は何だったんだ?
「そ、そうか。ミルシェが無事で何よりだ。ところで、ルティたちにも依存が?」
「まぁ、あの子たちもあたしと同じ理由がありますけれど」
おれの強さに依存とは、魔石との関わりが強いということなのか。それなら何故苦しんでいたのか、それは後で聞くことにする。
「ミルシェ。奴らを消すに、何かいいやり方は無いか?」
「フフッ、アックさまのお悩みはそれでしたのね。あなたさまのお力では確かに手加減を難しくしていますけれど、それならいっそのこと思いきりやられてみては?」
「思いきり……どうやって?」
「ラクルだけを残したいのであれば、全て流してしまえばよろしいのでは? アックさまにはその存在が潜在されていますでしょう?」
「流す……あぁ、そうか。ここで使えるか、なるほど」
ミルシェの助言を聞いた上で、おれは潜在するラーナとシリュールを顕現させた。
そして、
「何っ!? ア、アック・イスティ!? 何故お前が見えている……? 確かに破壊したはずだ……」
「おれはあんたらと違って、不意打ちをするほど弱くないんでね。そういうわけで、消えてもらう」
「馬鹿め! お前の属性魔法なぞ――れ、霊獣!?」
ラーナとシリュールによって作り出された水流の渦が黒衣の男を呑み込む。渦に呑まれた存在を逃がすまいと、轟音を立てた大津波が男たちの頭上から覆いかぶさった。
「ギャアアアアアアア!! おおおおお、お助けぇぇぇぇ……!!」
海獣と霊獣が引き起こした≪タイダルウェーブ≫は、魔導士全てを押し流す。これにより東アファーデ湖村の手前と、ラクルの手前くらいまでの平地が大海原と化した。
「……は、派手にやってしまいましたわね」
「何だ、ミルシェの想像を上回ったか?」
「い、いえ、ですけれど、町や村へはどうやって戻られますの?」
「もちろん手は打ってある。まずは幻影魔法を解く。それからだな」
「さ、さすがアックさまですわ。あたしが王国にいる間にこんなお強さになっているだなんて……」
魔法の加減をするのは容易なことじゃなかった。それも含めて、もっと力を求めなければならない。
「いや、まだまだだ。とにかくルティたちと冒険者の所に行くぞ」
「かしこまりましたわ」