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親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から熱烈な愛を押し付けられる

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親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から熱烈な愛を押し付けられる

第11話 - 何かが違うことを知ってしまった【春】⑧

41

2025年01月29日

#ハッピーエンド

#ざまぁは少し

#じれキュン

#裏切り

#婚約者はクズ

#婚約破棄

当麻月菜

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当麻月菜

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クリスの護衛は、とても徹底していた。

何気なく歩いているようで、目は忙しなく周囲を警戒している。剣こそ抜きはしないが、その手はしっかり柄に添えられている。いつでも抜刀できるように。

といっても、街は至って平穏だ。耳を澄ましても、怒号も罵声も聞こえてこないし、何かが壊れたような破壊音も無い。

聞こえてくるのは活気ある人々の笑い声や、話し声。そして客に商品を説明する店主の元気な声や、行き交う馬車の車輪がカラカラと独特の音色を奏でているだけ。

春真っ盛りのルントンは、街中の至る所に花が飾られ、風が吹くたびに花びらが舞う。

歩道には、色違いの石畳が敷かれ、どこに目を向けても春の日差しに包まれた沢山の色彩で溢れかえっている。

そんな中、マリアンヌだけは、牢屋に連行されている気分でいる。

気分転換のために外に出たのに、今や早々に帰宅したくて仕方がない。彼の護衛を見ている限りでは、チョコレートを買った後も、自分が馬車に乗り込むまで見張っているだろう。

マリアンヌは、クリスに気付かれぬよう、小さく息を吐く。

すぐに背中に暖かいものが触れる。ジルが慰めてくれたのだ。

「ウィレイム様へ贈るチョコレートの種類は、お決まりですか？」

ジルに向けて薄い笑みを返していたら、振り返ったクリスから問いかけらた。

「いいえ。決めていません。お店の方に選んでもらおうと思いまして」

もともとチョコレートなど買う予定はなかったので、もしそうしていたらという仮定で答えると、クリスはこんな提案をした。

「では、差し出がましいようですが、一つおすすめがあります」

「どんなものでしょう？」

「ザッハプンシュです」

「……え？」

初めて聞く菓子の名に、マリアンヌは首を傾げた。

「強いお酒が入ったチョコレートケーキのことです」

クリスから補足され、マリアンヌは自分が知らなかった理由がわかった。

お酒を飲む年齢に達していない自分には、縁のない菓子だったのだ。だが、それを職場に差し入れにするのは如何なものか。

「大丈夫ですよ。あの程度なら、お酒の内に入りません」

「そう？……そうなのかしら……？？」

クリスは２６歳。成人した彼が、大丈夫というなら、大丈夫なのだろう。自分なら一口食べたら目を回してしまうと思うけれど。

社交界デビューをしたとはいえ、マリアンヌはまだ少女と呼べる年齢で、好奇心が強い。

（私も食べてみようかしら？）

クリスのせいで、せっかくの外出が台無しになってしまったのだ。それくらいは許されるだろう。

歩きながらそんなことを考えるマリアンヌだが、店の看板が視界に入った、その時──

「マリアンヌ様には、まだ早いですよ」

「た、食べたいなど一言も言ってません！」

思考を読んだようにクリスに忠告され、マリアンヌはムキになって言い返してしまった。

でも、クリスの表情は動かず、ジルに至っては、クスクスと笑っている。

マリアンヌはむっとした表情を浮かべた。

先日、彼から婚約祝いの言葉を貰えなかった時より、もっともっと露骨に。

クリスのこういうところが……いや、彼の全部がマリアンヌは苦手だった。

冷たい印象を与える美麗な顔も。背が高くて、近くにいると妙に威圧感を感じてしまうところも。表情も死んでいて、何を考えているのかわからないところも。

なにより、人の心を見透かすような言動が嫌だ。彼に言われると、腹が立つと言うより、敵わないと思ってしまうのだ。

ムカムカする感情を抑え込んで無言で歩き続ければ、すぐに目的地のロワゾー・ブリュに到着した。

「マリアンヌ様、どうぞお入りください」

扉を片手で開けたクリスは、完璧な仕草で店内へと手のひらを向ける。

店の中にいた女性たちが、ほぅっと溜息を零すのが、チョコレートの甘い香りと共に伝わってきた。

クリスの気がないくせに、女性たちを翻弄させる所作も、マリアンヌは苦手だった。