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親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から熱烈な愛を押し付けられる

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親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から熱烈な愛を押し付けられる

第12話 - 何かが違うことを知ってしまった【春】⑨

23

2025年01月30日

#ハッピーエンド

#ざまぁは少し

#じれキュン

#裏切り

#婚約者はクズ

#婚約破棄

当麻月菜

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当麻月菜

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店内に一歩、足を踏み入れた途端、不機嫌な気持ちなど、どこかに吹き飛んでしまった。

ロワゾー・ブリュのチョコレートは、マリアンヌが好きな菓子の一つだ。

他の店より、まろやかな舌触りと優しい甘さがとても好きで、お茶の時間にそれがお皿に載って現れるのが、とても楽しみだった。

けれど、いつも店から取り寄せるだけで、実際に自分の足で出向いたことはなかった。

「……なんて、素敵なお店なんでしょう」

マリアンヌは、気付けばそんな言葉を呟いていた。

オフホワイトと淡い桃色を基調とした店内は、とても可愛らしくて、ますますこの店のチョコレートが好きになる。

ショーケースに飾られている一粒一粒丁寧にデコレーションしたそれも、まるで宝石のようで見ているだけで気持ちが躍る。我ながら単純だが、ここへ来て良かった。

それから弾んだ気持ちのまま、ウィレイムに贈るチョコレートを選ぶ。

売り子のアドバイスを聞き、兄の味の好みを思い出し、悩んで選ぶ作業は骨が折れるが、とても楽しかった。

ジルに支払いを任せて、外に出る。マリアンヌは２つの包みを抱えていた。

一つは、ウィレイムに。そして、もう一つは、ジルへの贈り物。

帽子は拒まれてしまったけれど、甘いものなら、きっと嫌とは言わないだろう。

「気に入ったのがあったようで、良かったです」

「ええ。ご一緒してくださり、ありがとうございました」

マリアンヌは素直に礼を言った。

彼がいなくては、ザッハプンシュは購入できなかった。ジルもマリアンヌも童顔だから、売り子が売ってくれなかったかもしれない。

そんな気持ちで、もう一度お礼を言って頭を下げる。くすりとクリスが小さく笑ったのが気配で伝わった。

「とんでもないです。では、馬車まで送りましょう」

「……」

やはり、そうなってしまったか。ここで彼が去ってくれるのを期待していたのだが、そう上手く事は運ばない。

街での買い物が楽しいと知ってしまったから、できればもう少し、他のお店を見て回りたかった。

そんな気持ちでクリスを見つめれば、彼は聞き分けのない子供をどう諫めるか悩ます親の顔をしていた。これは、もう諦めるしかない。

「……馬車は、あちらに停めてます」

マリアンヌが指で示した方向を見て、クリスは僅かに眉を寄せた。

てっきり、広場に馬車を停めたと思っていたのだろう。

でも、指差した方向は真逆の場所。人混みの中を歩きたかったせいで、今日はかなり離れた場所に停めてもらったのだ。

（そこまでの説明をする必要は……ないわよね？ううん、わたくしがしたくはないわ）

納得できないクリスを避けるように、マリアンヌは身体の向きを変え、歩き出そうとした。

でも、できなかった。

レイドリックとエリーゼの姿を、見つけてしまったから。

二人は腕を組んで、ちょうどはす向かいの店──宝石店から出て来たところだった。

エリーゼは小さな化粧箱を手にして、レイドリックはエリーゼの腰に手を回していた。先日、馬車に乗り込んだ時と同じように。

微笑みながら見つめ合う二人は、どう見ても友達同士とは思えない。

心が、身体が、これ以上この光景を見たくないと叫んだ途端、マリアンヌの視界がぐらりと揺れた。

「マリー様！」

悲鳴に近い声でジルに名を呼ばれたと同時に、不安定になった足元が、突然、ふわりと浮く。誰かが、自分の身体を抱き上げた。

その相手が、誰だかわかった時には、既にマリアンヌは歩道にあるベンチに座っていた。

「……ご、ごめんなさい。ちょっと人に酔ってしまったみたいなの」

「馬車を呼んできます。少しお待ちください」

これまでにない程、硬い声でそう言ったクリスの上着を、マリアンヌは慌てて掴んだ。

「大丈夫、歩けるわ……でも、少し休ませて」

「ですが」

「大丈夫。お願いだから、ここにいて」

「……わかりました」

本当は、もう眩暈は治まっている。

馬車までは距離があるけれど、きっと大丈夫。ふらつかずに歩ける。でも今、動くのは困る。

なぜならレイドリックとエリーゼは、馬車を停めてある方向に歩いて行ったから。

ジルにもクリスにも、二人が恋人のように歩いているのを見られたくはない。

だからマリアンヌは、必死に気分が悪い演技を続けた。

何のために、そんな馬鹿みたいなことをしているのか、自分でもわからなかった。