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──私はこっそりと喜び満ち溢れる本堂を抜けて、一人渡り廊下にいた。
私と住職様。そしてお坊様達により抹茶ミルクティーを皆様に振る舞った。
皆様はとても喜んでくださり。私は材料がなくなるまで抹茶ミルクティーを作り続けた。色んな方に声を掛けられ、外国人の方には英語で説明したりと、大忙し。
本当は澪様、臣様とお話をしたかったが、私以上に人に囲まれていてそのような雰囲気ではなかった。
それも良いかと思い。
私は住職様だけに御礼を言ってから隙を見て、こうして本堂を抜け出したのだった。
空はすっかり青空から金色へと変わり、陽が落ち始めていた。空気もほんのりと夜の気配を含みつつあった。
ぐっと、背伸びをする。
「なんて良いお茶会だったのだろう。またこんなお茶会が出来たらいいな」
それはいつになるかわからない。
けど、私はこの場に留まれる身分ではないのだ。早く今日の寝床を決めないといけない。いや、お金に限りがらあるから野宿の方がいいかも。
桐紋の人達のことや、これからのことを考えるどうしても心細くはあるが──行雲流水。
今日のお茶会を私らしくやり切った。
お茶を通じて澪様と臣様を笑顔にした。抹茶ミルクティーの作り方は、澪様の家に置き手紙の中に作り方を記してある。何も問題はない。
もう、私がいなくても大丈夫なのだ。
「……もう行かなくちゃね」
次のお茶や出会いを楽しみして、今日の思い出を支えとして頑張って行こう。
そう思って庫裏へと戻ろうとした瞬間。
むんずと、首根っこを掴まれた。
「ひゃあっ!?」
「何が、ひゃあ、やねん。おい千里。どこへ行こうとした」
「み、み、澪様っ!? それに臣様もっ」
振り返ると紋付袴の凛々しいお二人が居てびっくりした。
「澪。そんなに乱暴に掴んではいけないよ。千里が驚いているじゃないか。でも、千里が逃げようとするなら仕方ないのか。俺も掴ませて貰うよ」
そう言うと臣様ががっしりと私の両手首を掴んだ。
な、なんだこれ。
後ろに澪様。前に臣様。
捕まってはいけない人達に捕まってしまった気がした。
「な、何をなされるのですか。お二人とも。本日の主役がこんなところに居たら、皆様が心配されます。どうぞ、本堂にお戻りをって、首っ。澪様っ、首が擽ったいですー!」
「煩い。やかましい。静かにしろ。ほんま、お前には言いたいことが山ほどあんねん。やのに、いきなりどっか行こうとか生意気すぎる」
「だ、だって。お茶会終わったから、私は家を出るって約束をしたから……! これから野宿する為に、良い場所を探しに行かないとダメなんですからっ!」
私の言葉に臣様が慌てた。
「野宿!? 女の子が野宿なんて物騒だ。俺の家に来なさい。俺も千里と話したことは沢山あるからね」
「兄上、ちょっと待ち。勝手なことを言うな。千里は僕の家に戻す。大丈夫やから」
ぐいっと澪様が私の体を自分の元へと引き寄せる。
「じゃあ、澪も来なさい。俺は澪とももっと話したい。そうだそれがいい」
「兄上の家って、両親いるやろ! さっき二人から謝られたけど、それでも居心地悪いわ! って、はははって爽やかに笑うな!」
グイグイと距離を詰める二人。
しかし私はその間にいる訳で、二人に挟まれてちる。高身長のお二人。しかもその姿は麗しい。
良い香りまでする。
なんだかとても落ち着かなくて、力づくでえいっと、二人の間から逃げだして。その場でくるっと二人に振り返る。
「お、お二人のお気持ちはありがたいです。私もお話したいことは沢山あります。でも、私は……追われている身なのです。私はお二人が大事だから、迷惑を掛けたくありません。だから、どうか引き留めないで下さい……!」
なんだろう。
さっきまで嬉しい気持ちだったのに、お二人を前にするとまた泣きたくなってきた。
過ごした時間の長さや短さなど関係ない。
別れとはかくも辛いものだと。はっきりと感じたとき。
澪様がすっと私へと手を差し伸べた。
「千里。迷惑とか思ってないから帰っておいで。僕と兄上が千里のことを守るから」
「……!!」
同じく、臣様も手を私へと伸ばす。
「千里。君は俺達兄弟の恩人だ。恩人を放り出すなんて俺達は出来ない」
「でも、わ、私」
澪様が首を横に振り。微笑んだ。
「一期一会の出会いやろ? それ以上水臭いこと言うな」
さらりと風が吹いて。
私の瞳から涙が一粒流れた。
「あっ……」
頬に手を当てる。
本当は一人になるのが心細かった。
一人は寂しい。
それでも、差し出された手を掴んでいいのもわからなかった。
涙に濡れた手を抱きしめて、お二人を見つめる。
「わ、私は、本当に──ここに居てもいいんですか?」
「当たり前やろ」
「もちろんだ」
優しい二人の声が重なった、瞬間私は前へと一歩を踏み出していた。
「っ……み、澪様ぁ! 臣様っ!」
二人の手を取り、ポロポロと涙を流した。
お二人の心と手の温もりに何を言っていいか分からず。
お帰り、とお二人に優しく言われて。
いつまでも涙が頬を伝うのだった──。