テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
・ご本人様関係ありません
・アンチやめてください
6話
次の日から、葛葉は明らかに変わった。
ローレンに直接声をかけることが減り、
用事は他の使用人を通して伝えられるようになった。
同じ屋敷にいるのに、視線が合わない。
距離を置いている。
意図的に。
ローレンは、すぐにそれに気づいた。
(……怒ってる?)
いや、違う。
怒りなら、もっと分かりやすい。
これは――避けられている。
理由が分からないまま時間だけが過ぎる。
拒否しても大丈夫な場所だと分かっていたはずなのに、
胸の奥に、じわじわと冷たいものが広がっていった。
庭で誰かと話していても、
書庫で本を読んでいても、
頭の片隅に、葛葉の姿が浮かぶ。
以前は、そこに「いる」のが当たり前だった。
ある夜、ローレンは眠れず、
無意識のうちに葛葉の部屋の前まで来てしまう。
――呼ばれてもいない。
――命令もない。
扉の前で立ち止まり、拳を握る。
(……また、勝手に期待してる)
それが一番怖かった。
翌日、ローレンは思い切って声をかけた。
「葛葉、、、様」
振り向いた葛葉の表情は、穏やかだった。
だからこそ、胸が締めつけられる。
「何か用か」
その距離感は、以前よりずっと遠い。
「……俺、何かしましたか」
一瞬、葛葉の目が揺れた。
「いや」
即答だった。
「お前は、何もしていない」
それが答えになっていないことを、
二人とも分かっていた。
「なら……」
ローレンの声が、わずかに震える。
「もう、そばにいちゃいけませんか」
その言葉は、
拒否ではなく、不安そのものだった。
葛葉の喉が詰まる。
――これ以上、近づけば。
――離れれば、こんな顔をさせる。
守るために引いた距離が、
別の傷を作っている。
葛葉は視線を逸らし、低く言った。
「……俺の問題だ」
「お前を遠ざけたいわけじゃない」
ローレンは一歩近づいた。
「でも、遠い」
その一言に、葛葉の手が強く握られる。
ローレンは続ける。
「拒んでも大丈夫だって、
ここにいていいって、
そう思えるようになったのは……」
一度、言葉を飲み込む。
「葛葉様が、いたからです」
沈黙が落ちた。
葛葉は、ようやくローレンを見る。
そこには怯えだけじゃない。
失うことを恐れる顔があった。
自分が、どれほど大きな存在になっていたか。
その重さを、初めて真正面から突きつけられる。
「……すまない」
葛葉の声は、静かだった。
「離れることで、守れると思った」
「だが――」
言葉が途切れる。
ローレンは、逃げなかった。
「離れないでほしい」
命令でも、依存でもない。
選び取る声だった。
葛葉は、深く息を吐く。
距離を取ることが正解だと思っていた。
だが、完全に離れることは、
ローレンの自由ではなく、孤独を生む。
「……少しずつでいい」
葛葉はそう言った。
「俺は、間違えないようにする。
だからお前も、嫌なら言え」
ローレンは、ゆっくりうなずいた。
「言います」
その返事に、
葛葉の胸の奥の緊張が、わずかにほどけた。
二人の距離は、まだ不安定だ。
けれど今度は、
離れることも、近づくことも、言葉で選ぶ場所になり始めていた。
ご愛読ありがとうございます♪
続きます。