コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
____四月十七日。午後十六時四十分。ビッグボード国の城下町に到着したナオトたちは、お姫様がこんなところを歩いていることが国民にバレないように、お姫様に黒いローブを着せると、お城に向かって歩き始めた。
「しっかし、ここは俺たちが見てきた町とは違うな。賑やかというか、活気があるというか」
「他国との連携がうまく取れれば、このような素晴らしい町になります。ちなみに初代国王である私《わたくし》の先祖がこれを一代で築きあげました」
「ふーん、なるほどな。でも、エリカはこの国のお姫様なんだろ? いずれはこの国を引っ張っていかなくちゃいけなくなるけど、そのあたりはどう考えてるんだ?」
「そうですね……私《わたくし》には、お父様のような威厳もお母様のような功績もありませんから、正直、この国を引っ張っていけるとは到底思えません」
「そうなのか、お姫様も大変なんだな」
「はい、何かと苦労しています」
ナオトとエリカ姫がそんなことを話していると、銀色の鎧を纏《まと》った兵士たちが彼らに突進するかのように全速力で向かってきた。
「あちゃー、これはまずいかもしれないな。なあ、ブラスト。なんとかできないか?」
「ん? ああ、構わないぞ」
「よし、じゃあ、よろしく頼むぞ。あー、あと、わかってるとは思うが……」
「誰も殺すな……だろ?」
「ああ、そうだ。じゃあ、先に行ってるから、また後でな」
「おう! ここは俺に任せて先に行け!」
斧使いの『ブラスト・アークランド』はそう言うと『|大罪の力を解放する斧《トリニティブラストアックス》』をどこからともなく出現させ、戦闘態勢に入った。
「エリカ、先に謝っておくぞ。ごめん……!」
「えーっと、それはいったい……って、きゃあ!」
ナオト(『第二形態』になった副作用でショタ化してしまった身長『百三十センチ』の主人公)はエリカ姫をお姫様抱っこすると、名取《なとり》と竜人《リザードマン》の『ドライ・チェイサー』と共に、店の屋根の上を走り始めた。
「おい! 向こうに逃げたぞ! 捕まえろ!」
兵士の一人がそう言った直後、ものすごい風圧が兵士たちを襲った。
「お前たちをここで食い止めるように、あいつに頼まれたからな。少しの間、付き合ってもらうぞ」
ブラストは肩に斧をかけながら、ニシリと笑った。
「こいつはまずいな。よし! 二手に分かれるぞ!」
『おおーー!!』
十五人は、ここに残り、あとの十五人はナオトたちの方へと向かった。
「なるほど、そうきたか。しかしな!」
ブラストは斧を思い切り振り下ろして、竜巻を発生させると、その十五人にだけ当たるように調整した。
「に、逃げろー!!」
『う……うわああああああ!!』
ブラストは彼らを倒すと同時に、店の屋根の上に飛び乗った。
そして、ナオトたちと早く合流するために走り始めた。
*
その頃、ナオトたちは……。
「待てー! 漆黒の堕天使! おとなしく投降《とうこう》しろー!」
「あいつら、二手に分かれやがったのか。まあ、予想はしてたけど……」
「おい、ナオト。ここは、俺に任せてくれないか?」
店の屋根の上をエリカ・スプリングというこの国のプリンセスをお姫様抱っこしながら走っているナオトに竜人《リザードマン》の『ドライ・チェイサー』はそう言った。
「え? いいのか?」
「ああ、大丈夫だ。ついでに暗殺者としての自分の実力を確かめておきたいからな」
「なるほど。お前は実践の中で己《おのれ》を磨いていくやつなんだな。よし、わかった。でも、誰も殺すなよ?」
「ああ、任せておけ!」
ドライは店の屋根の上から飛び降りると同時に腰にぶら下げている二本の剣を抜いた。
「さぁ……始めようか……!!」
ドライはそう言うと十五人の兵士たちを華麗に倒していった。
*
その頃、ビッグボード城では……。
「ハイド様! 漆黒の堕天使の仲間と思われる者たちが偵察に出した兵士たちを次々に倒しているという情報が入りました!」
「なんだと! やつは一人でここにやってきたのではないのか!」
「はい、そのようです!」
「『漆黒の堕天使』め! 私に『聖剣スターブレイカー』の秘められた能力を教えたのは、ここを襲撃した際に私と本気で戦いたかったからか!」
長い黒髪を白い紐で縛ってポニーテールにしている『ハイド・シューティングスター』は怒りのあまり、『聖剣スターブレイカー』で高そうな壺《つぼ》を割ろうとした。しかし……。
「やれやれ、外がこう騒がしくては、オチオチ眠れたものではないな。して、これはいったい何の騒ぎだ? ハイド補佐官」
「こ、この声は……! 国王陛下!!」
説明しよう! ハイドはエリカ姫の補佐官の一人であるため、国王には頭が上がらないのだ!
「いかにも。私はビッグボード国、国王。『ガダル・スプリング』だ。して、ハイド補佐官よ。私の娘はどこにいるのだ?」
※風魔法で連絡しています。
「そ、それはですね……ハイノウ国に散歩に出かけられたまま、未《いま》だに行方不明でして……」
「ふむふむ、なるほど、なるほど。では、即刻、我が娘『エリカ・スプリング』を私の前に連れて参れ。これは命令だ。わかったな?」
「は、はいっ!! あなた様の仰せのままに!!」
「うむ、では頼んだぞ」
ハイドは国王との会話が終わると『聖剣スターブレイカー』を抜いた。
そして、その切っ先を天井に向けるとこう言った。
「もうじき、ここに『漆黒の堕天使』がやってくる! しかし、恐れることはない! なぜなら、やつは誰一人として殺すことができないからだ! すなわち、我らの力を結集すれば、やつの首を取ることなど造作もないということだ! さあ! 行《ゆ》くぞ! 勇敢な兵士たちよ! 祭りの前だろうと関係ない! この国の平和のために、今こそ立ち上がるのだ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
ハイドが率いる兵士の数は百人だが、一人一人に特別な強化魔法をかけているため、手練《てだ》れの暗殺者でも殺すのは容易ではない。
「さあ! 堕天使狩りの始まりだ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
ハイドは味方の士気を上げられるだけ上げると、城下町に向けて進軍し始めた。
*
その頃、ナオトたちは……。
「ブラストとドライのおかげでかなり前に進めたけど、なんか城の中からうじゃうじゃ兵士が出てきたな」
店の屋根の上を走りながら、そんなことを言ったナオトに対して、エリカ姫はこう言った。
「おそらく、あの兵士たちは特殊な強化魔法をかけられています。なので、油断しないでください」
「な、なんだそれ……。いったいどんな魔法なんだ?」
「私《わたくし》も噂《うわさ》でしか聞いたことがありませんが、その魔法をかけられた者は大将がやられない限り戦い続ける鬼と化すそうです」
「鬼ねえ。でも、もしそれが本当なら、その魔法の効果を打ち消さないといけないな」
「魔法の効果を打ち消す? そのようなことができるのですか?」
「いや、俺はできないよ。けど……お前なら、できるよな? 名取《なとり》」
「ああ……任せておけ」
名取《なとり》 一樹《いつき》。名取式剣術の使い手で名刀【銀狼《ぎんろう》】の所有者。
ナオトの高校時代の同級生。前髪で両目を隠しているのは、人見知りだから。
いつも途切れ途切れに話すが、武器のことになるとよく話す。存在感が薄い。
「よし、それじゃあ、頼んだぞ! 名取!」
「了解……」
名取はそう言うと、城の中から出てきた百人の兵士のところへ向かった。
*
「国民たちよ! 堕天使狩りの邪魔をしたくなければ、道を開《あ》けよ!」
ハイド・シューティングスターはそう言いながら、城下町を特殊な強化魔法をかけた百人の兵士たちと共に駆け抜けていた。すると……。
「ここから先は……一歩も……通すわけには……いかない。あいつと……約束……したからな」
彼らの前に突如として現れたのは、全身に黒い服を纏《まと》った剣士だった。
なぜ両目を前髪で隠しているのかはわからなかったが、彼の周囲に漂っているオーラがそこらの盗賊とは桁違いだということはわかった。
「貴様は何者だ! 答えようによっては、ここで斬り捨てるぞ!」
ハイド・シューティングスターの言葉を聞いた名取はそれを無視して居合の構えをすると、意識を集中させた。
「おい! 聞いているのか! 返事をしろ!」
「…………」
「ふん! 時間稼ぎのつもりなら、やめておいた方がいいぞ? なにせ、ここにいる百人の兵士には、私が倒されるまで戦い続けなければならなくなる特殊な強化魔法をかけてあるのだからな!」
「……それが……どうした?」
「……なに?」
「お前を倒すのは……正直、難しい。けど……ザコ百人程度なら……どうにでもなる」
「ふん! ならば、望みどおりにしてやろうではないか! 皆の者! 進めええええ!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
ハイド・シューティングスターはその場に留まり、他の兵士たちは一斉に名取に向かって、進み始めた。
普通なら、ここで一旦、敵の足並みを乱すために、なにかをする。
しかし、名取はそれを一度もしたことがない。なぜなら、近づいてくれた方が好都合だからだ……。
「名取式剣術……壱の型一番……」
名取はそう言うと、一気に刀を引き抜き、兵士たちに向かって斬撃を飛ばした。
兵士たちは特殊な強化魔法をかけられているから、どんな攻撃を受けても大丈夫だと過信して、それを避けなかった。
しかし、それこそが大きな間違いであった……。
『………………!!!』
百人の兵士たちは突然、気を失い、バタバタと倒れた。
何が起こったのかハイドにはわからなかった。
兵士たちには、特殊な強化魔法をかけていた。
だから、普通の攻撃が効くわけがない……。
しかし、今のが普通の攻撃ではなかったとしたら。
彼が混乱していると、名取は刀を鞘《さや》にゆっくりと収《おさ》めた。
それと同時に名取はこう言った。
「『効果《こうか》抹消斬《まっしょうざん》』!!」
この技は名前の通り、相手が発動している全ての効果を抹消する。
つまり、彼のこの技をくらうと、一時的に一般人程度の力しか出せなくなるのである。
「き、貴様はいったい何者だ! 他国に雇われた暗殺者か!」
「たしかに……俺は……暗殺者だ。けど、今は……俺の一番大切な人を守るだけの……一振りの刀だ」
「そうか……ならば、我が野望のために死んでもらうぞ!」
「残念だが……今のお前では、それはできない……」
「なんだと? この私の持つ『聖剣スターブレイカー』が貴様に劣《おと》るとでもいうのか?」
「いや、そうじゃない。俺が言いたいのは……」
その時、屋根の上を走りながら、名取の方を見て頷《うなず》いた者がいた。
四枚の黒い翼を背中に生やし、尾骨から先端がドリルになっているシッポを生やし、黒い鎧を全身に纏《まと》っている黄緑色の瞳の少年。(変装用の赤いマントは道中に、その辺にいた少年にプレゼントした)
そう……それはまさしく『漆黒の堕天使』であった。
「あ、あいつは……!」
「じゃあな……聖剣使い……」
「あっ! こら待て!」
名取はハイドの言うことに耳を貸さなかった。
彼はナオトの後を追うために、店の屋根の上に上がった。(そのあとにブラストとドライが続いた)
「おのれ……『漆黒の堕天使』め! 許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ハイドは城に向けて、全速力で走り始めた。ちなみに兵士たちは全員無傷であった。
それこそが名取式剣術の特徴である。
なにせ、斬るのは人ではなく効果なのだから。