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セシルはペンダント型アーティファクトの解読に集中していて、その騒ぎに気付くのが遅れた。
「これは……」
アーティファクトを手に取って、間近に眺めるセシル。
その桃色の瞳が何かに気づいて細まった。
「まさか……そんな」
視線はアーティファクトに集中しながら、紙の上ではペンが躍る。
彼女は周囲の喧騒にまるで気づいていない。
爆発音も、廊下の足音も、全て意識の外にあった。
「どうだった」
「何者かが魔法剣士学園を襲撃しています」
「魔力が使えんとなると、下手に動けんな」
二人の騎士の会話すら、耳に入らなかった。
「まさか……まさか……」
それほどまでに、彼女はアーティファクトに集中していた。
普段から彼女は研究に集中すると周りが見えなくなる性質を持っているが、いつもはここまでではない。このアーティファクトには彼女の意識を奪う重大な何かがあったのだ。
カリカリと羽根ペンが動く。
桃色の瞳は、もうアーティファクトの真実に、あと一歩まで迫っていた。
その時。
突然、窓が吹き飛び、研究室に一人の黒ずくめの男が乗り込んできた。
ガラス片が、シエルの頬を少し切った。
「いたっ……!?」
「何者だ!」
二人の騎士が剣を構える。
頬の痛みに、シエルはようやく状況に気づいた。
「え? え?」
シシエルはアーティファクトを抱えて机の下に隠れた。
そっと頬を撫でると、少し血が付いた。
「やり過ぎだ、ヤミー」
「へーへー、すいませんね」
そこには巨大な男と、白いく細身の男がいた。
巨大な筋肉の塊のような男、ヤミーは騎士たちに目を向けると、面倒臭そうに問いかける。
「なんだァ、お前ら。シファァァ、こいつらか?」
「馬鹿が、霊圧を持ってないだろう。もっとお前は探査神経を鍛えろ。ゴミだ」
「チッ、くだらねぇ。じやあ潰れちまえ」
バッ!! とシエルの顔に真っ赤な液体が降り掛かる。同じくして、どちゃりと、地面におちる肉の音が響いた。
ただ手を振るった。それだけで二人が死んだ。
「ひっ」
シエルは身を隠して後ずさる。
「アンダージャスティスと、あー光の帝国? ってやつらどこにいるんだ」
「話ではこの建物にいる。戦えるのは三人らしい。キルゲ・シュタインビルド、アイリスディーナ、 黒崎創建だ」
「んゃやあこんなちまちましてないで建物ごと吹き飛ばしちまえば良いじゃねぇーか。死なねぇーんだろ、そいつら」
「アーティファクトの回収も任務だ。忘れるな。来たいとわがまままを言ったのはお前だぞ」
「へいへい」
同じくして黒服が現れる。
「なんだ、この状況は? その肉塊は騎士様か?」
「シファ、コイツか?」
「ゴミだ」
「俺はアンダージャスティスのレッガピッ!?」
ぐしゃり、と。
黒服の男は叩き潰された。
「ここはどうやらアーティファクトの研究室のようだな。女。お前が研究者か?」
「あ……っ……ああっ」
「恐怖で喋れんか。その手に持っているものを寄越せ」
「はひっ、駄目、です、これはっ」
「そうか、なら死ね」
青い光の矢がシファーと呼ばれた白い細身の男の腕に直撃して吹き飛ばした。
「女の子相手に、バカでかい霊圧二人で脅迫か。底が知れるな、魔物」
「殲滅師……お前は誰だ」
「黒崎創建。覚えなくて良い。どうせすぐに忘れることになる」
「そうか、思い上がったものだ。そこまでくると滑稽も通り越して哀れなものだ」
黒崎創建の背後からヤミーの剛腕が迫る。しかし黒崎創建は瞬間移動でその攻撃を躱して、ゼーレシュナイダーで切り裂かれ、そしてそのままシエルを回収して距離を取る。
「うおおおおお!? 俺の腕が!?」
(馬鹿が、だから探査神経を鍛えろと言うんだ。力量のわからない相手に飛び出しやがって。しかしあのガキ、ヤミーの硬皮をいとも容易く切り裂くとは。途轍も無い霊圧硬度だ)
黒崎創建は震えるシエルに優しく問いかける。
「大丈夫かい?」
「は、はい」
「そうか、なら安心すると良い。ここから先に彼らを行かせない。僕の後ろにいる限り、君の安全は保証される」
右手に弓型の霊子兵装、左手にゼーレシュナイダーという魂を切り裂く刃。
不敵な笑みを浮かべて立つ白い服の姿の彼にシエルは目を奪われた。
「テメェええ!」
「待て、ヤミー。ここは俺が行こう。解放してないお前では勝てん」
「聞き間違いかな、君なら勝てると言っているようだけど?」
「そう聞こえないのなら、自分の耳か頭を疑った方が良い。
瞬間移動。
空間転移。
お互いの姿がかき消えた。
互いに迷いなどない。互いの目でしかと観察し、その体幹を把握し、膂力と敏捷を理解。敵に向かって疾走し、一瞬で接触範囲に到達。振われるは、細く白い腕と魂を切り裂くの一太刀だ。
ガギイィン、と鈍く轟く剣戟音。
一番前に黒崎創建は立ち塞がり、シファーの一閃を食い止めた。
だがシファーの手刀は全く動じずに再度振るわれ、それもまた弾き流す。理性のある暴力は一切止まらず振るわれ続け、しかし殲滅師の刃もまた一切澱みなく弾き逸らす。その場から動くことさえせず、完全に凶暴性のまま剣を振って振って、振るい続ける削岩機のような暴威を流し切った。
瞬間―――尚更に力んだ一刀を、黒崎創建は大きく弾き飛ばした。
合気道にも似た受け流しは体を支える体幹を完全に崩し、黒崎創建は何ら迷わず敵の心臓へ楔丸を串刺した。
しかし、先端が皮膚に刺さらず。肉を貫き、臓腑を抉るに及ばず。相手がそう言う類だと一太刀で悟った。巨人もまた刺される事を何ら躊躇することなく、次の一手を迷わず振った。
細腕の手刀の直撃―――
「黒崎さん……!!」
消える。
青い光の火羽を舞いながらも、黒崎創建はシファーの上空へ舞い上がっていた。による超高速で幻とし攻撃を回避する―――だが、それで終わる黒崎創建ではない、
右手に光る弓にゼーレシュナイダーを番える。空中にいる状態で刃に凶悪なまでの切れ味さえ感じる念が込められ、青い霊子が諸刃から溢れ出す。その刃は悪魔を殺すことは出来ぬが、放たれる刃の連撃は一瞬とは言え確実な隙を生み出した。
「光の雨/リヒト・レーゲン」
空から落ちる力のままに蒼い弓矢はシファーの体の硬皮を斬りつける。だが致命打にはならない。
「その程度か?」
「ゼーレシュナイダーは剣じゃない。相手の体を切り付け、更にその傷口から霊子を放出させやすくする武器だ」
傷は浅い。しかしそれは黒崎創建はそれも百も承知。だがそれで終わらず、黒崎創建は、霊子が詰まった銀色の小瓶を投げる。
霊子は檻のようにシファーを閉じ込める。
「くだらん」
「破芒陣/シュプレンガー」
ボンッ!! と霊子の高圧縮による大爆発を引き起こした。そして、黒崎創建に油断はない。命を拝むにはまだ早い。並の生物ならば、光の雨と破芒陣(シュプレンガー)で爆発されれば死ぬが、黒崎創建はそう思えず、神聖滅矢で、確実な死を与えるべく、その弓矢に霊子を固めて撃ち放つ……寸前だった。
「なっ!?」
「これは……」
「んだぁ!? こりゃあ!?」
巨大な霊圧が吹き荒れて、空が割れる。
それは異形の降臨だった。
全身が黒い布のようなものに覆われ鼻の尖った仮面を着けて、胸には大きな穴が開いている。3種類に大別される大魔物の中で最も数が多く、外見での個体差は見られない。それら全てが高層ビルに匹敵するほどの巨大な体躯である。
「俺達の霊圧の衝突によって呼び寄せられたようだな。アーティファクトは確認した。任務は終わりだ、低くぞヤミー」
「逃げるのか?」
「その挑発の意味はないな。この大魔物の群れとゴミどもを守りながら戦うお前。どちらに分があるかわからないわけではないだろう」
「……」
「次に遭うまでに強くなっておけ。俺が殺すに値すると感じるまでにな」
そういってシファーとヤミーは世界の割れ目を開いて消えていった。
「助かった……?」
シシエルが呟く。
しかし石田は汗を流した。
「この数の大魔物は、流石に手が回らないぞ」
手が回らない。
勝てるが、犠牲が出る。
そう思ったときだった。再び凄まじい霊圧を黒崎創建が感知する。
黒崎創建は笑った。
「キルゲさん……完全殲滅形態なったのか!」