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カーテンの隙間から射し込む朝の光が、じんわりとまぶたに触れた。
ロウの家でお泊まりした翌朝。昨日は夜更かしして一緒にゲームして、そのまま並んで寝落ちしてしまった。
――けれど。
目を覚ました瞬間、下腹部にじんわりとした重たい痛みが走った。
嫌な予感がしてそっと身体を動かす。足の付け根が、いつもより妙に湿っていて――心臓がドクンと跳ねた。
(……嘘……来ちゃった……?)
そっと布団をめくると、シーツに赤い染みが広がっている。
視界が一瞬で冷たくなった。ロウの家のベッド、ロウのシーツ。よりによってお泊まりの朝に。
(どうしよう……最悪……)
声を出す勇気がない。
それどころか体調もどんどん悪くなっていく。生理特有の下腹部の重みと、腰の鈍い痛み。寒気までして、全身の力が抜けていった。
その時――
「……ん、朝……?」
隣で寝ていたロウが、寝ぼけた声で起き上がった。寝癖だらけの髪、少し擦った目。
いつも通りのロウの姿が、今だけはやけに怖い。
「……ロウ、おはよ……」
「んー……おはよ。……顔色、悪くね?」
ロウがこちらを覗き込む。その目が優しいからこそ、言えない。
「だいじょ……ぶ。ちょっと寝不足で……」
笑おうとした瞬間。
痛みがズキッと響いて顔が歪む。
「嘘つけ。いま痛かったろ。……どこ?」
「……なんでもないって……」
言い切れない。
ロウが布団を少しめくってこちらの体をそっと見た、その瞬間。
視線がシーツの赤い染みに止まった。
――終わった。
呼吸が浅くなる。涙がにじむ。
「……あー……そういうことか」
ロウの声は静かで、落ち着いていて、怒る気配なんて一つもなくて。
「ちがっ……ご、ごめん……!ほんとに、今朝急にで……ロウの家なのに、汚しちゃって……!」
焦りと恥ずかしさで涙がこぼれそうになる。
けれどロウは、ため息さえつかずに柔らかい手で頭を撫でた。
「なんだ、そんなことで泣くなって。
……仕方ねぇだろ。汚れたら洗えばいいだけだし。気にしてんじゃねぇよ。」
「で、でも……」
「“でも”じゃない。痛ぇんだろ? まずそっちだよ」
驚くほど優しい声。
ロウはベッドから降りると、クローゼットから替えのタオル、洗剤、黒いスウェットを持ってきてくれた。
「ほら、着替え。ゆっくりでいいから。俺、シーツ外しとくからさ」
「自分でやる……!」
「お前が動いたらもっとしんどくなるだろ。いいから座ってろって」
逆らえないほど穏やかな言い方だった。
ロウは淡々とシーツを外して、汚れに洗剤をかけて、何も気にしていないように動く。
その姿を見ているだけで胸が熱くなった。
着替えようと立ち上がろうとした瞬間、腰にズーンと鈍痛が走って膝ががくっと落ちる。
「っ……!」
「おい、無理すんな」
ロウがすぐに抱きとめてくれる。
温かい腕が腰にまわる。
「……痛いの我慢してたろ。顔色やべーよ」
耳元で、低く優しい声が落ちる。
「まずは横になれ。俺、薬と温かい飲み物持ってくるから」
「……言えなくて、ごめんね……」
「言えないもんだって知ってるよ。
でも、これからは言えよ。お前が困るくらいなら、俺なんでもするからさ」
その言葉が胸にしみて、涙がぽろっとこぼれた。
「泣いてんの?」
「……泣いてない……」
「いや泣いてるわ。ほら、タオル」
ロウはそう言いながら、頭をぽんぽん叩いてくれた。
その手があまりにも優しくて、また涙が出る。
「今日は一日、俺が全部面倒見るから。
動くの禁止な。いい?」
「……うん……」
「よし。いい子」
ロウはそう言って微笑むと、キッチンへ向かった。
その背中を見ながら、胸の不安がじんわり溶けていく。
――ロウといる朝は、こんなにもあたたかいんだ。