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ドラコ!サンドイッチ食べてもいい?」
真ん中にある大きな噴水、草原に覆われた静かな公園に
いい歳をした成人男性2人が公園でピクニック。
そんな馬鹿な話あるか!と一喝して1歩も動かないという選択肢を選ばなかったあたり、ドラコも随分ハリーに絆されてしまっている。
こうして穏やかな表情を浮かべてピクニックをしているところなんて、親友たちが聞いたらマーリンの髭、青天の霹靂どころじゃないだろう。
「あぁ、好きなだけ食べるといい」
そう言って嬉しそうに笑ったドラコに釣られて笑みを零す。
閉心術が得意な彼は表情に思っている事が出にくく、揉めた回数も数しれず。
──だったのが嘘のように表情を崩すようになった。
そんなドラコの変化に浮かれてしまう。
大きな木の下でドラコが詰めたバスケットを広げる。
ハリーの好きなジャムの匂いが鼻腔をくすぐり、頬が緩まった。
「はい、ドラコも」
「あぁ」
ふと、腰を下ろした木の根元のそばを見ると数輪、花が咲いていた。
ピンク色の花弁を持つ花。
何処かで見たことがあるような
──そうだ。
マグルの世界で暮らしていた頃、公園で見たことがある花だ。
あの公園では自然にではなく栽培されていたようだったが。
ここにも以前からあったのだろうか?
ピンクの花弁はハリーの視線を追ったドラコの目にも止まったようだ。
「オステオスペルマムだな」
「え、ドラコ分かるの?」
「あぁ…植物についての知識は豊富だと自負している」
家を追い出されたあの日、
公園にいた僕に声を掛けてくれたひとが、この花を摘んでなにかしていたはずだ。
ひらり、舞う花びら。
何度も繰り返される、ことば。
誰かの気持ちを占う──そう。
「ドラコは花占いって知ってる?」
「…聞いた事がないな」
「花びらで嫌い、好きって占うんだよ」
マグル界でのことは言わないでおく。
僕の恋人はとてもとても嫉妬深いのだから。
花占いの目的に思い至ったのかドラコは不思議そうな表情を浮かべている。
「……もう付き合っているのにか?」
「でもやってみたかったんだよ」
そう言って花弁の多そうな花をひとつ、摘む。
引いたピンク色の花弁はひらり、ひらりと宙を舞う。
嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き……嫌い
…嫌い
「嫌いだな」
何故かほらみろ、とでも言いたげに口角を上げているドラコ。
こういうときはスリザリンなんだ。ふぅん?
「いやいやまだ茎があるから。ほら!好き!」
最初から結果を求めていた訳では無かったが 嫌いが出ると少し凹んでしまう。
…ドラコはにやにやしてるし。
百面相しているであろう僕を見ていたドラコがふ、と吹き出した。
そんなに面白かったか?!僕が!!
イラっとして睨みつけると噛み合った視線は意地悪な──ではなく、愛おしいものを見るような柔らかなアイスグレーだった。
予想していなかった表情に思わず息をのむ。
ドラコのなめらかなテノールが鼓膜を揺らすまで、さほど時間は掛からなかった。
「花に嫌いと言われた位で僕の気持ちを疑うのか?」
「えっ…」
脳が、言葉の意味を理解した瞬間、どくりと心臓が脈打つのを感じた。
反射的にドラコから視線をずらす。
顔が、あつい。
緩みきっているであろう口角を隠すように手を添える。
そんな僕を見てドラコは嬉しそうなのを隠そうともしない。
くそう。
照れ隠しにサンドイッチを手に取った。
具材は──以前ドラコが考案したと言っていたもの。
前僕が美味しいって言ったやつ、覚えててくれたんだ。
…胃袋も掴まれちゃったなぁ
しみじみと思っていると、ゆっくりと、ドラコも同じ味を手に取って口に含んだ。
穏やかな沈黙が2人の間に落ちる。
春風と噴水の音だけが静寂を支配していた。
いつのまにか太陽は真上に上り、この木の影も移動しつつある。
もうそろそろ帰ろう、そう言ってどちらともなく立ち上がる。
2人並んだ帰り道、ドラコがふと、思い出したように言った。
「今度また買ってきてやろうか?」
花、一瞬頭の上にはてなマークが浮かんだだろう。
花、、
今日の出来事ではあれしかないだろう?
「花占い?」
買った花でやるの?そう問うとドラコは肩を竦めてみせた。
「君に花を買うだけの余裕はあるさ」
そういう事じゃ無いけどな、と呟いてみるもドラコが自分の為に花を選んでいる姿を想像すると悪い気はしない。
暖かい風が頬を撫でる。
嘗てよりも長く伸ばされた美しいプラチナブロンドは、素直に風に靡かれていた。
冬の冷気に頬を染められるドラコを見るのも好きだったけど、気持ちよさそうに、アイスグレーを細める彼の姿は穏やかで。
──もっと好きかも知れない、なんて1人零す。
季節が変わる度に長さの変わる髪も、少し低い体温も、
好きだと、そう伝えてくれる声も。
占いなんて陳腐なもの、最初から信じていないが、普段あまり気持ちを伝えないドラコからの言葉を得られるのなら、悪くないものに思えた。