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二人が「恋人」という関係に戻ってから、最初の一週間は少しぎこちなかった。
これまでは親友として当たり前のように交わしていたスキンシップも、少し意識してしまう。
ある夜、寮の自室で向かい合って座っていると、純喜が思い切ったように口を開いた。
「瑠姫…その、手、繋いでもええ?」
その問いに、瑠姫は微笑んで手を差し出した。
純喜がそっとその手を握ると、過去に何度も繋いできたはずなのに、初めてのように温かく感じられた。
それからというもの、純喜は積極的になった。
「今日の夕飯、一緒に作らへん?」と誘ったり、練習の休憩中には瑠姫の隣に座って肩にもたれかかったりする。
瑠姫が少しでも疲れた様子を見せると、すぐに気づいて「ちょっと休憩しよ」と声をかけてくれた。
ある日、純喜が口ずさんでいるメロディーを耳にした瑠姫は、思わず足を止めた。
それは、過去の世界で純喜が瑠姫のために作った、二人の愛の歌だった。
「その歌…覚えてるんだね」
瑠姫がそう言うと、純喜は不思議そうな顔をした。
「覚えてるって…? なんか、頭に流れてくるんよね。めっちゃ懐かしい気持ちになる」
記憶はなくても、二人の愛の歌は、純喜の中に確かに残っていたのだ。
瑠姫は、過去の純喜との思い出を、少しずつ今の純喜に語るようになった。
初めて二人で行ったカラオケボックスの話、一緒に食べた学食のメニュー、夢を語り合った夜のこと。
純喜は、その一つ一つを真剣に聞いてくれた。
「なんか、聞いとると、俺、その時のこと、全部知ってる気する。瑠姫と一緒におった過去の俺も、きっと幸せだったんやな」
純喜の言葉に、瑠姫は過去の記憶を思い出し、涙ぐんだ。
ある日の夜、純喜は瑠姫を抱きしめ、耳元でささやいた。
「やっぱり…俺は、過去の俺じゃなくて、今の俺を、瑠姫に愛してほしい」
瑠姫は、純喜の言葉に胸が熱くなった。記憶がなくても、純喜は瑠姫を愛してくれていた。
二人の新しい恋は、過去の思い出を大切にしながら、ゆっくりと、しかし確実に育まれていった。
それは、記憶が消えても、愛は決して消えないという、時を超えた愛の物語だった。