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今日も如月くんに呼ばれて、家にお邪魔している。
部屋の中は静かで、落ち着いた空気が流れていた。私は少しそわそわしながら彼を見た。
「今日は何するの?」
期待と不安が入り混じった声で尋ねると、彼は柔らかく微笑んだ。
「一緒に絵を描きたいなと思って」
「絵…」
思わず戸惑いの表情が浮かぶ。 絵を描くなんて、いつぶりだろう。
最後に描いたのは中学1年生、不登校になる前の頃だ。それまでは描くことが大好きで、夢中になって描いていた。でもそれ以来、他人の絵を見るたびに自分との差を感じて、嫉妬と劣等感でいっぱいになった。上手くなりたい気持ちはあったはずなのに、結局描くことをやめてしまった。
「もしかして、絵、描きたくない?」
如月くんの優しい問いかけに、心臓がドキリと跳ねた。否定しようとしたのに、言葉が出てこない。描きたい気持ちはあるのに、素直に頷けない。
「違う…!」
声が震えた。自分でも驚くほど強い口調に胸がざわつき、うまく説明ができなくなってしまった。
そんな私を見て、彼は困ったように微笑んだ。
あ…
「ご、ごめん」
咄嗟に謝る。
そんな私を見て、彼がそっと口を開いた。
「あのさ、嫌ならいいんだけど…帆乃さんのこと、もっと教えてよ」
「私のこと?」
「うん。いつも俺ばかり相談に乗ってもらって、支えられてる感じがして…帆乃さんのことをあんまり知らないのって、なんかズルい気がするから」
胸の奥がちくりと痛んだ。
過去に誰にも本音を言えず、一人で抱え込んでいた自分の姿がよみがえる。誰かにこうして気にかけられることに慣れていないから、言葉が見つからない。膝の上で手をぎゅっと握り締めると、彼がそっと私の前で跪いて目線を合わせ、その手を優しく包み込んだ。
「無理に言わなくてもいいんだよ。ただ、これだけ覚えておいて。俺はどんなことでも帆乃さんのことを否定しないし、全部受け入れるつもりだから」
穏やかで真剣な眼差し、しっかり握られた手から彼の本気が伝わってくる。その瞬間、胸が熱くなり、こらえきれずに涙がこぼれ落ちた。
「本当は話したいの…!でも、自分の気持ちを言おうとすると涙が出て、喉がぎゅっと締め付けられるみたいに苦しくなって……結局言えないの……」
震える声で伝える私に、彼は小さく頷きながら、ただ優しく耳を傾けてくれた。
「あとね、自称って思われるかもしれないけど、私、HSPっていう気質でさ……」
「HSP?」
彼が不思議そうに首を傾げる。
「うん。あとで調べてみて…」
本当は詳しく説明したかった。でも、自分の気質を誤解されるのが怖くて、それ以上は言えなかった。
彼は頷き、私を安心させるように微笑んだ。
その後、私は逃げるように如月くんの家を後にした。
言ってしまった…彼を困らせたかもしれない…
——彼女が帰った後、俺はすぐHSPについて調べてみた。
『HSPとは、”Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)“の略で生まれつき非常に繊細で感受性が強く、小さな刺激にも敏感に反応し、他人の感情や環境の変化を深く感じ取ってしまう気質を持つ人のこと。病気ではなく、生まれ持った気質である。』
その説明を読むうちに、彼女の言葉や表情が頭の中で蘇る。
自分も繊細な方だと思っていたけど、彼女が感じている世界は俺が想像する以上に繊細で傷つきやすいものだったのかもしれない。
もっと早く気付いてあげられればよかった。
俺にできることは何だろう。もっと彼女のことを知りたい、支えたい。
その夜、寝る直前まで俺はHSPの人の特徴や、どう接するべきなのかを夢中で調べ続けた。
「よし!」
俺はスマホを手に取り、彼女へメッセージを送った。
少しでも彼女が安心して話せるように、もっともっと彼女を理解したい。
そう心に決めて眠った。