「…」
どうもこんにちはしろです
俺は今、1つ不満を抱えています
「ボビー?どしたん眉間にしわ寄せて」
「…いや別に何も無いけど」
「そ?」
本当か?って顔をしながらもこれ以上は追求する価値がないと判断したのか、顔を逸らすこいつの名前は「ニキ」
同じ女子研究大学として動画を撮る、お調子ものでおもしろい男だ
もう一緒にいて4年になるこの関係は、最近名前を変えた
「ま、僕が話聞いてあげるよ
裕太くん?」
「お前なんか調子乗ってんな?」
「だって数年ぶりの恋人よ!?ちょっとくらい浮かれても良くない!?」
…そう
説明するにも野暮なほど色々あった末に、こいつとは「友達」から「恋人」になった
もうかれこれ3ヶ月ほど続いているが、最初の不安が嘘かのように、今のところニキがいつまでも余韻に浸ってること以外は順調だ
順調で…順調なはずなんだが
「浮かれる時期もうすぎたやろ
3ヶ月やで」
「…ふっ、ごめんな
いつまでも初々しいピュアで純粋でかっこよくてイケメンな罪な男で☆」
「なんか色々関係ないところ付け足したなぁ」
「そんなこといいつつ、毎週泊まりに来るボビーもなかなかじゃない?」
「…いや、それは」
…そう、そうなのだ
俺たちの関係は順調
そして、俺は毎週のようにこいつの家に泊まりに来ている
どうしてかって?それは俺の経験上…
「…まぁええやん、こんなもんやろ」
「えー?白井くんってばいーみーしーんー♡」
「ハッ倒そうか」
「ははは!じゃーま、今日はなんも無いしもう寝るか」
「!おう、」
俺が座っているベッドに、電気を消したニキが横たわる
俺は少しだけ心臓の鼓動がはやくなるのをかんじながら、少しだけニキを見つめてみる
…俺の経験上、この時期、このシチュエーション、この空気
まさに、夜の営みを行ってもいいはずなのだ
その、はずなのに、そのはずなのに
「じゃね、おやすみボビー」
「…ん」
(また寝やがったよこいつーーー!!!!)
俺が抱えてる不満
それは正しく「レス」である
________
「なーりぃちょ、世間一般的には付き合って何ヶ月で初エッチになるんだと思う?」
「開口一番それかよ」
次の日、家に帰って編集に取り掛かろうとした時にdiscordにりぃちょがいるのを発見し、経験豊富だろうし聞いてみることにした
たまたま俺の今までが世間一般的から外れてたのかもしれない
その可能性だって十分ある
「それはせんせーの話?」
「…いや、知り合いの話」
「ふーん???知り合いねぇ」
「いいから答えてや」
これ以上口答えするとさらに勘繰られそうなので俺はあえて答えを急かした
ニキとの関係は一応誰にも口外していない
まぁバレたらバレたでいいかって二人の中ではまとまったが、バレたらバレたで、それはまた面倒くさそうだからだ
「うーん、まー順調に行けばせんせーくらいの歳だったらまじで3回目のデートとかじゃないの…?」
「やっぱそうだよなー」
どうやら俺の世間一般は間違いなかったようだ
ニキが慎重すぎるのか?
こっちから誘うにしてもあまりにも向こうにする気がなさすぎて誘おうにも誘えない
正直、付き合ってるからには俺はあいつが好きだし、この3ヶ月、ほかの女の子に手を出していない
だけどそろそろ我慢も限界に達していた
「なんで急に?」
「あー、なんか相手が全然その気が無さそうだから変だと思ったらしいよ」
「…その相談してきた人って彼女の方?」
「え、なんで?」
「いや、なんかそーゆーの待ってるのってだいたい女の方じゃない?って思って
したいけど言えない…的な」
…は?は??
その言い方じゃまるで
俺がニキとの夜を待ちわびてるみたいになるやん!?
…いや、まぁそう…か?
いやでもそれはそれで恥ずかしいし、なんとなく癪に障る
たった今自分がしてる行動がニキを求めてるが故だとしっかり自覚し、俺は恥ずかしさで動揺を隠せなくなった
「…な、んか、あーそーゆーのもあるんかーな?って感じで、なんて言うか、価値観の違い?って言うのもあるんかなーとかって言ってたような…」
「ほーん??
…でもさ、気にしてるってことは多少はしたいだろ絶対」
「…まぁ…」
俺が一方的にニキに期待してると言われるとすごく腹が立つが、実際そうなのだろう
あぁ、俺あいつとこんなにやりたいのか
まぁそりゃそうなんだけど
付き合ってるんだし、それくらいの欲は出してもいいものだと思う
てか逆にあいつなんなんだ
毎日のようにデレデレしてるくせにそーゆーのは無いとか、普段の動画内容からは想像を絶する
「…伝え、とくわ」
「wwはい」
「なにわろてんねん」
「いやさ、実は…」
そこまで言って、りぃちょは黙った
これは失言かと察したかのように
「?なによ」
「いや、やっぱなんでもない」
「なんやそれ」
「ところでさせんせー
そうやって求めてくれる恋人どう思う ?」
「え?何その質問
まー普通に可愛いって思うかなぁ」
「wwwwwそっ、かwww」
「いやマジで何に笑ってんの??」
「こっちの話
まぁそうだよな、俺もそう思う
多分ニキニキも」
「なんでここでニキ?」
「いやまー、男ならって話」
「あぁー、まぁ、、そうか」
その後もりぃちょと編集をし、誰かほかに来ることも無くそのままdiscordを閉じた
疲れきったからだを少しだけ伸ばして窓の前に立つ
日曜日の昼間は明るすぎるほどに日差しが強くて、少しだけ目の前がぼやけた
…少しだけ怖かった
ニキはいつも優しいが、本当は友達の延長でしかなくて、そういうことをしたいと思ってくれてないのかと
今だって怖い
求めてるのが俺だけかもしれないと思うのは寂しい
でもきっと、これは聞かないと分からないことだ
向こうが動かないなら、こっちが動かないとダメなのだ
俺たちのこれからのためにも、俺が動かないと
「…よし」
俺は心に決めてパソコンに手を伸ばし、検索エンジンに文字を打ち込んだ
_____
「…」
「そんでキャメが…って、ボビー?」
「ん?」
「いや、…なんも無いとこ見つめてるから虚無ってんなーって思ってさ」
「あー別になんともないよ
編集だるくなっただけ」
「そ?」
いつものように週末、ニキの家に来て一緒に作業をする
ニキは延々と楽しそうにキャメの話をしているが、俺はずっと上の空だった
それに気づいたのか、この間と同じように気にかけてくれるニキ
わかってる、優しいやつだ
「それで、キャメが?」
「あー、それで…」
そこまで言って急に言葉を濁し、こっちを見つめるニキ
俺はそんなニキを、今日ずっと見つめている
目が合うのも必然の事だった
「…ねぇボビー、もしかしなくても俺の事めっちゃ見てね?」
「うん、そしたら虚空見つめてるとか言い始めてびびったわ」
「いや、見つめられてるこっちもビビるんだけど」
「そっちも今見つめてるやん」
「…うん」
「…」
気まずくはない、だけど落ち着かない
そんな空気が漂う
バチッとあった視線をそらせる訳もなく、ただ意味もなくお互いがお互いを見つめている
…あぁ、キスしたいな
「…ニキ」
「…ん?」
「あのさ」
『キスしていい?』
その言葉を言おうとした瞬間
体の内側からじわじわと熱が放出されるように、恥ずかしくていたたまれなくなった
口は開く、ただ、声の出し方が分からない
分からなくて、ただ、バチッとあっていた視線を勢いよく逸らした
「?ボビー?」
「…いや、なん、でもない」
今まで女の子たちにやってきたこと、自分が言ってきたこと、全部忘れたかのように全身から溢れ出る羞恥に身を任せることしか出来なかった
心臓がうるさい、なんだかすごく大変なことになりそうな予感に、息が出来なくなりそうで
俺は必死に顔が赤くならないように務める
多分、もう手遅れだ
「あー、編集しよ」
「…」
バレないように、編集画面にかじりつこうと決めたその時
ニキがもう、俺のすぐ隣に来た
「っ」
「そんな状態でいい動画作れると思ってんの」
真剣な顔、鋭い眼差し
それでいてどこかやっぱり優しい彼の顔に見つめられて、俺はまた声が出なくなる
違うよ、違うんだよ
俺はただ、お前と
「…こっちの話…やから」
わざと強めの口調で言い放つ
こんなことが言いたいわけじゃなかったけど、これが俺のできる精一杯
ごめん、ニキ
なんだかお前の前では、俺は知らない俺になってしまうみたいだ
「言いたくないならいいけどさ、ボビーここ最近ずっとそうじゃん
さすがに心配するって」
目の前には、心配するような顔で俺を見つめるニキがいる
普段のおちゃらけた態度とは似ても似つかない、かっこいい姿
ずっと腹立たしかった
俺ばっかり好きみたいだ
俺ばっかり、求めてるみたいだ
お前はいつもそうやって、すましてばかりのくせに
…もう、いい
言葉が出ないなら
チュ
「…へ」
俺はニキの胸ぐらを掴んで顔を引き寄せ、触れるだけのキスを1度だけした
体は燃えるように熱くて、キスひとつでこんなことになる自分を見たくなかったけど
ニキを見返してやりたいと思った
俺だって、ちゃんと、恋人なんだって
「…お前が、全然しかけてこない…から」
言いながら顔に熱が溜まっていくのがわかる
言葉も拙くて、いつものワードセンスはどこかへ行ってしまったみたいだ
これじゃ俺がずっと、待ってたみたいじゃないか
恥ずかしい、これ、もしかして言ったもの負けだったんじゃないか?
…でも、もう言わずに入れなかった
どうしても、どうしても
「…っ!!3ヶ月やで!!俺は!!そろそろいいと思うんですけど!?」
「え、ちょ、ぼびー」
「お前いつもやりたいやりたい言ってる癖に、俺には全然言わんやん!!なんなん!!」
もうやけくそになって、喧嘩腰に叫ぶ俺はまるでおもちゃを買って貰えない子供のようだ
そんなこと、俺がいちばんわかっている
でも、恥ずかしくて、それを誤魔化すことしか俺に為す術はなかった
ニキは呆然と俺の叫びを聞いているが、だんだん顔が歪んでいく
俺はそれを見て、最後にポロッと言ってしまった
「…俺のこと、好きじゃないんけ…?」
そう言ってニキに目を合わせると、ニキは驚いたように目を見開いて、俺の肩を持った
顔は歪んだままで、でも決心したように
…いや、何かが決壊したように
「〜っ!!、、ごめん、、ボビー」
「は?っ、」
近づいてくるニキの顔に、思わず目をつぶった瞬間
柔らかいものが口に当たる
そのまま、1回、2回と、数えるのが恥ずかしくなるほど回数を重ねる
「〜〜!!っ、ニ、ニキ」
「黙って、裕太」
「っ、う、」
突然名前を呼ばれて、身動きが取れなくなる
心臓はバクバクと、今日今から死ぬんじゃないかってくらいなっている
口を塞ぐように、何度も何度も、啄まれるようにキスをされた後、ニキは少しだけ小さな声で言い放った
「…嫌いなわけ、ないじゃん…」
「…は…?」
「…好きだよ、裕太」
「…っ、!?」
ニキが甘い告白をした瞬間、突然とても深いキスが来る
口の中を掻き混ぜられるように激しく、それでいて暖かくて優しい
驚いてたじろぐが、ずっと待っていたニキの感触に俺は体をふるわせてばかりだ
リップ音と、荒い息だけが響くこのニキの家は、ニキの匂いがして
それ以上に俺はニキを感じてる
それがなんとも言えないほど幸福な事だと思えた
「…っ、は、はぁ…」
「っ、ボビー、俺、ごめん、ほんとは、俺だってずっと」
言いたいことが纏まってないように、拙い言葉で伝えようとするニキは俺の初めて見るニキで、
顔を真っ赤にして、震えながら、潤んだ瞳で俺を見つめて来るニキがなんだか可愛く思えた
「…しようや、今日、今から」
「え、でも…準備とか」
えーと、あれしてこれしてとあたふたするニキの腕を掴む
あまり言いたくなくて恥ずかしくて俯いてばかりいる俺は、ボソッと言った
「…もうしてる」
その瞬間、ニキは俯いていてもわかるくらい体を強ばらせて、「え、え、」と困惑の言葉ばかり並べている
わかってるよ、キャラじゃないだろ
俺だってわかってるよ
でも、屈辱とか、恥辱とか、そんなのがどうでも良くなるほど
愛したいし、愛されたい
そう思ったから
「…俺が下でいい、だから、もう、大丈夫だから」
「どうしても、したい」
その瞬間からの記憶は鮮明なようで朧気だ
ただただ、ニキが必死で、俺も必死で
お互い目の前の快楽と幸せに動かされながら、縋り付くように、ただこの時間にひたっていた
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