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金持ちっていうものは東本が思っていた以上に権力があり、何でもできる力を持つ。
そんなことを改めて知ったのは紅上と出会ったからだろうか。
東本は車に揺られながらぼんやりと考えた。
なぜ車に揺られているのか。それはキャンプ場に向かうためだ。
中山静香を殺して2日経った。
東本と紅上は既に2人を殺し、紅上の家にはブルーシートに包まれた死体が増えてきた。
「そろそろこれ腐るんじゃねぇの?」
ブルーシートを指さしながら東本は言った。
腐ったら匂いも出るし虫も集まるから、バレるのではないかと思ったのだ。
「そうだな。いくら冷やしてても腐敗は避けられ ない」
「だから燃やすんだ」
そう言いながら紅上は口角を上げる。
その姿が妙に高揚している様子で、東本は少し肌が寒くなる感覚がした。
というのが前の日の話であり、現在に至る。
キャンプ場は森を超えた隣町にあった。車で森を通らなければならないため、面倒くさくはあるが誰にも見つからないというのは利点だろう。
東本はただただ木々が移りゆく景色を眺める。顔が見えないため紅上の感情は掴めない。
車が停止する。いつの間にか眠っていたらしい。精神的な疲れだろう。
「着いたのか?」
「着いた。降りるぞ」
ガチャッと音を鳴らし車から降りる。少し遅れて紅上も降りてきた。
トランクを開け、中からブルーシートに包まれたものを取り出す。2人のそれだけでトランクはいっぱいだった。
とりあえず芝生の上に出してみたものの、何をすればいいんだろう?人を殺したことはもちろん、燃やしたことなんてあるわけもない。
なんて考えてるうちに紅上が躊躇なくブルーシートをバッと開けた。
「ぇ、ちょ……」
「なにぐだぐだしてんだよ。早く終わらせるぞ」
そう言われ、俺は手を動かし始めた。
いくら俺がクズだとしても、少し遊んだだけの女でも、死体を見るのは嫌……というかなんか呪われそうだ。
ブルーシートを開け、その死体を外へ出す。
死体は2つくっつけるのではなく、少し離すらしい。酸素がなんとか?とか言ってた。紅上が。
そして車に積んでた灯油を取り出し死体へぶちまける。人を燃やすのも大変だ。
そりゃあそうだろうなぁ、なんて他人事に思った。
「灯油かけすぎだ馬鹿。俺らまで燃えるぞ」
「あー、うん、すまん」
上の空、その言葉の通りだった。今から燃やすという実感が湧いてきてしまった。何ビビってんだ、俺。仕方ない、これしか俺は生き残れなかったから。
準備は整ったらしい。やっぱり上の空で頭が変な気分だ。
「じゃあ、お前が火付けろ。」
「……なんで俺?」
そんな俺に急に紅上が命令してきた。いきなりすぎてさすがに驚く。俺はやったことないし、やりたくもない。
「俺はこっちで燃えるのを見てる。指図するならお前ごと燃やす。」
そんなこと言われたらやるしかないじゃないか。無言でライターを手に持ち、たどたどしく死体に近づく。そしてライターにカチッと火をつけた。
やるしかない。俺にとってやらないなんて選択肢はない。わかっているのに、手が震えた。
火を死体に近づけた瞬間、死体が紅色の炎に包まれた。
灯油のおかげで火が広がり、そこら一帯が燃え上がる。
少し死体が動いているように見えて、体の内側が一気に冷える感覚がした。人の焦げた匂い、肉の焼ける音、肌が爛れたような姿、紅の炎の熱。その全てを鮮明に感じる。
「ぉ”えっ……」
胃の中のものが出てきそうだ。目の奥が潰されているような痛さと気持ち悪さが襲う。
助けて、なんて無意識に思いながら紅上の方をふっと見上げた。
あいつは、俺のSOSになんて気づかずに、酔っているような高揚したような表情でただただその様子を見ていた。俺になんて1ミリも目をくれずずっと目を見開いて見つめている。
なんであいつはあんな表情ができるんだ?なんでそんな楽しそうに焼殺なんて…
声を発することもできなくて、空気みたいな音が口から漏れる。今の紅上にそんな音が届く訳もなく。
あれから俺はその場を動けなかった。
死体が燃えていくのを五感で嫌という程感じる。
ずっと頭と体が離れているような感覚で、はっきりと意識が戻った時にはもう死体は黒くなっていた。
黒くなったあとでも死体を見つめる紅上を横目にふらふらとした足取りで車に先に乗り込む。
後片付けは紅上がなんとかしてくれるだろう。今の俺は体を動かす気になれない。眠る訳でも無く俺は目を閉じた。
それから俺が思ったより早く紅上も車に乗ってきた。
こっちは気分最悪だというのに、あいつはずっと焼殺の魅力なんかを車の中でも話してくるもんだから、今まで抑えてた吐き気が爆発して吐いてしまった。紅上が『片付け手伝わなかっただろ』や『車で吐くな、俺まで気持ち悪い』など騒いでいたが、無視した。
俺らは再び車に揺られながら、帰路に着いた。