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目が覚めたとき、
病室のカーテン越しに
朝の光がぼんやり差し込んでいた。
身体はまだ重い。
胸の奥に残る焼けるような痛み、喉にひりつく感覚。
昨夜のことを思い出すと、自然と指が震えた。
――鼻血、嘔吐、視界がぐらぐらして、
意識が途切れた。
それでも。
目を開けた今も、俺は生きている。
「……元貴」
低く落ち着いた声に顔を向けると、
そこには椅子に腰かけて
眠そうに目をこする若井の姿があった。
真っ赤な髪が少し乱れている。
普段の完璧な医師像からは
遠くて、その姿が逆に胸に刺さった。
「起きたか。……もう二度と心配させんなよ」
若井は立ち上がると、
ためらいなくベッド脇に腰を下ろした。
俺の髪をぐしゃっと撫でる。
その手のひらの温かさに、じんわり涙が滲む。
「……ごめん。俺、また迷惑かけて」
掠れた声で言うと、若井は即座に首を振った。
「謝るなっつってんだろ。
……元貴がここにいる、それだけで十分だ」
言葉は強いのに、指先はやさしく頬をなぞる。
目元に乾いた涙の跡を見つけたのか、
若井は苦しそうに息を吐いた。
「泣きながら俺にしがみついてたんだぞ、
昨日。……可愛すぎてどうにかなりそうだった」
「……っ!」
顔が一気に熱くなる。
「そ、そんな……覚えてない……!」
必死に否定する俺に、
若井はニヤリと笑って、
「覚えてなくても俺は覚えてる」
と耳元で囁いた。
その距離に心臓が爆発しそうになる。
病人扱いされるのは恥ずかしいのに、
甘やかされるのが心地よすぎて拒めない。
その時、隣から静かな声がした。
「目が覚めてよかった。
昨日は本当に心配したんだよ、元貴」
振り返ると、涼ちゃんが少し疲れた顔で立っていた。
彼も夜通し起きていてくれたのだろう。
俺のタオルや水差しを整えながら、穏やかに微笑む。
「……ありがとう、藤澤さ……いや、涼ちゃん」
小さくそう言うと、
涼ちゃんは「うん」と優しく頷いた。
だけど、そのやり取りを見ていた
若井の表情が少しだけ険しくなる。
「……元貴は俺だけ見てろ。
他のやつに礼なんか言わなくていい」
「え、ちょ……!?」
「冗談だよ」なんて言いながら、
若井は俺の額に自分の額をそっと重ねた。
体温が混じり合う感覚に、涙腺がまた緩む。
「元貴、約束な。
俺がずっと守るから……お前は生きることだけ考えろ」
真剣すぎる声に、息を呑んだ。
俺は震える手で若井の白衣の裾を握る。
「……うん。若井がいるなら、大丈夫」
その瞬間、若井は小さく笑って俺を抱きしめた。
医師と患者という関係を、簡単に飛び越えて。
涼ちゃんは少し寂しげに視線を伏せたが、
それでも「二人とも、ちゃんと休めよ」と声をかけてくれる。
その優しさすら、俺を泣きそうにさせた。