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#溺愛
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【大広間・ベランダ】
「もう! なんで私ばっかり、恥ずかしい思いをしなきゃならないのよ!」
アビルゲイに昼間の一件を蒸し返され、メアリーは近衛騎士たちに散々からかわれていた。
酒を勧められ、馴れ初めを聞かれ、やっと解放された――。
そして顔を真っ赤にして逃げ出すように大広間を後にする。
「はぁ……」
ようやく静けさを取り戻したベランダで、メアリーは夜風に当たりながら大きく息を吐いた。
その時だった――。
「……メアリー」
「あっ……ラルト……」
聞き慣れた優しい声に振り返るメアリーは、照れ隠しのように、小さく彼の愛称を口にする。
ラインハルトは目を丸くしたあと、ふっと柔らかく微笑んだ。
「ちゃんと、その名前で呼んでくれたね」
中等部へ入る前は、二人はそんな呼び名で笑い合う、ごく普通の友達だった。
あの日以来、途切れてしまった時間が、今ようやく動き出した。
「俺は……ずっと君のことが心配だった。だけど会えなくて」
「うん……いろいろあって、会えなかったもんね……」
ラインハルトは懐かしさを噛みしめながら、一歩だけメアリーとの距離を縮める。
「……やっと直接伝えられる」
「ンッ?」
彼の目には決意が漲り、じっとメアリーを見据えた。
メアリーは不思議そうに首を傾げる。
「ずっと前から好きだった。これからは、君だけの騎士として、ずっと傍にいたい」
「――ッ!!」
突然の告白に、メアリーは驚き、俯く。
もうそれは愛の告白というより、プロポーズの言葉だった――。
直ぐに喜びが胸いっぱいに溢れ、堪えていた涙が静かに頬を伝った。
「……もう……ずるいよ、ラルト……私も、大好きよ……!」
ラインハルトの胸へ飛び込むように身を預ける。彼もまた、その小さな身体を優しく抱きしめた。
言葉はもう要らなかった。見つめ合った二人は、ゆっくりと距離を縮め――。
唇を重ねた。
※
「うふふ、メアリーちゃん、本当に幸せそうだったね」
「ああ。苦労ばかりしてきたからな。これからは、思い切り幸せになってほしい」
二人をそっと見守っていた匠と華奈は、自然と手を重ねる。
指と指を絡める恋人繋ぎ。
「……今夜は、一緒にいたいな」
「うん……私も」
宴はやがて静かに幕を閉じる。
匠と華奈は寄り添ったまま、懐かしい客間へと歩き出した。
※※※※※
【フィルモア城・地下魔法陣】
「有り得ない、ああも簡単に仕留めるなんて!」
人狼ミラードを作り出したゴッドフリーは、床に転がる無惨な近衛騎士を見て毒付く。
「このままでは俺が王に成れない、奴らが浮かれている間に、手を打たなければ」
祭壇の下にある洞窟に向かうゴッドフリーは、マハー・カーリンを操り、この国に混乱を齎し、自分が王に成り上がる夢を描く。
「ククク、ミラードが騎士を屠ったお陰で、なんとか成りそうだ」
復活に必要な最後の魂は、我を忘れた人狼ミラードが殺めた近衛騎士だった。
「俺が復活するのだから従えよ、マハー・カーリンよ」
ゴッドフリーは、囚われているマハー・カーリンに向け、不敵な笑いを送る。
(アイツ弱そうだからやだ!)
復活間近のマハー・カーリンは、赤い瞳でゴッドフリーを一瞥すると、目を細めるのだった。
※※※※※
【フィルモア城・客間】
「……懐かしいな」
匠は静かに部屋を見渡し、小さく息を吐いた。
「うん……そうね、懐かしいよ」
華奈も同じ景色を眺めながら微笑む。
あの日と何一つ変わらない部屋だけが、止まった時間を静かに物語っていた。
「でも――」
匠は少しだけ目を伏せる。
「明日、俺は魔人族領へ帰る――」
この世界にきて匠は悪意に晒され、人間領に居場所は無い。
魔人族領に居着くと決めていたので、先に華奈に話したのだ。
「これからどうするの、私と離れないよね」
ようやく誤解は解け、想いは通じ合えた。
それなのに、匠が「帰る」と口にした瞬間、華奈の胸は締めつけられる。
彼の居場所は、もうフィルモアではなく魔人族領なのだ――。
「ここには居場所がない、レオンとの約束もある」
「……」
華奈の脳裏には、以前ウィラードと話した中立地帯を作るという話を思い出していた……。
<簡単なことだ。メアリーがいるメルド村に住め。あそこは国境沿いだ――>
(タクちゃんと離れたくない、もうこれしかない……)
匠の気持ちは痛いほどわかる。だが華奈には契約魔術が施され、魔人族領には立ち入れない。
もうこの方法しかないと思うと、寂しい気持ちを抑え、巧みと向き合った――。
「メルド村を中立地帯にして、一緒に住めないかな……魔人領にも近いし――」
匠は少しだけ目を閉じ、静かに首を横へ振る。
「……無理だ」
「えっ……」
「俺は魔王軍の総指揮官だ。俺がいるだけで、村は戦場になる」
その言葉に、華奈は何も返せなかった。
「そっか……そうだよね……もう……前みたいには戻れないんだね」
寂しそうに微笑む華奈を、匠は否定しなかった。
戻ってきてくれれば、また以前のように一緒に笑って暮らせる。華奈は、どこかでそう信じていた。
だが現実は違う――。
「魔人族に俺は助けられた。生きる場所も与えてくれたんだ」
彼は今や、魔王軍を率いる総指揮官だった。その事実が、二人の間に大きな壁として立ちはだかる。
頬を伝った一筋の涙を、華奈は拭うことができなかった――。
「分かったわ……けど……いま、あなたとの強いつながりが欲しいの――」
「……華奈」
涙で潤んだ華奈は匠の胸に飛び込み、そのまま唇を合わせた。
「抱っこ!」
「……仕方ないな」
匠は華奈をそっと抱き上げた。
そして嬉しそうに首へ腕を回す華奈。
二人は互いを見合いながら、静かに寝室へ消えていった――。
※※※※※
【翌朝】
カーテンの隙間から柔らかな朝日が差し込む。
昨日、死闘が繰り広げられたとは思えない、平和な小鳥の鳴き声が、最高の目覚めを促す。
「……ん」
ゆっくりと瞼を開いた華奈は、いつか見た夢では無いかと思わずにはいられず、静かな寝息を立てる匠の頬を優しく突く。
(……夢じゃ、なかったよ)
そして……昨夜の記憶が蘇る――。
「あぅ……」
思い出しただけで頬が熱くなり、恥ずかしさのあまり匠の胸へ顔を隠した。
その瞬間――。
「……えっ?あっ?」
肌を通して感じる体温と素肌の柔らかさ。
そしてシーツの下に見える生まれたばかりの姿。
一瞬で顔が真っ赤になる。
(そ、そうだ……私……タクちゃんと――結ばれたんだ……)
慌てて布団を胸まで引き寄せ、眠る匠をちらりと見た。
「ンンッ……おはよう、華奈」
「おはよタクちゃん――」
目覚めて最初に映ったのは、最愛の華奈の照れた笑顔だった。
それだけで胸の奥が満たされる。
昨日までの苦しみが、すべて報われたような気がした。
「今日はずっと一緒にいよう」
「うん……ずっと一緒」
華奈が幸せそうに微笑み、口づけを交わそうとした、その瞬間――。
ドン!!
城全体が震え、轟音が甘い空気を一瞬で吹き飛ばした。
「新手の敵なの? いや、この気配は……!」
「この魔力……何なの……!?」
二人は同時に探索スキルを発動した。
その異様な正体を捉えた瞬間、二人の表情が凍りついた。
「「――ッ!人間じゃない!」」
城前広場から、天を貫くほどの凄まじい魔力の柱が立ち昇っていた。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第87話、読ませてもらいました…! メアリーとラルトの告白シーン、すごく良かったです…“ずっと前から好きだった”って言葉に、全部が詰まってる感じがして。でもその後の匠と華奈の会話で、もう戻れない現実を突きつけられて切なくなりました…。 結ばれたのに、すぐに新しい脅威——“人間じゃない”ってラストの震え、やばいです…続きが気になって仕方ないです…!