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「でも、これからどうするの?何か決めてるの?」
一緒に住まない?とは言えなかった。
賃貸マンションでは、母の部屋がないのだ。
「うん、住み込みで働けるとこを見つけてあるの。近いうちにそこに行くから、少しだけここに居させて。杏奈に話を聞いてもらいたいのと、圭太ちゃんにパワーをわけてもらいたいから来たの」
「わかった。雅史には後で話すから」
「ありがとう。明後日の土曜日には出て行くからね」
_____ということは佐々木夫婦がやってくる時には、もういないかな?
雅史の浮気が確定したわけでもないから、母にはまだ知られたくない。
せめて母が落ち着いてから、ことの次第を話そうと決めた。
「晩ご飯、何にする?一緒に買い物行こうか?圭太ちゃんも行こう」
圭太を連れて3人でスーパーで買い物なんてめったにないことだからと、うれしそうな母を見てると離婚を決めたばかりとは思えなかった。
「圭太ちゃん、何食べたい?ばぁばに作れるものなら頑張っちゃうよ」
「あのね、ハンバーグがいい」
「わかった!それ、ばぁばの得意なやつだよ」
買い物をしながら、スマホを確認してみる。
母が記入して置いてきたという離婚届を、父が見たらきっと私に連絡があるはず。
_____あれ?まだ見てないの?
父からは何も連絡がない。
「ね、お母さん、離婚届ってすぐわかるところに置いてきたの?お父さん、何も言ってこないけど……」
「テーブルの上よ、離婚届の上に結婚指輪も置いて、その隣には離婚するにあたっての覚書も置いてきた。あ、そうだ、これよ」
そう言うとスマホを取り出して、写真を見せてくれた。
見覚えのあるダイニングテーブルに、その3点が置かれていた。
「じゃあ、なんで?」
「わからない。でも、ものすごくプライドが高い人だから、女のあなたには相談できないんじゃない?私のことを引き止めたり謝ったりする人でもないから、このまま離婚成立よ、きっと」
結婚して30年以上もたつのに、終わる時はこんなに簡単ものなんだろうか。
父は、なんの言い訳もしないことが男らしいと勘違いしているのだろうか。
_____家では偉そうにしていてパンツまで洗わせているのに、外の女には優しい態度で接していた……か
まるで雅史のことみたいだ。
家事も育児も私に任せて、私が受け入れないからと外の女を抱くなんて。
もっと家のことも私のことも考えてくれたら私だって……と想像してみたけど、やはり雅史とのセックスがいいものだと思えなくなっていた。
そして、どこの誰ともわからない女を抱いた雅史に、もう抱かれたいと思わないどころか嫌悪感が湧いてきた。
_____圭太の父親、家族としてしか見れない
ならば雅史の浮気を認めるべきなのか。
すべては浮気が事実かどうかを確かめてからじゃないと、わからない。
雅史の気持ちも、確かめないと。
_____おかしいなぁ?夫婦なら一番わかりそうなものなのに
ずっと愛すると誓い合って、誰よりもそばにいて見てきたはずなのに、夫の気持ちがわからない私は妻失格?
夫を男として受け入れられなくなってしまった時点で妻失格かもしれない。
家に戻って、並んでハンバーグを作りながら母に訊いてみた。
「ね、お母さん、いつ離婚すると決めたの?なんだかちっとも慌てていないし」
「うーんと、いつだろう?離婚したいって思ったのはずっと前、お父さんの浮気がわかったころ。でも、離婚する時期を考えててね。杏奈と圭太ちゃんがしっかりと生活できるという確信が持てるまでは、我慢するつもりだった」
「私と圭太の?」
「そうよ。もしも雅史さんが杏奈を裏切ったりした時、杏奈と圭太ちゃんが帰る家を無くしたくなかったの。実家ってそういうものでしょ?でも、杏奈も少しずつ外に出ているし、始めたアルバイトもうまくいってるみたいだから、万が一、杏奈が圭太ちゃんを連れて家を出たいと言っても、大丈夫かな?って。だからそろそろいいかな?って思って」
「そっか。なんか、ごめんね」
「何言ってるのよ、親としては当たり前よ。親のわがままで子どもや孫に迷惑はかけられないわよ」
「そういうものなんだね。あ、洗濯物入れるの忘れてた!取り込んでくる」
そんな話をしていたら雅史が帰ってきた。