コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昼休み。伊織は、藤井渚と新作のファンタジー小説について話していた。伊織が佐藤とのデートを断ったのは、藤堂に厳しく問い詰められたからだが、藤井との会話はなぜか断れなかった。藤井の持つボーイッシュでクールな魅力が、伊織にとって新しい刺激になっていた。「伊織くんって、見た目と違って、結構ディープな設定が好きだよね」
藤井は伊織の持つ文庫本を指さしながら、楽しそうに笑った。
「え、あ、はい。設定が細かい方が、世界に入り込めるというか……」
伊織が照れながら答えていると、突然、二人の間に影が差した。
「おい、伊織」
藤堂蓮だ。彼はいつものように伊織の腰に腕を回そうとしたが、伊織と藤井の近すぎる距離と、楽しそうな雰囲気に、その手を止めた。彼の瞳は、獲物を狙うかのように藤井を鋭く捉えている。
「蓮」
伊織が藤堂の名を呼ぶと、藤堂は伊織を自分の背中に隠すようにして、藤井に向き直った。
「転校生、少しは自分の立場をわきまえたらどうだ?」
藤堂の敵意をむき出しにした言葉に、藤井は動じることなく、逆に笑みを浮かべた。
「立場? 藤堂くんのことかな。私はただ、クラスメイトと普通に話してるだけだよ。それに、伊織くんは誰のもの、ってわけでもないだろ?」
「あいにく、伊織は俺のものだ。誰にも触れさせない可愛い存在だ」
藤堂は、伊織の肩を抱き寄せ、強い独占欲を見せつけた。
藤井は、その様子を観察するように見つめ、静かに立ち上がった。そのボーイッシュな姿は、藤堂と対峙しても全く引けを取らない迫力がある。
「藤堂くん、伊織くんは繊細なんだ。君の独占欲に縛られて、窮屈そうな顔をしてる」
藤井の言葉に、伊織は内心ドキリとした。藤井は、伊織の心の奥にある微かな不安まで見透かしているようだった。
「伊織くんは、もっと自由に、好きなことを話すべきだよ。無理に誰かの色に染まる必要はない」
藤井は、藤堂の独占欲を否定するかのように言った。
それに対し、藤堂は鼻で笑った。
「綺麗事を言うな。伊織は、俺の色に染まることを望んでいる。お前のような、急に現れた奴に、俺たちの関係を掻き乱す権利はない」
「私はただ、伊織くんが可愛いから、気にかけているだけだよ。君みたいに、鎖につなぐような真似はしない」
藤井はそう言って、伊織にまっすぐな視線を送った。
「伊織くん、大丈夫だよ。君が望むなら、私が君を守る」
藤井のその言葉は、藤堂の独占欲を真っ向から否定するものだった。藤堂の顔は、怒りで歪んだ。
「余計なお世話だ、転校生。伊織は俺の隣が一番安全だ」
藤堂は、藤井の言葉を上書きするように、伊織の耳元で囁いた。
「伊織、聞いただろ? あいつが近づいて来たら、俺が守る。 俺以外の誰にも、お前の世界に入り込ませない」
藤堂と藤井の間に、張り詰めた空気が流れた。伊織は、二人の間で激しく揺れていた。藤堂の独占的な愛は安心感を与えてくれるが、藤井の言う「自由」も魅力的だ。そして何より、藤井の真っ直ぐな瞳に、伊織は強く惹かれていた。
伊織の心を巡る、藤堂VS藤井渚の静かな戦いが、今、始まったのだった。