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季節冬ってことで




愛してるって気軽に云えたなら何れ程いい事か。

貴方が大切だとポロッと云えたら何れ程良いことか


私は怖くて云えない。云ってしまえば此の手から離れてしまいそうで。



『オダサク。今日はどんな任務を熟したの?話、聞かせてよ』


オダサクは麦茶色の酒が入ったグラスを片手にしその場を仕切るようにカランと氷を鳴らした。

『嗚呼、今日は港で麻薬密輸業者の取締りと最近横浜近辺で連續していた宝石強盗を捕まえた。』

私は胸が高鳴った

『どんな人がいた?』

満面の笑みを浮かべたオダサクを真っ直ぐ見つめると彼は無表情でこう答えた

『あまり、面白くない』

『いいから良いから』

私の瞳は今オダサクのグラスに入った氷のように沢山の色をはらんで輝かせているだろう。そんな瞳を見てしまったオダサクは溜息を一つ、ついた。


『爆弾を体に巻いたやつが居た。』

『それでそれで?』

『スイッチを押して死んだ』

それを聞くと私は頬を膨らませる

『オダサクぅ私は死に様を聞いたのだよ?』

彼はまた溜息をついてその人の死に様を詳しく教えてくれた。

四肢は四散。

肉と筋肉はナゲット程の大きさになり辺りに吹き飛んで通行人や並木にへばりついた。そして内臓はずたずたで腸は赤リボンのように胴体から零れ落ちていたらしい。

肋骨は大きく折れているものや、粉々になっているものも。下っ端が転がっていた人差し指で転んだとか


其れを聞いた私は更に瞳の輝きを増した。

『そんな死に方!痛くないのかなぁ?ひと思いに死ねるのかな?』

私の声に喜びが時折交じる

オダサクは3回目の溜息をついてこう云った


『少なくとも太宰にはまともな死に方をして欲しい。じゃないと葬式が挙げられない。そうすれば太宰を最後まで大切にできる。最後まで愛せる。俺もできればまともな死に方がいい。太宰に最後まで愛されたいからな』




そんな事を云ってたオダサクは今、腹に穴を開けて私の腕の中で虫の息。

オダサクの息と私の息が白く見える。

オダサクの腹から際限なく流れ落ちる赤黒い血を私は必死に抑えた。


『待ってオダサク。オダサクはまだ行っちゃ駄目だ。』

『だ…ざい』


私は彼のその弱々しい声を無視して処置を続ける


『オダサクはまだ私を一人にしちゃ駄目だ。もっと、もっと私と、、、私を』


顔中冷たい空気で痛いほど寒いのに何故か目元だけは生暖かかった。


『太宰。もう、やめろ』


オダサクのひんやりと冷たい大きな手のひらが私の白い頬を覆った

今や、オダサクの顔に血色感など残っていない。唇も青くて、指先も冷たくて、温かいのは彼の新鮮な血液のみ。

その暖かい血が周りの純白な雪を赤いガーネットのような色に染め上げ溶かしてゆく。



雪の溶ける速さはオダサクの余命のようで私はますます不安になる。


『だざい、、もう止せ』


私の両手が彼の血で真っ赤になった時にそう云った。


『もう…いいから、最後にお前の口から愛してると聞きたい』


オダサクは優しく微笑んだ

が私は微笑み返して愛してるなんてさらりと、云えなかった。

奥歯を食いしばって眉間に皺を寄せ手を小刻みに震わせた。



愛する人が死ぬ間際にこんな表情をする人間が此の世のどこにいようか。

私はそこから頬を緩めることはできなかった。何度も何度と『愛してる』とこの4文字を声に出そうとした。

でも私の脳髄がそれを云えと指示を出しても体が拒むのだ。



もう時間がない。もう間もなくオダサクは息絶える。彼と出会って、彼と人生を共にすることを約束して何回、彼に愛してると伝えただろうか?私は自分にそう問いかける。

疾く、疾く云わねば。はやく伝えなければ


私は彼の段々と冷たくなってゆくその手を強く握って唯、葛藤していた。

『あ…ッ』

『あい…しッ』

『あ…』




『愛し…てる』

『織田作、私は…君を愛してる…』


私はオダサクの優しい眼を見つめた。然し、そこに光は灯っておらず目に涙を溜めている私だけがひっそりと反射して居た。







どす黒い色の海に白い波が浮かぶ。私は織田作を抱えてゆっくりとそのどす黒い海に浸かる。


海と織田作は同じ温度。私はその冷たい温もりに震えながらゆっくりと…ゆっくりと瞼を閉じた。




そこにいる、織田作に私の言葉が届いたと信じて

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