事の始まりは、僕が六歳くらいの時だった。
お母さんと服を買いにショッピングセンターに
来ていた。
「あ、これなんかいいんじゃない?」
お母さんがそう言いながら、
僕に青と赤のTシャツを見せた。
あまり好きじゃないなと思っていたけれど、
何故か素直に気持ちを明かせなかった。
「………….それに…する」
お母さんは嬉しそうに笑い、買い物カゴに入れた。
「じゃあお会計しよっか!」
「うん。」
僕達はレジに向かって歩いて行った。
────その時だった。
僕の視界にキラキラしたものが写った
「お母さん…!!あれ!」
横を歩くお母さんに、「あれ」を指をさした。
「あれは、女の子用のお洋服よ?」
「葵は男の子でしょ?」
その言葉を聞いて、僕は思った。
あのお洋服って、女の子しか着ちゃダメなの?
そう思いながら、レジへ向かった。
お母さんがお会計をしている時、
後ろから女の子の声が聞こえた。
僕は気になって振り返った。
ニコニコ笑顔の女の子が、
「ママ!このお洋服!明日のおでかけで着る!」
っと元気よく言う女の子の手には
ピンク色でフリルとリボンが
沢山付いている可愛らしいお洋服だった。
「(いいな…)」
目を輝かせながら、そのお洋服を見つめていた。
「葵?帰るよ」
「あ、うん!」
最後まで女の子の持っているお洋服を
見つめながら、そっと店を出た。
数日経った今日も、あのキラキラしたお洋服の
ことが忘れられなかった。
そして、、
「(僕も……着てみたいな)」
あのキラキラしていて可愛いお洋服を
着たいと思ったのだ。
それから誰にも言えず、数ヶ月が経った。
少し大きいショッピングセンターにきて、
ランドセル選びをしていた。
僕はランドセルコーナーが見えると、
真っ先に走っていた。
欲しかったピンク色のランドセルが見えたからだ。
「(これ…可愛い…!!)」
あの時の服のようにキラキラしていた。
僕がそのランドセルに目を引かれている時、
お父さんが僕を呼んだ。
「葵、これなんかどうだ?」
そう言い、男の子らしい黒色のランドセルを見せてきた。
「あら、黒にするの?
黒にするなら、こっちのデザインの方がいいわ」
お母さんが別のランドセルを見せてきた。
「葵、これなんてどうかしら?」
男の子っぽいデザインに黒のランドセルだった。
「いや~今どきのランドセルはこんなにかっこいいんだなー!」
「そうよね~笑。特にこのかっこいいの、葵にぴったりね!」
「あぁ!そうだな!」
「く、黒のランドセルにする…」
そう言うとお母さんとお父さんは、
満面の笑みを浮かべた。
この件で、さらに僕は自分の気持ちを明かすのが難しく、苦しくて、自分の好きなものを言うことが、許されないような気がした。
数日経った今日。
小学校の入学式に着る服を買いに来た。
ピンクの服は少なかったが、
フリルの付いた可愛い服があった。
「(これならまだ許されるかな…)」
「お母さん…!」
「ん?」
「これがいい…」
「…それは女の子用のよ?」
「あ…えっと…」
「間違えちゃったのね、笑」
「葵には、これが似合うと思うわ!」
それはズボンで灰色の服だった
「どう?おばあちゃんもおじいちゃんも喜ぶと思うわよ笑」
「じゃあ、、これにする…」
また自分の気持ちを明かせなかった。
そして、入学式。
皆、キラキラした笑顔で入学式に参加してきた。
それとは対象的に、僕はどんよりしてた。
「それじゃあ、皆がお勉強する教室に向かいますよ~!」
先生が大きな声でそう言うと、皆、後ろに並んで
着いて行った。
俯きながら廊下を歩いていると、
横に並んでいる子が、声をかけてきた。
「なーな!名前は?」
「え、、っと…山田葵…です。」
小さい声で呟いた。
「あおい?俺はね、小林彰!」
「あきらくん?」
「そう。彰!」
「よろしく!葵!」
「よろしくね、彰くん。」
「(も、もうお友達が出来た…)」
「はい。ここが、皆のお勉強する教室でーす!」
「それでは、自分の名前が書いてある机と椅子に
行ってみてください!」
僕は自分の名前が書いてある机と椅子を探した。
「(あった。)」
席の場所は1番左の前から2番目。
1人で静かに座っていると、隣から誰かが喋りかけてきた。
「お隣、よろしくね!」
ツインテールの女の子が声をかけてきた。
その女の子には可愛い髪飾りが付いていた。
「(可愛い髪飾り……)」
「聞いてる?」
「あ、」
「(ボーッとしちゃってた…)」
「急にどうしたの?何かあったの?」
「暇だったから声掛けた!」
「そうなんだ…」
「はい。じゃあ皆!席に着きましたね~」
先生が大きな声で言うと、皆が返事をした
「それじゃあ、皆、お隣の人と、自己紹介をしてみましょう!」
「(自己紹介….)」
皆が一斉に返事をした。
「じゃあ私からするね!」
「うん。」
「私の名前は、藤田 凪!」
「凪ちゃん…」
「うん!凪!」
「よろしくねー!」
「うん、!よろしく!」
「じゃあ、僕も…」
「僕の名前は、山田葵。」
「葵くん!よろしくね!」
「はい。じゃあ自己紹介は終わったかな?」
先生が、教室を見回しながら質問を問う。
「まだ好きな物も言ってないのに…」
凪ちゃんが悲しそうに呟く。
「まだ自己紹介が終わってない子は、明日しましょう!」
「やった!!また自己紹介出来る!」
凪ちゃんが笑顔になり、嬉しそうだった。
その横で、僕は好きなものについて悩んでいた。
入学式も終盤。
教室から体育館に戻って、最後に校長先生の話を聞いていた。
「明日からの小学校生活、
皆で力を合わせて頑張りましょう。」
優しそうに微笑んだ校長先生。
司会者が、「礼」と言うと皆、礼をした。
「それでは、皆2列になってくださーい!」
先生の傍へより、時間はかかったが、皆2列になった。
そのまま廊下へ行き、児童玄関へ向かっていった。
玄関に行くと、親達が集まっていた。
皆、靴を履くとすぐ親の元へ駆け寄った。
僕はお母さん達がどこにいるのか分からなかった。
1人でずっと辺りを見渡していると、
お父さんが声を上げて、こちらに来た。
「お!いたいた!」
お父さんに手を引かれながら、児童玄関を出た。
学校の敷地の端の方に立っているお母さんを見つけた。
「あ、葵!入学式どうだった?」
「んー…えっと…」
「緊張したかな。」
「あら~!そうなのね!でも大丈夫よ!」
「これから楽しくなるからね」
お母さんが柔らかい声で言うと、少し安心した。
「本当?」
「本当だぞ!お父さん、小学校の頃が1番好きだったからなあ!」
「え!そうなの!?なら楽しめるように、お友達いっぱいつくる!」
「おうおう!作りまくれ!」
お父さんが元気よく言った。
そして、そのまま駐車場へ行き、車に乗って家に帰った。
時間が経ち、次の日になった。
教室に入ると、彰くんが駆け寄ってきた。
「な!見て見て!俺のランドセル!黒!」
「かっこいいでしょ!!」
「うん、かっこいいね!」
「あ!!葵も黒じゃん!!」
「同じだな!!」
「うん、同じ!」
「(同じなのは少し…嬉しい。)」
「(けど….本当は)」
僕はピンク色のランドセルが良かった。
そして月日は流れ、習字道具や絵の具セット
裁縫セット、エプロン。それらを選ぶ時にも
自分の気持ちを素直に言えなかった。
「(ハートの模様…これなら…)」
「この模様、男の子らしくていいわね!」
まただ。
「(お花模様なら…)」
「このシンプルなやつなんてどうかしら?」
また。
「(水玉模様なら….)」
「この模様大人っぽいわね!」
また。
「(水色なら……)」
「将来、恥ずかしくないように黒ね!」
また?
素直に言えずに、否定され続けたのは今で、
何度目だろうか。もう諦めかけていた。
けど、
まだ諦めなかった。
まだ、納得させれると思ったから。
だから言ったんだ。
小学六年生の秋。人生で一番勇気を出した。
「お母さん….この柄は…?」
「え?それ女の子っぽいわよ?」
「(またそういう言葉?)」
少しイライラした。
「う、うん….駄目…かな?」
不安を抱きながら、お母さんの目だけを見た。
「駄目よ。葵は男の子でしょ?」
────────その瞬間。全てを諦めた。
男の子だと、少し女の子味が入ったものでも、
駄目だと言われる。
いくら勇気を出しても、否定される。
何度も言っても、納得して貰えない。
そして、今、自分の精神の弱さを知った。
だから、僕は心の扉を閉ざした。
それからどのくらい経っただろうか。
中学三年の頃、受験のことも相まって、
ストレスが溜まりに溜まっていた。
その時、僕はストレスを発散するために、
近くにあるデパートの、女子服などを見るのが、僕のストレス発散方だった。
部活終わりだと家族の目もない。
同級生の目だって、先生の目だってない。
ストレス発散中は特に周りの人の目は気にならなかった。
そのくらい、没頭できた。
「(これ、可愛い…)」
「(あ、これも…!)」
あれも、これも全て可愛い。
このストレス発散は、僕の心を弾ませた。自然と笑顔になれた。周りの人にも操られず、少し自由を得られた気がした。
──その時。スマホから着信音が鳴り響いた。
「あ、」
「来ちゃった…」
躊躇いながらも、電話に出た。
「…もしもし。」
「ちょっと葵!早く帰ってきなさい!」
「もう7時よ!!」
「ごめん…今から帰る。」
「とっとと帰って来なさい!」
「はい…」
気分が一気に暗くなった。
「はぁ…..」
「帰るしかないのか…。」
僕は足を少しずつ動かして、家に向かって歩いていった。
そろそろ家の前に着く。
「(はぁ…帰りたくない…)」
家の前に着いてしまった。
「……。」
「よし…..」
玄関の扉を開けた瞬間、、家の空気に飲まれた。
もう引き返せないような空気に包まれた。
「た、ただいま…」
「あ、おかえり!!葵!」
「ほら!もうご飯だから!手洗って座って!」
「うん、。分かった。」
食欲はあまりなかった。昔より胃袋が小さくなったのか、分からないが、兎に角お腹が空かなかった。
「あら、お腹空いてないの?」
「あ、ううん。」
手が止まっていた。
「男は食べないと強くなれんぞ〜」
「そうよ〜。普通、男の子なら、沢山食べるんだけどねえ….。葵は少食なのかしら…?」
「(また男…..)」
何時まで、男っていう性別に囚われないといけないの?
変なのは僕なの?ズレてるは僕なの?
何で正解なの?何が普通なの?
今までの思いが一気に胸に押し寄せた。
むしゃくしゃして、心の中に何か嫌なものが、住み着いたようだった。
「ごめん、今日、食欲無い。」
一言だけ言って僕は、自分の部屋に戻った。
自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
「疲れた…」
電気の付いていない暗い部屋でただ寝っ転がる。
僕は受験勉強を放ったらかして、眠りについた。
────数時間後。
目を覚まして時間を確認すると夜中の2時だった。
起き上がって、着たままだった制服を脱いでハンガーに掛ける。
ハンガーをクローゼットに掛けた時、制服を見つめた。
そのズボンの制服を。
「(ズボン….)」
いつも思う。
僕が履きたいのは、スカートなのにって。
翌日
クラスに入り、席に座ると
小学校の頃から一緒にいる彰が声をかけてきた。
「おはよ〜!葵!」
「おはよ。彰」
「色々とダルいけど頑張ろうぜ〜」
「うん。頑張ろ〜!」
彰は小学校の時と比べて、とても男らしくなった。
運動部に入ったことで体は鍛えられていて、
身長も高くて、顔もかっこいい。
僕とは真反対と言えた。
「あ、葵くん、おはよ〜!」
「おはよ、凪ちゃん。」
凪ちゃんも、
女の子から女性と言えるくらい成長している。
二人を見ていると、何だか置いていかれているように感じた。
部活が終わり、下駄箱から靴を出して、
丁度靴を履いた時、凪ちゃんとばったり会った。
「あ!葵くん!」
「え、凪ちゃん、!」
「部活終わるの早いね、いつも遅めなのに」
「今日は早く終わる日でさ〜!」
「葵くんはいつもこの時間?」
「うん、文化部だからさ」
「あ、そっか。少し違うんだ!」
「あ、このあと予定あるから、先いくね!」
「分かった。またね。」
「またね〜!」
お互い手を振り返し、凪ちゃんが帰った。
僕もデパートに向かって歩いていった。
デパートに着き、いつも通りストレス発散をしていた。
「(あ、これ可愛い…)」
フリルが付いているリボンに手を伸ばした時、
横から伸びてきた手に触れた。
「す、すみません!」
ビックリして勢いよく謝り、お辞儀をした。
「いや、!こちらこそすみません!」
聞き覚えのある女性の声が返ってきた。
「(あれ…この声って…)」
「凪ちゃん…?」
問うと同時に顔を上げると、
フリルがたくさん付いていて、ツインテールを
している凪ちゃんがいた。
「え!?葵くん!?」
「葵くんが…どうしてここに….」
「え、えっと…」
焦りが押し寄せて、冷や汗が出た。
「もしかしてさ、、、」
もう、無理だ。凪ちゃんから言われちゃうんだ。服の裾を握りしめ、俯いて、目に涙が溜まる。
「葵くんもこういうの好きなの…?」
なんて返せば分からなかった。
ただひたすら冷汗が出て、涙が溜まる。
視界に入っている凪ちゃんの足が僕に近づいてきた。
「めっちゃ良いじゃん!」
「…..え?」
目に溜まっていた涙が零れ落ちた。
「引かないの…?」
「引かないよ、笑」
予想外の言葉が返ってきた。
「逆に私もこんな格好してて引かない、笑?」
凪ちゃんに目をやると、底が高い靴に、フリフリの服。高めに結ばれてるツインテール。メイクされた女の子らしい顔。
「引かないよ…?引く要素が無いし…」
凪ちゃんは少し目を開いて、微かに微笑んだ。
「その言葉を葵くんにそっくりそのまま返すよ」
「え、いやいや、笑。僕は別だよ。」
「男なのに可愛いものが…好きとかさ、変だし。」
「別に変じゃなくない?ただ好きなだけじゃん!」
凪ちゃんの口からは思いもよらない言葉しか出てこなかった。
ビックリすると同時に、嬉しくなった。
「凪ちゃんだけだよ…そう言ってくれるの。」
「私もこの格好してて引かないの葵くんくらい笑」
「え、嘘!その格好、超可愛いのに…」
「この格好、量産系って言うんだけどね、周りにあんまり分かってもらえなくてさ….笑」
「え、可愛いのに?」
「……葵くんって褒め上手だよね」
凪ちゃんが瞳をうるうるさせた。
「お礼に、リボン譲る!!」
「なんか見てた様子だと、こういうの買ったこと無さそうだし、」
確かに買ったことは無かった。
「今、確かにって思ったでしょ」
「何で分かったの?!」
「勘かな〜笑」
「凄いね、笑」
お互いニコッと笑い、距離が縮まった気がした。
「てかさあ、葵くんはしないの?」
「ん?何を?」
「ん?だから、可愛い服着たり〜可愛い靴履いたりさ!」
「折角ならしようよ!」
「え!?で、でも…」
「遠慮はいらないよ〜!」
僕は凪ちゃんに押され、色々なコーナーを回った。
靴、トップス、スカート、ヘアアクセ、色々なものを見て回った。
「葵くんの顔、元々可愛らしいから、色んなもの合うね!」
「そうかな…?」
「うん!」
「で、でも、髪型とかが…。」
「そういう時はウィッグだよ!」
「ウィッグ…?」
「簡単に言うとカツラってやつ!」
「カ、カツラ!?」
「ん?別に変じゃなくない?」
「私も髪色変えたい時、よく被るし、」
「(変じゃないのか….)」
それから選んだ服を試着することにした。
物凄くドキドキして、少し不安な思いもあった。
「(本当に…着ていいのかな…)」
「ま〜だ〜?」
「ちょ、ちょっと待って!」
「(い、急がないと…)」
心拍数が上がっていくのが分かった。
若干、手も体も震えていた。
「(よし….!)」
試着室のカーテンを思い切って開ける。
「どう…かな…。」
「え、超可愛いよ!!」
また凪ちゃんの口から思いもよらない言葉が出た。
「え、あ、ほ、本当?」
「本当!めっちゃ可愛い!」
自分の心拍数が少し下がったのが分かった。
「やっぱ、元がいいからねえ…似合う…!」
「元?」
「ううん。何でもなーい!」
元?何の元だ?
「てかえぐかわだね!?」
「あ、ありがとう…?」
流行語?だから意味はよく分からない。けど、
何故か嬉しくなれた。
「折角ならさ!何か一個買おうよ!」
「似合うこと分かったし!」
凪ちゃんは心を踊らせながら、言った。
「でも、今財布持ってきてない…」
「ありゃゃ。じゃあ、明日また一緒にここに買いに来よ!」
「で、でも…」
「?」
「僕、親に言ってない…」
「あら、」
「やっぱ言った方がいいよね…」
「私はまだ言ってないよ。」
「…え!?」
「ん?」
「別に言わなくても良くない?」
「あ、でも友達には言ってるかな」
「え、そっちの方がハードル高そう…」
「そんなことないない!」
「皆、優しい!」
「私、彰くんにも言ってるし。」
「え、ほんと!?」
「彰くん、褒めてくれるよ」
「でも、僕のは別だよ。」
「だから、別じゃないって〜!!」
「ん〜…そうかな….」
「言ってみよ?葵くんと彰くん仲良しでしょ!」
「そんな簡単に仲悪くなったら、友達じゃないよ。」
凪ちゃんのその言葉が強く強く刺さった。
「そうだね…。」
「言ってみようかな…!」
「何かあれば言って!手伝う!」
「ありがとう!」
少し自信が持てた。
その日の夜。
僕は彰に電話をかけた。
「もしもし〜?葵?どうした〜?」
彰の声を聞いた時、緊張と焦りが込み上げた。
「あ、あのさ。言いたいことがあって、」
「言いたいこと?どうしたよ、笑」
「あの、実はね、僕。」
スマホを持つ手が震えて、脈が早くなった。
凪ちゃんはああやって言っていたけど、
凪ちゃんが貰ったような返事は帰って来ないかもしれない。
「実はね…」
「おう。」
「実は、ぼ、僕、、、」
「可愛いものが..好き..なんだ…!!」
「可愛いもの?」
「あ、だからこの前デパートのとこにいたのか」
「え、」
その一言に驚いて、体が固まった。
「この前、部活終わりにデパート行ったらさ、葵みたいな人いてさ、やっぱああいうの好きだったんだな。」
「引いたりしないの…?」
「いや、引かねぇよ笑。そういうのも理解して友達って言うだろ。」
鼻がツーンと痛くなって、表情が崩れた。
涙がゆっくり頬を伝う。
「彰….」
「ん?何だ?他にもあるのか?」
「彰と友達になれて良かった…。」
顎先から零れ落ちた涙が足に落ちた。
「え、あ、葵泣いてんのか!?珍しっ!?」
「え、ちょ、あの、とりあえず落ち着け!落ち着け!深呼吸だ!」
「彰もね、笑!」
「そ、そうだな。俺も、お、お、落ち着かねえと!」
嗚呼、良かった。否定されなくて。引かれなくて。
その後、泣き止んだ僕の話を彰は聞いてくれた。
肯定してくれたり、誕生日プレゼントに買ってくれるっと言ってくれたりした。話して良かった。凪ちゃんを信じてよかった。彰を信じてよかった。
翌日。
財布を持って、デパートへ向かった。午後一時。
ゆっくりと歩道を歩いていた。
お母さん達には1ミリも話してない。
このままで良いか、悩んだ。
言った方がいいのは分かってる。けど、
彰のような返事が返ってくるとは思えない。
だから、話すべきか迷った。
────プルルルルプルルルル
「うわ、!」
突然鳴ったスマホに驚いた。
急いで電話に出ると、凪ちゃんの声が聞こえた。
「あ、もしもし〜?葵くん?」
「もう私着いたよ〜!」
「え、早っ!分かった、すぐ行く!」
「了〜!」
足を動かす速度を早め、デパートへ向かった。
「あ!葵くーん!」
「凪ちゃん!遅れちゃってごめん!」
「全然大丈夫〜!」
凪ちゃんは昨日と同じ系統の服を着ていた。
「じゃあ行くよ〜!」
「うん!」
昨日と同じ店に着き、何を買うか決めた。
「これもいいよ!あ、いや、これもいいよ!」
色んなものをおすすめしてくれた。
凪ちゃんの選ぶものは全て可愛かった。
「これも可愛い…」
ふと呟いた一言に、凪ちゃんは反応した。
え、葵くんセンス良すぎ、と。
「え、あ、ありがとう、!」
センスが良いだなんて言われたことがなかった。
いつも、選んだものを否定され続けた。
だけど、この瞬間は自分の選んだものが認められたような気がした。
「あ、葵くん。これ好きそう!」
「どれ?」
「これ!」
「え、可愛い!」
楽しい。嬉しい。幸せ。
今、人生で一番生きやすい。そう思った。
「これ…買おうかな!」
「おおー!!いいじゃーん!!」
「それにする?」
「うん!」
僕の選んだものを否定されない。
何とも幸せな空間。
店員さんも笑顔で接客してくれた。
「着てみる?」
「次の休みに…」
「おー!まじ?!楽しみにしてる!」
嬉しい。嬉しくて堪らなかった。
「……凪ちゃん。」
「ん?どうしたのー?」
「あの…さ。」
「親になんて言おうかな…。」
「あ〜!そうだね〜…どうしよっか。」
「思いきって言うのもあり…何だけど、」
「んー…。」
「私の友達は、思い切って言ったよ。」
「それで上手くいったみたい!」
「だけど….」
「やっぱ親によるね…」
「だよね…」
どうしようか悩んだ。話すべきか。それとも、
話さず一人で楽しむか。
決めた。
「言う。」
「お。男前だね♪」
「凪ちゃん、ありがとう!勇気出た。」
「こちらこそ。」
「言いに行ってくる!」
「うん!決めて行ってこい!」
「うん!ありがとう!」
夜。
ダイニングに集まった。
「葵、話って何だ?」
お父さんが僕に問う。
「何か相談?」
お母さんが僕に問う。
僕は言う。お母さんとお父さんに、今まで隠してこと言う、と。
その瞬間。二人の表情は変わった。
「も、もしかしてだけど、犯罪とかなの?」
「ううん。悪いことはしてないよ。」
もう覚悟は決まってる。あとは言うだけ。
「あの、実は僕。」
手が震える。手汗が止まらない。
言おうか悩んだ。言うのを躊躇った。
けどこうなるのを分かって、言うのを選んだ。
自分で決めた。決めたから、言うしかない!
「実はさ、」
───────「女の子用品みたいな可愛いものが好きなんだ!!」
「…葵」
お母さんとお父さんは何て思ったのだろう。
引かれた?傷ついた?悲しい?絶望した?
早く返事を返して。どう思ってるの。知りたいよ。
頭の中がそれで溢れかえった。
「葵……そうだったのね。」
「話してくれてありがとうな。」
否定されてない…?
「ちなみに、いつ頃から…好きになったんだ?」
「六歳くらいかな…」
「葵…好きなものを選ばせてあげなくてごめんね。」
お母さんが糸のように細い声で言った。
「習字セットとか…絵の具セット、好きなの否定して…ごめんねッ…」
「な、泣かないで…」
「葵が言いたいことは…女の子みたいな可愛らしいものが好きということだな?」
お父さんが優しい顔で言った。
「だからなのね。昔、女の子用のものを選んでたのは…。」
少々落ち込み気味で、でも納得したような声をしていた。
申し訳なくなった。落ち込ませるつもりは無かった。やはり言わなければ良かったのか。後悔を感じた。
「俺は良いと思うぞ。」
その一言に息を含んだ。
「悪いことじゃないからな。何なら応援すべきことだ。」
「お父さん…」
「そうね、お父さんの言う通りよ。」
「応援すべきことね。」
お母さんも…
涙が視界に入り、お父さんとお母さんの顔が見えなくなる。
「あらあら、笑。泣いちゃった、」
お母さんがしなやかな声で言い、僕に近づいて優しく抱きしめてくれた。
お父さんも近寄り、優しく抱きしめてくれた。
僕は思った。
『話して良かった』と。
『無理させてごめん。』
両親からのこの一言により、僕は慟哭した。
それから、僕は可愛いもの買う回数が増えた。
他学年や同級生の数名からは、馬鹿にされているけど、周りが否定しない。励ましてくれるから、落ち込まずに続けられている。なにより、
己の精神が強く育った。
凪ちゃんや彰、お母さんやお父さんのお陰で、
自分の好きを形に表せている僕がいる。
皆、ありがとう。そして、勇気を出した自分。
諦めなくてありがとう! 勇気を出した自分の
お陰で、新しい自分を見い出せました!
本当にありがとう!今、人生で1番幸せです!
──────────𝑒𝑛𝑑。
10472文字。読んでくれてありがとう。
ド直球なコメントをください。
コメント
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正直泣いた、ほんまいい作品やった 今の時代は多様性やエックスジェンダーやたくさんあるけど、 それを尊重して生きていくことを表現する、とっても素敵で大切な物語やった 勇気もそう、口では簡単に言えるけど、簡単に出せるもんやない けど、それを友達の大切さを結びつけて伝えているかりんが凄い もっと誇らしくこの作品を広げて行った方がええよ