第10話:薬草鍋と暴走する香り
(雪がちらつく狩猟地。クロナと陽気な推薦組がテントの外で素材を仕分け中)
陽気:「ふぃ~っ、いやぁ今日の狩りも上出来! なぁクロナ、素材の色ツヤ最高じゃないか?」
クロナ:「うん、悪くないよ。……でもその背中の袋、さっきから動いてるけど?」
陽気:「えっ!? ……うわっ、まだ息あった!? こ、これは生きのいい素材ってことで!」
クロナ:「……生きてる素材は素材って言わないと思うけど」
(テントの中から受付嬢の声)
受付嬢:「お二人とも~!薬草、もう残り少ないので大事に使ってくださいねっ!」
勝気:「まったく、また薬草が足りなくなるわ。あんたが妙な混ぜ物作るからでしょ」
陽気:「ちょっと待て、今回は大丈夫だって!“強走薬の素”と“薬草”を混ぜて、疲労回復スープにするんだ!」
勝気:「……それ、前に煙が出たやつよね?」
クロナ:「煙どころか鍋が歩いてた」
受付嬢:「鍋が、歩いてた……!? それもう料理じゃなくてモンスターですよ!」
(陽気がテントの外に出てきて)
陽気:「いいか? 今度こそ完璧!“薬草+ハチミツ+強走薬”で……狩人の究極活力鍋ッ!」
クロナ:「……究極(爆発)じゃないよね?」
陽気:「だーいじょうぶ! もう失敗しないって!」
(陽気が鍋に素材を放り込み、ぐつぐつと煮立ち始める)
勝気:「あの人の“だいじょうぶ”ほど信用ならないものないわね……」
受付嬢:「こ、今回は祈るしかないです……!」
(ボコボコボコ……と鍋から妙な音)
クロナ:「……ねぇ、それ泡立ちすぎ」
陽気:「……うん、ちょっと元気すぎるな……お、落ち着け薬草っ!?」
(ボフッ!と緑の煙がテントからあがる)
勝気:「きゃっ!?またやったぁっ!!」
受付嬢:「ま、また目が染みますぅっ!!」
クロナ:「……強走、しすぎたね」
陽気:「うわああ鍋が……立った!? クロナ!逃げ──」
(テントの外でドンッ!!と音)
──その夜、セリエナ拠点。
リーダー:「あ〜……報告書、読ませてもらった。内容が“薬草が暴走したため、狩猟中止”ってどういうことだ?」
クロナ:「事実、だよ」
陽気:「ま、まぁでも!結果的に全員元気にはなったし!」
勝気:「煙吸いすぎて、三時間寝込んでたくせに何言ってるのよ」
受付嬢:「ふふっ……でも、いつも通り賑やかでしたね!」
リーダー:「それはいい事だが…次から薬草の管理は禁止な」
陽気:「そ、そんなぁ~!」
クロナ:「……また鍋が暴れたら困るからね」
勝気:「というか、あれ、もう“薬”でも“鍋”でもなかったけどね」
陽気:「くっそ~!次は完璧に成功させてやるからなぁっ!」
クロナ:「……次があるの?」
受付嬢:「ないですっ!!」
(セリエナに笑い声が響く。薬草の香りは、今夜も少しだけ強めだった。)