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チャイムが鳴り終わると同時に、ガラッと教室の戸が開き女性教師が中へ入って来た。
教師『さぁ席に着いてー!朝HRでも伝えたように、今から皆には軽く自己紹介してもらいます。まぁ昨日の入学式でも挨拶はしたけど、見本として、まずは私からかな?』
教師『改めて私は秋元明日菜、担当科目は現代文・古文。そしてこれから1年間貴方達の担任よ。よろしくね!』
そんな風に、教壇で挨拶をしているのが俺達の担任の秋元先生。
長い黒髪を後ろで1つに纏めているのが特徴的で、国語の教師という情報もあってか何となく知的な印象も受ける。これぞ大人の女性という感じだ。
ただ、顔だけ見ると俺達と年齢が変わらないのでは?と思える位に童顔。顔と雰囲気のギャップが凄い。
秋元『はーい、じゃ何か私に質問あるひとー!あ、プライベートな事は秘密よ?』
なるほど、質問タイムもあるのか。
改めて教室内を見渡してみると、あー中学の時に見たことあるなって奴も数人はいるが、やはりほとんどが初対面だ。
仲良くなるきっかけとして質問で趣味等の情報を仕入れられるのは悪くない。
そんな事を思っていると、ピンっ!と綺麗な挙手をする生徒が目に入る。
拓『はいっ!えー…ご趣味は?あと、休日の過ごし方は?』
拓斗お前…。つか、なんだその喋り方。お見合いか。
秋元『んー、趣味はゲームと映画鑑賞。休日は基本家にいるかな。私インドアだから』
ゲームとは意外だなぁ。まぁでもゲームが趣味な人なんて今時別に珍しくない。ただそう聞いたとき何故か妙な直感を覚えた。
なんだろう。根拠はないけど何となく同じ匂いを感じるというか秋元先生とは凄く気が合う予感がする。
秋元『はい!じゃあこんな感じで1人ずつ出席番号順に前に出て来て、自己紹介してねー!』
そう言い終わると、先生は教室内の自分の席へ向かう。これから、早速出席番号順に自己紹介がはじまるようだ。
名誉あるトップバッターは出席番号1番相川由梨。
俺にとっては開始早々クライマックスだ。
席を立ち、俺の方をちらっと見てパチッとウィンクを1つ。大丈夫!任せといて!とでも言いたいのだろうか。
その姿を見て、何故だかとても不安になる。
そして由梨が教壇の前に立つと、案の定クラスメイト達がその容姿に少しザワついている。
由梨『えーと…初めましてー!相川由梨ですっ。趣味は奏…、…あ、料理です!これから宜しくお願いしまーすっ!』
ニコッと笑顔で無難な自己紹介をする由梨。うんうん。確かに料理得意だもんなぁ。
…ねぇ、あいつ今俺の名前言おうとしなかった?まず趣味が奏…ってどういうこと?
つい数分前に釘刺したのにあれとか、もう恐怖しか感じない。
でもとりあえずはセーフ。限りなくアウトには近いが。
秋元『はーい、ありがとうー!じゃ相川さんに質問ある人ー!』
ハイッ!と良い声で男子達の手が挙がる。まぁ俺にとっては予想通りの展開。
俺の幼馴染みは、あんな簡単な挨拶と笑顔だけでいとも簡単に男子達のハートを撃ち抜いてしまったらしい。
秋元『う、うーん…、気持ちは分かるけどさすがにこれ全員はね…。じゃ適当に私が2人くらい当てるから質問してもらえる?じゃあ、はい君!』
先生もあまりの男子達の勢いに若干引いている様子だが、このままでは先に進まないので仕方ない。
男子A『よっしゃあっ!!あの、好きな男性のタイプと彼氏いるかどうかを教えてください!』
まるで懸賞でも当たったかの様なテンションで質問を投げかける男子。恐らくこの質問は他の男子達の気持ちも代弁しているんだろう。
由梨『えー?好きなタイプは奏…幼馴染み!彼氏は「まだ」いない…かな?』
…あいつって、約束守る気あるのかな?
まだ。の部分を強く主張した様にそう答える由梨。しかし男子達は由梨がフリーということにひとまず安心といった様子。
しかし俺はさっきから机に顔を伏せながら、自分の名前が出そうになる度にビクッと体を震わせていて、とてもそれどころではない。
男子B「はい!じゃあ好きな人もしくは気になる人はいますか!…というか、好きなタイプが幼馴染みっていうのは?」
俺がビクビクしている間に次の人が当てられたらしく、質問は変わり違う話へ。これは危険な質問だ。
教壇に立つ由梨に、顔を上げ恐る恐る目線を送ると目が合う。俺は打ち合わせの通り頼むぞという意味を込めて軽く頷く。それを見て由梨も軽く頷く。
やはりそこは小さい頃からの腐れ縁。何も言わなくても伝わるようだ。
頼む由梨。これで終わらせてくれ!
由梨「えーとまず…、好きな幼馴染みはいますっ!」
それを聞いて、男子達が悲鳴を上げる。
ん?好きな幼馴染み?ちょっと待って由梨さん!あの……!
由梨「あ、幼馴染みっていうのは、そこにいる瀬山奏汰くんの事です!私達小さい頃からずっと一緒なんで!」
それを聞いて、俺も悲鳴を上げる。
さすが由梨。確かにしっかりと終わらせてくれた様だ。色々な意味で。
確かにあいつは約束通り、かなり怪しくはあったが好きな人などの質問に俺の名前は一切出さなかった。そして、幼馴染みということは別に隠さなくても良いと言ったのも俺だ。
だが、質問の返答に何度も出てくる幼馴染みという単語。
もうこんなの誰が聞いてもこの子が好きなのは幼馴染みの男の子だと分かる。
そんな最悪なタイミングで投下される俺の名前。
これで、由梨が好きなのは俺なのだと教室内の全ての人間が理解しただろう。
秋元「…はい静かに!!とりあえず相川さんへの質問はおしまい!ありがとう相川さん、席に戻っていいよ!」
教室が騒がしくなってきた所で先生が場をまとめ、波乱に満ちた由梨の自己紹介はこれで終わりを告げたようだ。
呆然としている俺の目にうつるのは、私ちゃんと出来たよ!と言わんばかりのドヤ顔で俺へピースをする幼馴染みと、今の一連の流れを見て腹を抱えて笑っている拓斗の姿。
きっと俺の自己紹介の際の質問タイムにも、男子達は綺麗に手を揃えて挙げるだろう。
その後1人、また1人と自己紹介が終わっていく様子を
あはは、地獄へのカウントダウンだぁー♪などと思いながら天井を見つめる。
そんな高校生活2日目。
ちなみに、この日俺は何故かこれ以降の記憶がハッキリとしないまま1日を終える。