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モルガナ・オーロラこと王野歌菜の過去話
目を開けたら、知らない場所にいた。見たことの無い建築様式に、人の入った不思議な板あまりにも浮世離れしてるから、夢だということはすぐ気づいた。
(変な夢。)
夢を見ることは多いけど、こんな夢は初めてだ。早く起きれるといいけど。
その家には一人の女の子がいた。髪の毛を大雑把に一括りにする女の子。名前は王野歌菜、というらしい。その子はまぁとにかく、手に負えないぐらいヤンチャだった。朝から広場まで体操をしに行って、そのままお昼まで遊び倒す。お昼にようやく帰ってきて、ご飯を食べたそのすぐ後にまた戻る。門限を30分押し倒して帰ってきて、泥みたいに眠る。それを繰り返すような子だった。男の子に混じって虫取りもするし、女の子たちがお絵描きしてるのに一人だけおもちゃで遊んでた。歌菜さんのお父さんお母さんは、そんな歌菜ちゃんに悩まされてたみたい。何度叱りつけて、慎ましやかに生きろって言っても変わりはしないし、むしろ悪化するばかりだった。反抗するみたいに帰りは遅かったし、友達の家に泊まることも少なくなかった。でも、最終的には諦めちゃったみたい。歌菜は自由な方がいいって、そう言ってた。 そんなことが多かった歌菜さんも、中学生というものになった。相変わらずやんちゃではあったけど、中学受験?をした友達も少なかったらしく、友達も多かった。小学校の頃の生活と変わらず、そのまま暮らす、だった。
ある日、委員長を決めることになった。そわついて、委員長をみんな押し付けあっていた。委員長とはつまり学級の代表、進んでやりたくないのもわかる。だが先生は早く決めたいと言っていて、とても困ってそうだった。歌菜さんとて、こんなことで時間を潰したくないと感じていた。だから、手を挙げることにした。やれる自信なんてものは少しもなかったけど、状況の打破はこれがいいと思ったみたい。
だが委員長は、簡単な仕事ではなかったらしい。みんなの前に立って話すことだって少なくないし、点呼などで一人欠けていると責任を問われることもある。元々の頻度が多いのに、臨時で委員長会をすることもあった。頻繁に居残りをして、部活に間に合うことは、どんどん少なくなっていた。委員長として、クラスに指示を出すことも多かった。だがしかし、子供とは難儀なもので、ちっとも話を聞かないのだ。3回も大きな声で語りかけても、大抵1人2人は話を聞いていなかったとまた指示を聞きにくる。
そんな状況下、歌菜さんは委員長の仕事がかなりストレスだったみたい。段々と、ハツラツとした部分を見れる機会は減っていた。何をしても、何を言われても、曖昧に笑うだけ。笑っていれば、多少のことはどうにかなると、笑うことしかしなくなった。そんな笑みを見て先生たちは安心したのだろう、彼女の仕事は割り振られる量が多くなっていた。本人がなまじ優秀だったのも良くなかった、割り振られても解決できてしまうほどの力があったから、断ることができなかった。
役割と勉強に押し潰される生活。少しづつ、楽しかったはずの学校が苦痛になっていった。学校にいる間は早く帰れることだけを考えながら勉強をしていた。
早く帰りたい。
家に戻りたい。
面倒事から解放されたい。
責任を負いたくない。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
「あれ、学校で何してたっけ?」
自覚をするにはあまりに遅すぎた。いつの間にか、学校での記憶が飛んでしまうようになっていた。登校して、ホームルームまでは覚えている。そこから先が、水に混ぜられたみたいに曖昧だ。でも、それを両親には相談しなかった。両親には心配をかけさせられないから、ただでさえ迷惑かけてるのに。学校の記憶がなくたっていいじゃないですか、家で明るい王野歌菜で居られているなら、何も問題ない。問題ないんですよ。
だから、耐えていればいい。どうせ学校にいても、後で忘れるんですから。忘れていればいい。面倒なしがらみも、仕事を押し付ける先生も、後で忘れれるならなんでもいいじゃないですか!
いいんですよ、話を聞いてなくたって。わかるまで説明するだけですから。
いいんですよ、申し訳なさそうな顔をしなくたって!あなたの仕事を私に渡してるのは変わらないんですから!
どうして、私をそんな目で見るんですか?ほら、私笑えてるじゃないですか。笑い方なんて変わりますよ、人間なんですから。声を上げて笑わずに、曖昧に笑ってたって、それって笑えてるじゃないですか。だから平気です、心配してくれてありがとう!だから もう、そんな目を向けないで。
自分の輪郭が溶けていく、海と空の境界線みたいに。
自分が遠くなっていく、空を飛ぶ自由な鳥みたいに。
自分が消えていく、秋に枯れる花みたいに。
「最近小学校からの付き合いの子が私の事心配してくるんですよ、なんでだと思います?そんなことないと思うんですけどね。」
「あ、私髪型チェックしていいですか?やった、ありがとうございまーす。」
「……あれ」
「私って、こんな顔だったっけ。」
……変な夢を見た気がする。何も思い出せない。というかここってどこでしたっけ……そうだ、サボってここまで逃げてきたんだった。
「モルガナー!!仕事しろーーー!!」
「げっ、もう来た……!」
とりあえず、走って逃げましょう!
責任を負うの、大嫌いなので。
歌菜は軽い解離性障害です。苦痛に感じる時間である学校を忘れるところから始まり、最終的には自分を維持できないほどおかしくなりかけました。家では平常なのも悪さをしてます。この過去編でいちばん怖いのは、途中までは客観的だったモルガナさんまで、歌菜ちゃんの過去に巻き込まれたことです。
コメント
6件
ねぇつらい、つらいって これ記憶戻すのって本当にいい事???
第5話、読み終わりました……王野歌菜が委員長になってから少しずつ追い詰められていく流れ、胸がぎゅっとなりました。「笑っていればなんとかなる」って頑張って笑う姿が痛々しくて。自分の顔がわからなくなるあの感覚、すごく丁寧に書かれてて、この子の孤独がひしひし伝わってきました。解離の話って重いテーマなのに、ファンタジーのモルガナと地続きになる構成が本当に巧いなと。続きも気になります、彗奈さんお疲れさまです🌷