テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
サノさんとジントさんしか登場しません。
2人は恋人です。
サノさんはアイドル、ジントさんはアイドルではありません。
かなり悲しい切ない内容です😭
ハッピーエンドではないです。
以上のこと大丈夫なかたのみ観覧お願いします🙇♀️⤵
「俺、海外プロジェクトに参加することになった」
勇斗は、できるだけ明るい声で言った。
向かいに座る仁人は、目を丸くしたあと、すぐに笑った。
「……すごいじゃん。おめでとう」
その笑顔を見て、勇斗は少しだけ安心した。
本当は、怖かった。
二年間の海外活動。今後のキャリアを大きく左右するチャンス。そして、事務所から告げられた条件。
——恋愛関係は、解消してほしい。
仁人の存在が知られれば、活動に支障が出るかもしれない。今後の仕事にも影響するかもしれない。
勇斗は、まだ何も決めていなかった。
「仁人は……どう思う?」
聞いておきながら、答えを聞くのが怖かった。
仁人は少し考えてから、いつもの調子で言った。
「俺に聞くことじゃないでしょ。勇斗の夢なんだから」
「でも……」
「ずっと頑張ってきたじゃん。ここで諦めたら、もったいないよ」
仁人は笑った。
勇斗がずっと見てきた、大好きな笑顔だった。
「俺は応援するよ」
その言葉に、勇斗は救われた。
同時に、ひどく残酷なことをしている気がした。
仁人が自分を好きだからこそ、何も言わずに背中を押してくれることを、勇斗は知っていたから。
それでも、勇斗はその優しさに甘えた。
「……ありがとう」
その日、勇斗は仁人の手を握らなかった。
握ってしまえば、離せなくなる気がした。
別れを告げたのは、それから三週間後だった。
「……ごめん。俺、海外に行くことにした」
仁人は、しばらく黙っていた。
「そっか」
「うん」
「いつから?」
「来月」
「……そっか」
仁人は何度も頷いた。
勇斗は、何か言ってほしかった。
行かないで、とか。
俺を選んでよ、とか。
そんな言葉を言われたら、きっと自分は困ってしまう。
なのに、仁人が何も言わないことに、少しだけ腹を立てた。
「……それだけ?」
口にしてから、後悔した。
仁人はゆっくり顔を上げた。
「何て言えばいいの?」
「いや、そうじゃなくて……」
「俺に、夢を諦めろって言ってほしかった?」
勇斗は言葉を失った。
仁人の声は、怒っているようには聞こえなかった。
ただ、ひどく疲れていた。
「俺さ、勇斗のこと好きだよ」
仁人は笑おうとした。
「今でも、これからも、たぶんずっと好きだと思う」
勇斗の喉が詰まった。
「でも、好きだからって、勇斗が頑張ってきたものを俺のために捨ててほしいなんて言えないよ」
「……仁人」
「だから、行っておいで」
仁人はそこで初めて、泣きそうな顔をした。
「俺のことは、気にしないで」
その瞬間、勇斗は抱きしめたくなった。
何もかも放り出して、ここにいると言いたくなった。
けれど、できなかった。
勇斗は仁人を抱きしめる代わりに、小さく頷いた。
「……うん」
仁人は、最後まで勇斗を責めなかった。
それが、勇斗にとって一番苦しいことになるなんて、そのときは知らなかった。
海外に渡ってから、勇斗は驚くほど忙しかった。
新しい仕事。新しい仲間。慣れない土地。
ステージに立てば、歓声が降り注いだ。
夢だった景色が、目の前に広がっていた。
「勇斗、最近すごいよな!」
仲間に肩を叩かれ、勇斗は笑った。
「ありがとう」
その笑顔は、誰が見ても幸せそうだった。
実際、幸せな瞬間はたくさんあった。
大きなステージを成功させた日。
ずっと憧れていた人に褒められた日。
自分の名前が、遠い国の観客から呼ばれた日。
そのたびに、勇斗は思った。
——仁人にも、見せたかったな。
最初のうちは、そう思うだけだった。
そのうち、何かいいことがあるたび、スマホを手に取るようになった。
仁人に送ろうとして、やめる。
もう恋人じゃない。
今さら連絡して、何になるんだろう。
それでも、送信画面を開くことだけはやめられなかった。
ある夜、勇斗はふと思い出した。
日本にいた頃、仕事で失敗して落ち込んだ日に、仁人が作ってくれた不格好なオムライス。
ケチャップで書かれていたのは、たった四文字。
『おつかれ』
あまりにも普通で、あまりにもくだらなくて。
あのときは笑ってしまった。
でも、あの日の勇斗は、本当は泣きそうなくらい救われていた。
どんなに大きなステージに立っても、仁人の作ったあのオムライス以上に、自分だけを見てくれていると感じる瞬間はなかった。
勇斗はスマホを伏せた。
「……会いたい」
誰もいない部屋で、初めて声に出した。
返事はなかった。
一年半が過ぎた頃。
勇斗は日本での仕事のため、一時帰国した。
空港からホテルへ向かう車の中、窓の外を眺めていると、見覚えのある街並みが目に入った。
仁人とよく歩いた道だった。
「あ、ここ……」
口にしかけて、やめる。
もう、仁人と歩くことはない。
そう思った途端、胸の奥がひどく痛んだ。
その夜、勇斗は共通の知人に、何気ないふりをして尋ねた。
「……仁人、元気?」
「元気だよ。最近、仕事も頑張ってるみたい」
「そっか」
「そういえば、今度結婚するらしいよ」
勇斗は、聞き返せなかった。
知人は何も知らないまま、楽しそうに話を続けた。
「相手の人、すごく優しいんだって。仁人のこと大切にしてくれてるみたい」
勇斗は笑った。
笑えた、と思った。
「……よかった」
その一言を口にするまで、どれだけ時間がかかったのか、自分でもわからなかった。
ホテルに戻ってから、勇斗は何度もスマホを手に取った。
連絡先は、消していなかった。
最後のメッセージは、別れた日のものだった。
仁人から届いた、たった一通。
『今までありがとう。勇斗のこと、ずっと応援してる』
勇斗は、何度も読み返した。
自分は、何を守ったのだろう。
夢は叶った。
欲しかった場所に立てた。
たくさんの人に認められた。
それなのに。
どうして、こんなにも苦しいのだろう。
勇斗は初めて、仁人がいなくなったことを、誰のせいにもできないと気づいた。
仁人は奪われたんじゃない。
誰かに取られたんでもない。
ー自分が、自分の手で、手放したのだ。
「……俺、何やってんだろ」
声が震えた。
泣いてしまえば、少しは楽になるのかもしれない。
でも、泣いたところで何も変わらない。
仁人はもう、自分を待っていない。
自分がいなくても笑えるようになった。
自分がいなくても、幸せになれる人を見つけた。
それは、勇斗が一番望んでいたことだった。
仁人には幸せでいてほしかった。
自分がいなくても、ちゃんと笑っていてほしかった。
——本当に、そう思っていた。
でも。
いざ本当にそうなってしまったら。
こんなにも、苦しいなんて。
帰国最終日。
勇斗は、どうしても足が向いてしまった場所があった。
二人でよく待ち合わせをした、小さな公園。
ベンチも、街灯も、あの頃と変わっていなかった。
勇斗は一人でベンチに座り、空を見上げた。
「……仁人」
呼んでも、誰も振り向かない。
当たり前だ。
ここには、もういないのだから。
勇斗は、ポケットからスマホを取り出した。
メッセージを打つ。
『元気?』
消した。
『久しぶり。会いたい』
それも消した。
『結婚、おめでとう』
指が止まった。
送れば、きっと仁人は返事をくれる。
優しい仁人なら、きっと。
『ありがとう。勇斗も頑張ってね』
そんな言葉をくれるかもしれない。
想像できてしまうことが、何よりつらかった。
仁人は最後まで、勇斗の夢を応援してくれる。
自分の幸せを願ってくれる。
そして、もう二度と、自分のところには戻ってこない。
勇斗はスマホを閉じた。
「……ごめん」
誰に向けた謝罪なのか、自分でもわからなかった。
夢を選んだ自分にか。
何も言わずに送り出してくれた仁人にか。
それとも、あの日、あと一度だけでも抱きしめておけばよかったと、今さら思っている自分にか。
風が吹いた。
勇斗は立ち上がり、歩き出した。
振り返らなかった。
振り返っても、そこに仁人はいないから。
その夜、勇斗は再びステージに立った。
何万人もの観客が、自分の名前を呼んでいる。
光がまぶしい。
音楽が鳴る。
勇斗は笑った。
いつもどおりに。
完璧なアイドルとして。
最後の挨拶で、勇斗はマイクを握りしめた。
「僕は、ここまで来られて、本当に幸せです」
嘘ではなかった。
「応援してくれる皆さんのおかげで、夢を叶えることができました」
それも、嘘ではなかった。
だからこそ、続く言葉が出てこなかった。
——でも、ひとつだけ。
——どうしても、取り戻せないものがあります。
そう言いたかった。
けれど、勇斗は笑ったまま、頭を下げた。
大きな拍手が響いた。
誰も気づかなかった。
その笑顔の奥に、今でもたった一人に会いたくて仕方がない人間がいることを。
ステージを降りた勇斗は、誰もいない控室でスマホを開いた。
仁人とのトーク画面。
最後のメッセージ。
『今までありがとう。勇斗のこと、ずっと応援してる』
勇斗は画面を指でなぞった。
そして、誰にも聞こえない声で呟いた。
「……俺も、ずっと好きだよ」
もう、届かない。
届かなくても、好きだった。
夢を叶えた今も。
夢を叶えたからこそ。
あの日、仁人の手を取らなかった自分を、勇斗はきっと一生忘れない。
夢は、叶った。
ーただ、その夢を一番に見せたかった人だけが、もうどこにもいなかった。
もし皆さんが同じ状況下にあってどちらかを選ばないといけないとき
どちらを選びますか?
コメント
1件
うわ、切ない……。夢叶えたのに、その一番に見せたかった人を自分の手で手放しちゃったっていうのがもう、ずしんと来たよ。最後の「俺も、ずっと好きだよ」が届かないところが本当に辛い。お互い想い合ってたのにすれ違っちゃった感じ、心に残るわ……😢