「あ、なんか近いな。」
第21話:『一緒に帰んの、久しぶりやな。』
コンビニを出た帰り道。
夕暮れの光が街をオレンジ色に染めてた。
並んで歩くのは、どれぐらいぶりやろ。
数週間後?いや、たったそれだけのはずやのに、
なんか、ずっと前のことみたいやった。
樹が手に持ったアイスの袋をちらりと見て、
俺は小さく笑う。
「まだ、その味好きなんやな。」
「そらそうよ。俺、チョコミント派やもん。」
「変わらんなぁ。」
いつもみたいな会話。
けど、心の奥は少し震えてた。
(……こんな風に話せるの、久しぶりや。)
沈黙が流れても、
不思議と嫌じゃなかった。
足音と、蝉の声。
ふたりの間にある空気が、少しずつ柔らかくなる。
「なぁ、光輝。」
樹がふいに呼ぶ声に、胸が跳ねた。
「…ん?」
「最近どんな感じ?」
「んー、まあまあ。」
ほんとは、”寂しかった”って言いたかった。
でも、口に出したら、もう戻られへん気がして。
「そっちは?」
「俺か?……なんや、やっぱちょっと変やったで。光輝おらんと。」
その言葉が、心に刺さる。
笑いそうになったのに、笑えへんかった。
「……ごめんな。」
「え?」
「いや……なんか、急に距離取ってもうて。
別に、樹が悪いとかちゃうねん。」
自分でも、何を言いたいのか分からん。
けど、少しでも本音を混ぜたかった。
樹は何も言わずに、ただうなずいた。
その顔が、やけに優しかった。
(……あかんな。)
こんな顔されたら、また好きになってまう。
駅の前に着いたころには、空が群青に染まってた。
街灯が灯って、ふたりの影が並ぶ。
「ここまでやな。」
「うん。」
別れ際、俺はふっと笑う。
「……一緒に帰んの、久しぶりやな。 」
「せやな。」
樹の声が、少しだけ嬉しそうに響いた。
その声に、俺の心がまた少し、近づいた気がした。
「この距離、もう一回、戻せるんかな。」
胸の中で呟いた言葉は、
夜風に溶けていった。
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