この作品はいかがでしたか?
510
この作品はいかがでしたか?
510
「何処にいるの?」
「なに見てるの?」
「何処へ行くの?」
「貴方に忘れないでほしいだけ。」
これは亡くした幸せを見つける物語。
第一章
ゆっくりと目を開けた。窓から差し込む光が眩しくて少し目を細くする。どうにも瞼が重くって自分の指先で目を擦った。ピタッと触れた自分の指先はどうにも冷たくて僕は自分の手を凝視した。
あれ。「僕」なんて言ってたっけ?
俺?私?妾?なんだっけ?
脳に浮かぶ疑問を膨らませていく。
ここはどこ?
「ジニヒョン!」
呼ばれた方を見ると美形の男の子がいた。すんごい良い香りもするし、ザ、イケメンって感じだ。目は少しキリッとしていて睫毛が長い。鼻が高くてめっちゃハンサム。見ただけでモテるって分かるぐらいのクソイケメン。誰かはわからない。「ジニヒョン」がなんなのかも。人の名前?果物の名前とか?なんて考えても起きたばかりの僕の脳は思った以上に機能しなくて。ただ彼の顔を見つめた。薔薇みたいな人だなぁ…
「…ジニヒョン…?」
優しく囁くその声は少し戸惑ったような声だった。それが心配になって僕は彼に話しかける。
「あの、どちら様ですか?」
僕がそう言った途端、彼の顔はサァーと青ざめていき彼は床に腰を落とした。
どうしたのだろう。僕、変なこと言ったか?初対面の人になんなのかもわからない名前を叫んでくるやつの方が変だと思うけど。
「…嘘…嘘でしょ…」
彼は俯きながら呟いた。顔は見えないけれど声からしてきっと、絶望みたいな顔をしているんだろう。変な人だなぁ。急に話しかけて来たと思ったらこんなになっちゃって。精神科の人か?
「…あの…大丈夫ですか?」
首をかしげながら言葉を発した僕を見た途端、彼は泣き出してしまった。
「…嫌だ…ジニヒョン…嘘でしょ…?…ねぇっ!嘘って言ってよ!!!!」
涙を流しながら訴えてくる彼を見ても僕には何もわからなくて。どうして泣いているのか。何をいっているのか。ただ、胸がキゅっと苦しくなった。僕は戸惑ったような顔色を見せながら彼の背中をさすった。
「…ごめんなさい…僕、本当に何もわからなくて…」
「…あ゛ぁぁっ!…いや、いやぁ…ジニヒョン!!!」
そんな僕を見るやいなや彼はまた泣き出した。もう、どういうことなの?わかんないよ。
すると扉がガラッと開いて白衣を着た男とナース服を着た女がなかに入ってきた。
アレ?この人たちの格好…もしかして病院?
「ソクジンさん!目を覚ましたんですね!!」
女の人は僕に向かってそう言った。
「ソクジンさん」?誰?えっ、僕?
「連れのかたですか?ちょっとこちらに。」
白衣の男がイケメン男を連れて部屋を出ると僕は、ナース服を着た女に声をかけられた。
「ソクジンさん、今まであったこと、覚えてますか?」
【今まであったこと】
浴びせられた質問に僕は口をつぐんだ。どうしてここにいるのか。あの人は誰なのか。ソクジンさんとは僕の名前なのか。確かに言われてみるとわからない。
「…わかりません。」
「…真剣に聞いてください。貴方のそれは”分からない”じゃなくて”覚えてない”なんです。」
僕にはいってる意味がわからなかった。
覚えてない?僕が?何を?まるで忘れているかのような、記憶をなくしているかのような。って…もしかして…僕、いやでも、そんなこと…
「…もしですよ?…もしですけど…僕が記憶をなくしたとか…そういうことですか…ね?」
「…ものわかりが良い方で助かりました…」
「…う…嘘…」
今やっと理解した。僕が彼を知らなかった理由。ここにいる理由。ソクジンという名に疑問を抱いたいた理由も。そっか…全部僕が忘れてただけ…彼も過去も全部どこかの記憶のなかにいたもの。それを僕が、僕が、捨てちゃったんだ。
そう感じた瞬間、目の前が真っ白になって僕は何も見えなくなった。聞こえるのはナースさんの声だけ。なにか大事なことをいってる気がする。何もかもがぼやけてしまっていて僕は怖くなって目をつむった。
第二章
朝より心重たい気分で目が覚めた。自分が何もかも忘れてしまっている。大切な人も何もかも。
僕が体を起こそうとすると僕の膝子上に乗っている頭に気がついた。綺麗でさらさらな髪。少し汗ばんでいてほんのりシャンプーの良い香りがする。匂いだけでもわかった…
彼だ。
一応顔を確認するとやっぱり彼だった。目元はヒリヒリ赤く腫れていてキレイな口を開けたまますやすや寝ていた。あんなに泣いていたからね。白衣の人に連れていかれた後も泣いたのかな?…貴方は気づいているんですか?教えてもらいましたか?僕のこと。貴方は僕を知っている。でも、僕は貴方を知らない。覚えてない。もう、泣かないで。貴方と僕はどういう関係だったんですか?
教えてほしいんです。
彼の顔の輪郭を自分の指で丁寧になぞる。綺麗で悲しそう。頬はほんのり暖かくてちょうど良い。彼の頬をふにふにっと摘まむと口元を緩ませて僕の手にすり寄った。
「…へへっ…ジニヒョン…好き…行かないで…」
一瞬だけ焦ったしまった。起きているんじゃないかと。反射的に手をどかすと彼はまた、すやすやっと眠りを深くする。
ごめんね。ごめんね。彼の寝言を頭のなかでリピートする。何も覚えてなくてごめん。忘れてしまってごめん。辛いのは貴方なのに…僕が泣いて…
「…ごめんなさいっ…うぅ…」
「…ジニヒョン…?」
彼の声が鮮明に聞こえた。寝起きのやる気のなさそうな声。それでも彼の声はやっぱり聞き惚れてしまうほど優しくて。僕は彼の目を見つめた。
「…どうして泣いているんですか…?」
「…あっ、やっ、違くて…えっと…」
彼は心配そうに眉を下げた。僕が戸惑っていると彼は哀しそうにニコッと笑った。
「…言えないのなら良いんです…」
「…ごめん、なさい…」
「謝らなくて良いですよ。仕方ないです。誰も悪くない。ジニッ…貴方が苦しむ必要はない。」
酷く哀しい優しさだった。やっぱり貴方は僕を優先してくれる。僕よりも年下だろうに。君が抱え込むことでもないだろう。
そう考えていた僕は続く沈黙に耐えれなくて空気を変えようと自分の聞きたいことを聞いた。
「…あのさっ、ジニヒョンって僕のこと?」
「…はい。そうです…僕が勝手に呼んでる愛称です…すいません…呼んでほしくなかったら全然っ」
「違う!呼んでほしい!前の僕にもそう呼んでたんだったら!!」
声が枯れるんじゃないかってぐらい大きな声を出した。貴方に呼んでほしくて。昔の自分に戻って、ただ貴方が笑ってくれたら。喜んでくれるなら。僕はそれで良い。
「…ほんとですか?」
「…うん!もちろん!」
「…わぁ!!!!」
彼は顔をパッと明るくしながら僕を見つめた。犬みたい。ないはずの尻尾がフリフリ動いているように見える。フフっ、面白いなぁ…
「ジニヒョン!!ジニヒョン!!」
「ハイハイ、なぁに?」
「えっへへ、呼んでみただけです!」
「なんだよそれぇ~!ヒャヒャッ」
貴方との会話は楽しい。窓ふきみたいな笑いかたになっちゃうのも、不思議と口元が緩んじゃうのも、貴方だけ。ただ、笑っていてくれたら。僕のその声で、貴方のその顔が緩んでくれたら。それだけで良いから。そのぐらい僕だってしてあげられる。できることはやりたい。それだけ。
「…ねぇ一つ聞いても良い?」
「ん?はい!なんですか?」
「僕は君のことなんて呼べば良いの?」
「あっ、確かに。」
「…ごめんね。名前も覚えてなくて。」
「だーかーらー!あやまらなくていいですって!ん~そうですねぇ…僕、キムテヒョンなんでヒョンの好きなように呼んでもらって構わないですよ?」
ヒョンの好きなように。そんなこといっちゃって良いのかぁ~?僕、もしかしたらめちゃくちゃ変なあだ名つけるかも知れないよぉ??下ネタ大魔王とか。あ、それはダメか。
「前!前の僕はなんて呼んでたの?!」
「えっ、前のジニヒョンですか?普通に呼び捨てでしたけど。」
「じゃあ僕もそうする!テヒョナって呼ぶ!」
「まってください。」
元気にそう言った僕の声を遮るようにテヒョナは声をあげた。
「ん?どうしたの?テヒョナ…」
「ジニヒョン、どうして前の自分を気にしてるの?」
「へっ?」
「さっきから「前の僕がそうしてたなら」って何か気にしてる。何で?」
真剣な眼差しで見つめてくるテヒョナの顔は少し怖くて僕はベットの背もたれに背をつけた。どうしてそんな顔してるの?
「あっ、えっと、」
「…あのねジニヒョン、僕は前のジニヒョンに戻ってほしいなんて思ってないよ。」
「えっ、」
「確かに昔のジニヒョンも大好きだよ?でも、無理してジニヒョンが合わせる必要はないよ。僕はジニヒョンのそのままが好きなんだ。だってジニヒョンはジニヒョンでしょ?」
「…わかった…」
「わかってもらえたなら良いんです。」
「…テヒョナは罪な男だ。」
「えっ!?何ですかそれ!?」
今わかった。テヒョナは言動一つ一つがかっこよすぎる。なに?好きとか連発しちゃってさ。それで前の僕も墜としてきたんでしょ。知ってるからね。だって僕、今ものすごくドキッとしたんだけど。恋に墜ちるところだったんだけど。いやもう墜ちてるかも。絶対前の僕、テヒョナにベタぼれだっただろ…こんな優しくてかっこよくて可愛いイケメン男が近くにいたら誰でも好きになんだろ。
「はぁ…」
「ちょっ、何ですか!溜め息なんかついちゃって!罪な男ってどういうことですか!」
「あーあーあーお前はわかんなくて良いの!じゃあね!」
「じゃあねってまだ病院からでちゃダメなんですよ!」
「あぁ~そっかぁ…じゃあ昼食の時間になるまで寝る!」
「えっ!?また、寝るんですか!?」
「おやすみ!」
「ちょっ、ジニヒョン~!!!!」
コメント
6件
はぁ…死にそうです✨どんだけ上手いんですかぁ?
ハート35!ありがとうございます!頑張ります!