翌日、コユキと善悪が向かった先は、吹田(すいた)市の誇る学園都市、関西大学のお膝元、千里山下(せんりやました)の駅前であった。
とはいえ、揃って田舎者の二人である、目的地の豊中市にある天神様に辿り着く間も騒がしい事この上ない。
「ね、ね、善悪見た? あのお店人参三本で十円だって、どう、どうなの? 買うでしょ! いつ買うの、今でしょっ? だよね!」
善悪は言うのであった。
「千円以上お買い上げのお客様限定でござろぉ? あんなの客寄せでござるよっ! 全く馬鹿なんだからっ! ちょっとアーティファクトに集中してよ! コユキちゃんっ! で、ござるっ!」
善悪がイライラしてしまうのも仕方が無い事であった。
此処(ここ)までの道のり、耐性の無いコユキは一々反応しては、あれがお得でござるの、あれは奇跡の安さだとか、店の前を通り過ぎる度に一々大騒ぎを繰り返したのである。
「ね、ね、今度こそお徳の極みよ! カップラーメンが二十円だってさぁ! 買った方が良い! ってか買わない奴って馬鹿でしかないじゃんかぁ! 買おうよ、ねえ、買いましょうぉ!」
善悪は面倒くさくて仕方なかったが、無視でもしたらかえって面倒臭い事になると考えて、仕方なく返事をしたのである。
「うん、そうかもね? んで、そのカップ麺の賞味期限は何時(いつ)なのでござるか?」
コユキはジロジロと目を瞬かせてから答えるのであった、んの前に店長の苛立たしそうな舌打ちが響いたんだが、
「ちっ!」
「ええとね、あれ? 何だこれ? 賞味期限が後二日だってよ! 静岡じゃあ考えられないよね? 賞味期限一週間前にはお勤め品だよね? ええっ! 大阪の人って詐欺師、な、の?」
善悪は面倒くさそうに答える。
「そうなっているんなら、そうなのでござろ? そんな物に一々反応しないで天神様を目指していくでござるよ! 目指せ! 一寸法師のアーティファクトっ! でござろう?」
コユキは溜息と共に答えるのであった。
「オケイ、善悪…… にしても、名にし負う大阪商人までこんなセコイ真似を…… 日本って世知辛いわねぇ~」
「まね」
そうして二人が辿り着いた天神社は|人気《ひとけ》もなくシーンと静まり返っていたのであった。
コユキが問う。
「ねえ、本当にここなの善悪? 今迄で一番しょぼいんだけど……」
善悪が答えた。
「だけどさ、今までオルクス君のサーチで外れた事無かったじゃんかぁ、ってことはここが『一寸法師』の聖域でござろ? 異論ありぃ?」
「にしてもさぁ……」
祭りの時期から外れているせいもあるのであろう、目の前に広がった境内は、どっかの不良少年でも屯った(たむろった)のであろうか?
たばこの吸い殻とスト◯ングゼロの空き缶塗れ(まみれ)のキッチャナイぃゴミが散乱しているだけの空間と化していたのであった、残念至極っ、である!
善悪は足元のペットボトル(潰し済み、吸い殻IN)を蹴飛ばしつつも答えるのであった。
「分かる、分かるよぉ! んでもオルクス君の指示した場所はこの境内のすぐ裏、本殿の後ろ二メートルでござるから、まずはそこに向かお! ね、コユキちゃん! やることやってからさ、気になることを片付けようよぉ! んね?」
「そうね、アーティファクトを集めた後でやろっか? 汚すぎるでしょ? これ! 何なの? 豊中の市民って天ぷら星人なの? きっもっち悪いわー、吐き気よ吐き気ぇ!」
善悪が言う。
「ま、まあねえ~」
※本作品はフィクションです、実際にあるかも知れない大阪府豊中市の現状とは一切関係ない事をご了承ください。
と、現実にあるかどうかは判らないが豊中市と言う架空の町の天神社に辿り着いたコユキと善悪は、細めの木立の間を抜けて、本殿のすぐ後ろ、茶色の岩が重ねて置いてある足元を見つめたのであった。
「ここね?」
「うん、そうでござるなぁ?」
人が入れそうな隙間は無いようである……
コユキが言った。
「ねえ、善悪ぅ、これさ壊してみよっか?」
「むむう、分かるよ、そうなるのでござろうなぁ、んでもさ? 罰とかさ…… 大丈夫であろうか?」
コユキが面倒くさそうに考えるのに飽きた感じで言うのである。
「良いんじゃない? もう、汚いしっ! こんな雑な神様とかさ、大した罰とか寄こしてこないんじゃないのぉ?」
善悪も真剣な顔で答えた。
「だね♪ んじゃあ、壊しちゃおっかぁ! 頼むよぉ、コユキちゃん! ぶっ壊せぇ!」
『ちょ、ちょっとまってぇぇぇ~!』
知らない人の声がした、参拝客もいないこんな寂れた(さびれた)天神社の裏山に? 誰だろうか?
頭を捻る二人に向けて、許可も出していないのに勝手に話し始める存在が一つ、まあ、聞いてやるしかないか……