「ねえ、先生…僕はどうすればいいのかな」
僕はそう言ったが、その言葉は先生ではなく、自分自身に向けていた。
「……及川、どうすればいいかじゃなくて、どうしたいかだろ」
どう、したいか。僕は何がしたかったんだろう。……ああ、そうか。京介に謝って、またいつも通りに戻りたかったんだ。でも、京介はそれを許してはくれなかった。京介が僕に向ける気持ちと、僕の京介への気持ちの差が、こんな事になったんだろう。
僕にとって京介は、友達で、兄のような存在だった。でも、京介は違ったみたいだ。
蓮が言っていた通り、京介は本当に……。
僕はもう一度、空を見上げた。雨はまだ降り続いている。
僕はベットに横たわり、部屋の天井を見上げていた。
あの後、僕は木村に家まで送られた。その間僕は、一言も話さなかった。それでも木村は文句1つ言わず、僕に優しく接してくれた。
(「及川、無理だけはするなよ」)
そしてそう言い残し、帰って行った。
……。
京介の、あの顔が忘れられない。
僕は京介が泣く姿を、1度も見たことが無い。ハルが死んだ時でさえ、京介は泣いたりはしなかった。ただ、ずっと下を向いていた。
京介はいつも冷静で、感情を大きく表に出すことは滅多にない。……だからなのかもしれない。こんなに心が揺さぶられるのは。
僕は静かにため息をついた。
部屋の白い天井は、病室を彷彿とさせる。病院にはいい思い出があまりない。
……嫌な事ばかり、考えてしまう。
「全部忘れられたら、楽なのにな…」
そうだ。余命も、過去も、家族も、友達も、全部。忘れられたら、悩む事なんて無いだろう。僕じゃない僕が、全て解決してくれるはずだ。
「……」
こんな事考えたって意味ないのに。
「皆ごめん…僕じゃ、駄目だ…」
僕は枕に顔を押しつけ、込み上げて来る感情に蓋をした。
「ゆきー?晩御飯できたけど、」
「…んん、?」
僕はいつの間にか寝ていたようだ。
「…大丈夫?」
母さんが心配そうな顔をした。
「え?」
頬に触れると、頬が濡れていた。泣いていたんだろうか。
「あれ、なんでだろ」
僕はそう言って目を擦り、涙を拭う。
「ゆき…」
でも、母さんはまだ心配そうな顔をしていた。不安なだろう。
「僕は大丈夫だよ」
できる限りの笑顔を作ってみせる。
「もう…ご飯冷めちゃうから行くわよ」
「うん」
僕は立ち上がり、母さんと部屋を出る。ふと何かを感じ、部屋を振り返る。いつもと変わらない部屋。でも、なんだか心にもやがかったような変な気持ちになり、僕は逃げるように部屋を後にした。
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