「……。」
「及川くんめちゃくちゃ似合うー!!」
「超かわいー!!」
「スタイル良い!」
クラスの女子達が甲高い声を上げた。僕は耐えられず、両手で顔を覆った。
「あれ、照れてるー?かわいー!」
「そうだ!ゆきちゃんって呼ぼ!」
早くこの状況から抜け出したい……。
遡ること数分前、僕はいつも通りに登校した。すると突然クラスの女子軍に捕まり、こうなってしまった。スカートに長い靴下。頭にはフリルがのってるし、この服もフリルだらけだ。これをメイド服と言うんだろうけど…。正直、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「はい皆注目!!」
実行委員長の声により、ザワザワとしていた教室が静かになった。
「目指すは売り上げ1位!!何としてでも勝ち取るぞー!!」
委員長が声を上げると、おー!!とクラスの皆が声を上げた。
「それじゃあ皆、それぞれ仕事について!!」
「はーい!ってか、及川…」
山田が元気な声で返事をしたかと思うと、僕を見た。
何でこっち見るんだ……。
すると、周りの視線が僕に集まった。
「及川やべぇな」
「可愛い…」
うっ…視線が刺さる。
「ちょっと!ゆきちゃん困ってるじゃん!ほら行った行った!」
委員長、安達さんが助けてくれた。
……というか恥ずかしい、この場から消えてしまいたい。
「ゆきちゃん今日は頑張ろーね!!」
僕と同じメイド服をつけた石森さんが元気な声でそう言った。
「…うん」
ゆきちゃんって…。
「あはは。ゆきちゃん超可愛い〜」
「それなぁ」
石森さんがそう言うと、横からまた声が聞こえた。
「ゆきちゃん」
蓮は、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、そう言った。
「…うるさい」
僕は見つめられるのに耐えられず、目を逸らした。
「そんな照れてたらさ…」
そう言った蓮が近寄って来たかと思うと、
「えろい」
そう耳元で囁いた。
僕は軽く、拳を蓮のお腹に突き立てた。
「うっ…いたぁ」
痛くないはずなのに、蓮は痛そうにして見せてきた。
「あはは、ゆきちゃんと蓮くんて仲良いーよねー」
石森さんが笑った。
これが仲良さそうに見えるのだろうか…。
「てかー、蓮くん見て!瑠花も結構可愛くできたと思うんだー」
「うん、可愛いねー」
「言葉に気持ちがこもってませーん」
2人は仲良さげに話始め、僕はさりげなくその場から逃げる事にした。
「はぁ…」
窓の外に、僕はため息を零した。…今日は終わりまでこんな格好をしなくちゃいけないのか…。
ふと、視線を感じ振り向くと、クラスメイトの男子数人が僕を見ていた。僕はなんとなく笑いかけてみせた。
「あれ…」
すると男子数人は僕に背を向けたと思うと、押し合いながらどこかに行ってしまった。
まあ、メイド服着てる男に笑いかけられたら嫌か…。
「ほらーお客さん来るよ!!準備!!」
委員長の声でクラスは慌ただしく準備をはじめた。
「ご注文は以上で宜しいでしょうか」
僕はできる限りの笑顔でそう言う。ただでさえ僕は準備に参加していなかったし、皆頑張っているのだ。足を引っ張っる訳にはいかない。
忙しい。恥ずかしいとかいう前に忙しい。接客とか、バイトをした事がない僕には全て初めての経験だ。
僕は慌ただしく注文されたオレンジジュースをお膳にのせ、お客さんのもとへ向かってた。
「すいませーん」
「あ、ちょっと待ってください」
僕は声を掛けたお客さんの位置を覚え、目的の場所に進もうとした。
ドンッ
「あっ」
ぶつかったと思うと、思い切り体制を崩していた。オレンジジュースが宙に舞う。
やばい、避け
トンッと音がしたと思うと、もう事は済んでいた。
「高崎、ナイス…」
周りからそんな声が聞こえた。
僕は転んでないし、ジュースも零れていなかった。
京介は倒れそうになった僕をキャッチし、ジュースも守ったのだ。
「あ、ありがとう」
「っ…」
そう言うと、京介は僕から目を逸らし、何も言わず僕を立たせジュースを運んで行った。
…何で助けてくれたんだろう。昨日の事があったはずなのに。
「ほら!突っ立ってないで仕事!」
僕は委員長の声ではっとし、仕事に戻った。
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