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ひより
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鷹槻れん

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#ロマンスファンタジー
百はな🍑
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窓から、眩しい朝陽が差し込んでいた。
ベッドから起き上がろうとすると、少し離れた場所で眠っていたカイル殿下も目を覚ましたらしい。
まだ夢から醒めきらないような顔で、ぼんやりとこちらを見つめている。
「……おはようございます、殿下」
「あ、ああ……。おはよう、ソフィア」
いたずらっぽく微笑むと、カイル殿下は昨夜のことを思い出したのか、気まずそうに目を逸らした。
(ふふっ。まだ引きずってるのね)
「ところで殿下」
「……何だ」
「昨夜は『もう少し』と、とても素直にお願いしてくださいましたわよね?」
「……っ!」
カイル殿下の顔が、一瞬にして真っ赤になる。
「そ、それを蒸し返すな!」
「あら。私は嬉しかったですのよ?」
「…………」
「ですから――今度は私のお願いも、一つくらい聞いていただけません?」
「……何が望みだ」
一気に警戒した声になった。
(ふん。さっきまで寝ぼけていたくせに、こういう時だけ察しがいいわね)
「私、皇室の宝物庫を見学してみたいんですの♡」
「…………宝物庫?」
途端に、カイル殿下の表情が引き締まった。
「駄目だ。宝物庫は皇族であっても自由に出入りできる場所ではない」
(……チッ。こういうところだけは、きっちり線引きしてくるのね)
けれど、ここで引き下がる私ではない。
「私はただ、皇室の歴史をもっと深く学びたいだけですの」
私は瞳をうるませ、悲しげにカイル殿下を見上げた。
「歴代皇族の方々が残された品をこの目で拝見できれば、殿下の妻として、もっと教養を身につけられると思いましたのに……」
「…………」
「やはり私では、皇太子妃としてまだまだ不十分なのですね……」
「誰もそこまで言っていない!」
(ふふっ。食いついたわね♡)
カイル殿下は眉間に深い皺を寄せ、しばらく考え込んだ。そして、大きく息を吐く。
「……自由な出入りは許可できんが――俺が同行する時に限り、見学を許可する」
「まあ! 嬉しいですわ!」
「ただし、絶対に俺から絶対に離れるな。展示されている品にも、勝手に触れるなよ」
「もちろんですわ♡」
(――よしっ!)
私は満面の笑みで、カイル殿下の腕へ嬉しそうに抱きついた。
「ありがとうございます、殿下♡」
(単独行動できないのは残念だけど、中へ入れるだけでも十分だわ)
宝石に、貴金属に、皇室の秘宝――。
(待っていなさい、お宝ちゃんたち♡ どれを『お土産』にするか、しっかり下見させてもらうわね)
***
その日の午後――。
カイル殿下が手配してくれた特別通行証を手に、私は彼とともに宝物庫へ向かっていた。
「ごきげんよう、殿下。妃殿下」
廊下ですれ違う侍女たちが、いつになくにこやかに頭を下げる。……というか。みんな妙に生温かい笑みを浮かべ、私とカイル殿下を交互にちらちら見ていた。
(……何?)
(私、皇宮では『嫌われ悪女』として孤立している設定なのに。ずいぶん態度が違わない?)
そのまま通り過ぎると、背後からひそひそ声が聞こえてきた。
「……昼間もご一緒なのね」
「殿下から寝間着まで贈られたそうよ」
「しっ! 聞こえるわよ!」
「…………」
(……ああ。なるほど)
(あの寝間着事件、皇宮中に広まってるのね……)
隣を見れば、カイル殿下の眉間には深々と皺が刻まれている。しかも、耳の先だけがほんのり赤い。本人は何も聞こえていないふりをして、ひたすら前だけを向いて歩いていた。
やがて地下へと続く階段を降りる。重厚な鉄の扉が、鈍い音を立てて開く。
皇室の至宝が眠る地下宝物庫――そこは、空気そのものが黄金の輝きを帯びているかのような空間だった。
壁際には歴代皇族が使用した剣や王冠、眩い宝飾品。 美しい細工が施された金銀の器から、見たこともないほど巨大な宝石まで。 そこはまさに、夢にまで見た「宝の山」だった。
「ここに収められている品は、我が国の歴史そのものだ」
隣を歩くカイル殿下が、誇らしげに胸を張る。
「どうだ。圧倒されたか?」
「ええ、殿下……。あまりに神々しくて、言葉も出ませんわ」
うっとりと感極まったように微笑んでみせる。――だが。その裏では、ガチ鑑定士さながらの目つきで宝飾品を査定していた。
(さて。換金性が高いのはどれかしら?)
(絵画は嵩張るから却下)
(王冠は目立ちすぎる。こんなのを売ったら一発で足がつくわね)
(狙うなら、小さくて、高価なもの!)
「……あ」
一番奥の展示台に置かれた首飾りが、目に飛び込んできた。大粒のアレキサンドライトが眩いばかりに輝いている。
(……あった! 小さくて、超高価なやつ!)
(――私のお宝センサーがめちゃくちゃ反応してるわ!)
すぐさま可憐な微笑みを貼り直し、声を弾ませた。
「殿下、この首飾り……なんて素晴らしいのでしょう♡」
「ああ。『暁の瞳』か」
「暁の瞳?」
「初代皇帝が皇妃へ贈ったとされる、由緒ある品だ。意匠が古いため、今では儀式にも使われず、ここに保管されている」
(一粒でも相当な値がつくはずなのに……)
(――死蔵品ってこと?!)
「この首飾り、少し変わった造りですのね」
「ああ。宝石を一粒ずつ取り外し、別の装飾品としても使えるよう作られている」
(何その神仕様!?)
全部手に入れてドレスの裏にでも縫い込めば、一生遊んで暮らせるんじゃない!?
「妙に熱心だな」
「皇室の歴史に感動しているのですわ♡」
「そうか」
カイル殿下が別の展示品へ目を向けた。
(……今なら)
私はそっと『暁の瞳』へ手を伸ばす。もちろん、散々釘は刺されていた。
『展示されている品には、絶対に勝手に触れるなよ』
(……ちょっとくらい触るだけなら、いいわよね?)
いや……。
(よくないわね)
分かっている。分かってはいるけれど――。
(だって、お宝が私を呼んでいるんだもの♡)
それに、死蔵品なら……。
(一粒くらいなくなっても気づくまで時間がかかる。その前に皇宮からドロンすればいいわ)
(まずは早速一粒、お持ち帰りしちゃおうっと♡)
指先が、赤紫色に輝く宝石へ触れた。その瞬間――。
――パァァァァンッ!!
「っ!?」
鼓膜を刺すような高い破裂音が響き渡った。指先から、目が眩むほどの鮮烈な緑色の光が一気に溢れ出す。
「な、何……!?」
この緑の光。見覚えがある。
(これって、ゲームで聖女が使っていた治癒の光――セイント・オーラ!?)
「離れろ……っ!」
カイル殿下の鋭い声が飛んだ。ぐいっと後ろへ引き寄せられる。けれど、急速に身体から力が抜けていく。
「ソフィア! しっかりしろ!」
耳元で、彼が私の名を呼ぶ声がした。今まで聞いたことがないほど、必死な声だった。その声を最後に、私は深い闇の中へと落ちていった。
***
「…………?」
気づけば、真っ白な空間に立っていた。足元も、天井も、壁もない。どこまでも白い光だけが広がる世界。
(……何よ、ここ。天国? それとも夢……?)
「ようやく……会えたわね」
「え……?」
声のする方へ振り返る。
「…………!」
そこには、私と同じ顔をした女性が立っていた。
金髪に、エメラルドグリーンの瞳。 そして――私とまったく同じ顔。
(この身体の、本来の持ち主……ソフィア……?)
今にも消えてしまいそうなほど儚く透けた姿で、私を見つめていた。
「……あなた、本物のソフィアなの?」
「ずっと……あなたに会えるのを待っていたのよ」
「私を……?」
「ええ」
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。 そして、震える唇から――信じられない言葉がこぼれ落ちた。
「……私はこれまで、100回も殺されてきたわ」
コメント
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ひよりさん、第8話読みました!最後の「100回も♡♡♡れてきた」、めちゃくちゃ重い……! これまでの悪女計画が一気に裏返る感じがして、鳥肌立ちました。お宝センサー全開のソフィアと、カイル殿下の必死な声のギャップもツボです。伏線の張り方が本当に丁寧で、続きが気になって仕方ないです🥀🌙