コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『俺は子供の頃、両親から軍隊に入るのはやめておけと飽きるほど言われた。普通の会社に勤め、普通の人生を送れって。わざわざ死にに行く仕事なんてしなくていいと。その時はまだ両親の言う言葉が理解できなかった。俺は憧れと思想が強いガキだったからかもしれないな…。子供の頃は玩具の銃を持ってヒーロー気取りでそこら辺の道を走り回ったものさ。だが、人間生きているうちに人から言われた言葉を真に受ける事になる日が来る。俺が言われた事もいずれ……いや、そんなわけ無い。俺は俺の道を行く。俺が行くのは軍隊じゃない…俺が行くのは自衛隊だ。侵略戦争のために他国を侵攻する軍隊じゃない。俺の選択は間違っていない。それがたとえ命と引き換えにかけられる運命の天秤だったとしても。それは決して、屈することの無い運命だからだ。運命なんてものは生まれた全ての生き物に課せられる呪いみたいなものだ。だが、予測すらしていなかった事象を人間は運命と決めつけ終わらせる。じゃあ運命ってのはなんだ?運命が呪いなら何で俺たちは運命という理不尽な足枷をつけて生きている?俺からすれば運命なんてものは最初から存在しないのかもしれない。運命の変わりに存在するのは自分の選択だけだ。全ては自分の選択から始まる。俺の選択は運命に屈しない。たとえそれが黒雲の漂う雷鳴が待つ虚空だったとしても。俺は、大空に飛び立つために夢を原動力に翼を開いてみせるさ。だから君も、運命に頼らず自分の選択を信じてみろ』
プロローグ ∴血塗られし小鳥
20XX年5月5日、中東アフガニスタン。北部地域マザリシャリフ。
砂風が吹き付ける砂漠地帯の中心部に国連平和維持多国籍軍の合同基地があった。今年開催されたPKO(国連平和維持活動)の参加国が合同で使う多国籍軍の拠点だ。PKOが終わったあとも、落ち着くことなくこの施設は動いていた。今年に入ってからアフガニスタンの武力派大使であるハッサン・アル=ラフマ率いる「自由民族戦線」が勃発していた。ハッサンはアフガニスタンの他国からの国際的独立を支持し、武装民族や軍事を用いて現地政府の転覆を企んでいた。しかし、PKOのため滞在していたアメリカはそれを許さず、軍事介入を試みた。ハッサン率いる革命民族派は『アフガニスタンの国際独立』を口実にアフガニスタンの民族を味方につけ他国籍軍の国外退去のためPKO参加国軍の攻撃を始めた。その攻撃対象には、現地の道路舗装、難民救助、技術提供のためPKOに参加していた日本にも飛び火していた。現地からPKO参加国軍の兵士が退去していく中、日本は難民救助と道路舗装の中断を余儀なくされ退去が遅れていた。
そんな中、道路舗装のためアフガニスタン西部に派遣されていた陸上自衛隊の第8工作機動連隊は撤退中に現地の武装派民兵に襲撃を受け撤退が不可能になってしまっていた。マザリシャリフの国連軍基地からは第8工作機動連隊救助のため一機のUH-60ja、機体名ハルカを派遣する事を決定していた。基地本部には自衛隊員だけでなく現地の地理系統をよく知るアフガニスタン軍の正統派やアメリカ軍の指揮も統合され救助作戦の最終チェックが行われていた。蛍光灯がチカチカと点滅する中、腕を組み地図を睨んでいた陸上自衛隊の佐伯健吾二等陸佐はその慣れた口調を自衛隊員やアメリカ軍人らに向けて開いた。
「卑劣な手を使うとはよく言ったものだな。やはりハッサンは手汚い策を講じるものだ。現地政府も動けん中、我々だけで対処するしかないということか?」
佐伯二佐の言葉に、その場にいた自衛隊員は手汗を握ったことであろう。佐伯二佐の隣にいた栗松優二等陸尉はその口を開いた。
「日本政府、総務省は現地民との交戦は避けろと言っています。国際世論は目を向けませんが憲法9条に違憲になるため…だと言い張っています。」
その言葉に佐伯二佐はゆっくり息を吐いた「遠回しに第8工作機動連隊の連中を見殺しにしろとでも言っているのか。彼らは今実弾飛び交う戦場に取り残されているというのにまったく…。」
「二佐、現地民との戦闘は米軍が引き受けてくれると先ほど米海兵隊大佐から調印を受けました。自衛隊は自衛隊員救出に専念しろと。」
「なるほど…。では米国のその言葉に有り難くのろうじゃないか。栗松二尉、日本政府と総務省、あと防衛省には非武装行使の救出作戦と米国の案を伝えておいてくれ。救出にはUH-60ja…ハルカを導入する。しかし念には念をだ。救出部隊には小銃と数個の手榴弾を携帯させろ。準備でき次第出発させるんだ」
栗松二尉は了解しましたと言うと敬礼して部屋から出ていった。佐伯は彼が出ていくとポケットからタバコを取り出しそれを口に加える。
「日本は戦わない国だが…味方を見捨てる国じゃない」
佐伯二佐は、天井の蛍光灯に向かって息を吐くと、煙は糸をひくように天井に登っていく。佐伯二佐が作成指示をして数分後には国連軍基地の滑走路には陸上自衛隊のUH-60jaハルカが離陸準備にあたっていた。ハルカに搭乗するのは救出部隊として選抜され第二普通科分隊の隊員たち。彼らは小銃と数少ない弾薬を持ってハルカに搭乗していた。分隊長の皇翔一等陸曹はハルカのキャビンに優雅に乗り込んだ。その他にも、分隊員の久保隼也一等陸士、福島悟三等陸曹、加喃優心三等陸曹、森脇直人二等陸士の計5名が搭乗。すると、コックピットからパイロットの西山蒼汰三等陸尉がキャビンを覗き見ながら言う。彼はとてもユーモアがあった。
「第二普通科分隊の皆様、本日はハルカにご搭乗いただき誠にありがとうございます。本機は陸自の中でも非常に酔いやすいで有名であります。酔った場合は座席下に袋がありますのでそれをお使いください。また、体調の有無は自己責任でお願いします。」
「西山三尉、ふざけてる場合じゃないですよ」眉を顰めながら皇一曹が言う。
「硬いこと言うな皇。俺はただ離陸前の注意事項を読み上げただけだ。安全な空の旅をお客様に提供する…それが俺たちパイロットの役目だ。今から戦地に向かうお前らにリスペクトしてんだよ」西山三尉は拳で胸を2回叩くと皇一曹を指さす。その瞬間、機内は少しの笑いに包まれた。すると無線が響き『救出機ハルカ、離陸せよ』と管制官からの声が響く。
「よし。じゃあ行くぞ」
西山三尉が頭上のスイッチをリズムよく押していくとハルカのメインローターとテールローターが勢いよく回り始め、機体周りの砂を風で舞い上がらせた。西山三尉が操縦桿をあげるとハルカは砂風を舞い上げながら離陸していく。ハルカは基地を離れてアフガニスタンの市街上空を飛行していた。機内からは紛争地帯化したアフガニスタンの街が見えていた。皇一曹が何ともいえない表情で街を見下ろしていた。すると、西山三尉がゆっくり口を開いた。しかし、先ほどのようなユーモアは感じられなかった。
「この風景は、忘れずに覚えておけ。日本人である俺たちが…見て学ぶべき景色だ。」
ハルカはしばらく上空を飛行していた。しかしその時、運命の天秤がゆっくり傾いた。皇一曹が街のホテル建物屋上を見たその時、RPGロケットランチャーを持ちその弾頭をこちらに向ける民兵が仁王立ちしていた。
「西山三尉!4時の方向にRPG!」
しかし時すでに遅し。民兵はRPGを発射した。西山は慌てて操縦桿をきりフレアを投下しようとするが、ロケット弾はハルカの後部テールローターに命中。テールローターは爆発と共に吹き飛び黒煙と煙をあげた。ハルカは黒煙で円を描くように回転し、操縦不能に陥る。
「メーデーメーデー!こちらハルカ!民兵の攻撃で大破!操縦不能!墜落する!」西山が必死に操縦不能をひくもハルカは回転を速めさらに炎を上げながらアフガニスタンの市街に向けて落下していく。そして…
ハルカは市街の大広場に墜落した。メインローターが地面を削り四方八方に弾け飛んだ。やがて、白い煙を上げながらハルカは停止した。その様子は、衛星映像を通して国連軍本部にもリアルタイムで届いていた。その様子を見た佐伯二佐は、ゆっくり拳を握りながら俯く。通信隊員らが合わせて口にした。
「ハルカ墜落!ハルカ墜落!!」
続けて米軍の軍人も報告のため口にした。
「JGSDF Haruka Down!BLACKHAWKDOWN!!」
プロローグ 終