テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ふわねこカラメル
「先生、僕と結婚して」
七歳も年下の、かつての教え子というか幼馴染というか…ひょんなことから弟のように面倒見ていた彼の告白は突然だった。高級な濃紺のビジネススーツに身を包んだ目の前に佇む彼は、私が記憶している時の子供の姿とはまったく違っていた。
見違えるほどかっこよくなって、それこそ背景に煌びやかな閃光に薔薇などの豪華絢爛な花が散らばっていそうな大人の男性へと変貌を遂げていた。
その彼が、ピンクゴールドに大粒のダイヤモンドをひとつ乗せた豪華な指輪を差し出しながら、いとも簡単に言い放った。『先生、僕と結婚して』、と。
「先生が僕と結婚してくれるなら、2千万円は返さなくてもいいよ。夫婦共有財産ってことで」
今、私は指輪を突きつけられながら、8年ぶりに再会した年下の幼馴染に結婚を迫られている。
ううう…なぜなぜ、いったい、どうしてこうなった?
「ちょっと待って。意味が分からない。結婚ってどうして? 睦月(むつき)君、あなた、再会してすぐ私といきなり結婚なんて――」
「いきなりじゃない。僕はこの8年、先生のことは1日たりとも忘れたことはなかったのに」
睦月君はにっこり笑って言った。いや、笑顔はいいんだけどね……。 今の状況を考えると頭が痛い。
「僕も先生を助けるから、先生も僕のことを助けて欲しいな」
「助けるってどういうこと? だからってどうして結婚なんか……」
「実は僕、女性からのアプローチがすごくて。断っても断っても、次々にお相手が僕を離してくれなくて、とても困っているんだ。だからいっそ先生と結婚しているってことにすれば、仕事にも差しさわりがなくて困らないから、ウィンウィンでいいかなって思ったんだけど」
上目遣いでうるっとした目。随分イケメンになったのに、出会った頃と変わっていない、幼さを残すしぐさにドキっとさせられる。右目の下の泣き黒子は彼のトレードマークだ。
でも、結婚なんてそんな……急すぎる!!
「そ…そんなこと……ほかに頼める人はいないの?」
「いないから先生に頼んでいるんだよ」
くい、と顎を持ち上げられた。もう少しでキスできそうなドキドキする距離…!
ちょっと距離感おかしいよ?
「僕さぁ、勉強ができなくて困っているんだ」
「そんなわけないでしょう! ぜったいウソ!」
「ウソじゃないよ、先生。また僕の家庭教師になってよ。あの時みたいに」
「わ、私に教えられることなんてもうないよ……」
「ううん」彼はにっこり笑った。驚くほど爽やかな顔で言ったのは――「今度先生が教える科目は恋愛。結婚するから夫婦愛についてかな?」
「あ、あのね……私、今までお店が忙しくてそんな暇なかったから、恋愛なんて教えられない!」
誰とも付き合ったことない、仕事一徹女ですけど。恋愛なんて私が教えて欲しいくらいだよっ。
「僕、先生だったら安心して勉強できると思うんだ」
「な、なにを……」
「キスとハグと」内緒話を楽しむようなしぐさを見せながら、彼は私の耳元で囁いた。「――セックス」
「――は!?」
実父と共に経営する小さな食堂の店内に私の素っ頓狂な声が響いた。
高梨佑里香(たかなしゆりか)27歳、かつて無償家庭教師をしていた幼馴染の教え子・天川睦月(てんかわむつき)20歳に、なぜか父の作った借金の肩代わりをしたからその見返り(?)に結婚を申し込まれ、恋愛やセックスについて指南を言い渡されてしまった。
どうしてこんなことになったかと言うと――
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!