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「お疲れー」
そう、互いに言ってマイクのスイッチをオフにした。通話アプリからもログアアウトをし、仲間達の声は消えた。
今日の撮影も順調に終了した。様々な企画を考え、システムを組んだりマップを用意したりし、撮影をする。そしてそれを編集してアップロードをする。
そうやって『いんく』は実況者として活動をしている。
視聴者の数も順調に増えており、人気も増してきている。このまま、いんくが大きく成長していくことをメンバー皆が願っていた。
しかし、異変はある日唐突に訪れた。
企画のひとつとして、物語性のあるものを構築した。メンバーが呪いを受け、豹変してしまうといったものだ。救うには、その人物について、回答しなくてはならない。
変異したメンバーに襲われながらも、連携をしながら回答を続け、最終的には呪いを解くことに成功した。それを全部で四回。全員分を撮影した。
動画をアップロードすると、瞬く間に伸びていった。仲間が敵になるという設定が面白いと、そう感想が聞かれた。
いい手ごたえだと、全員が感じていた。自分達も、人狼ゲームとはまた違う裏切りの物語を楽しんで演じた。
「…なんだこれ?」
撮影後、ふうはやはまだ仕事を続けていた。次の企画の為の準備をしている時、不意にパソコンの画面に見慣れないアイコンがあることに気付く。ファイルの名前はない。こんなもの、自分が置いたのだろうかと不思議に思いながら、彼は深く考えることなくファイルを開いた。
「え?」
瞬間、画面が黒く染まる。何が起きたのか把握をする前に、ふうはやの意識は、視界と共に黒く染まった。
「……う…っ」
ゆっくりと、意識が浮上する。一体何が起きたのか分からない。頭を持ち上げ、瞬きを数回。ぼやけていた視界が明瞭になってくると、見慣れた自身の部屋の調度品が見えてくる。
目の前にはパソコンの画面。手元にはキーボード。状況から察するに、机に突っ伏して意識を失っていたらしい。
何時の間にか、眠ってしまったのかもしれない。しかしそれにしては、直前の記憶が余りにも明瞭だった。
「俺、何かのファイルを開いて…?」
記憶にあるそれは一体何だったのだろうか。確認をする為に、パソコンに触れる。
電源は落とされておらず、スリープ状態だった。画面が明るくなると、そこには見慣れた壁紙は存在しなかった。
「何だこれ?」
画面がひび割れているようにも見える、黒い幾筋もの影。思わず手を伸ばし、指先で画面に触れる。
が、それが後悔の始まりだった。画面に指が触れた瞬間、それはまるで生き物かのようにふうはやの指を伝った。そして反応する間もなく、彼の身体を這い、心臓へと突き刺さった。
「え」
瞬間的に痛みが全身を駆ける。飛びそうな意識の中、影が自分を見下ろし、げひた笑いを浮かべているのが見えた。
再度、意識が浮上する。今度は床に寝転がっていたふうはや。全ては夢のようにも思えたが、彼は自身の手に視線を落とした時に気付く。
「影が…」
手を這うようなそれは、服の中へと伸びている。慌てて服を脱ぎ、自分の身体を確認すると、全身に影が這っていた。
「何だよ、これ…」
余りにも非日常的すぎた。一体どうなっているのか、と思っているとパソコンの画面がひとりでに点く。
『呪いを完成させよ』
表示されたのは、そんな文字。一体どういう意味なのか分からなかった。だが、これが単なる悪戯だとはどうしても思えなかった。
「呪い…」
ひとまず、自分に起きていることを知る必要がある。流石に一人で抱え込むには少々きな臭すぎる。考えた末、メンバーと共有すべく、ふうはやはスマホを手に取った。