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光流との出会いはかなり最悪で、印象の悪いものだっただろうと、今考えればやり直したいくらいだ。
光流との出会いは僕たちが中学3年の7月に父様が勝手に決めてきた政略結婚だった。
当時の僕は誰も信用出来ず、家に帰りたくない気持ちをずっと抱えて生きていた。
家に戻っても父様はおらず、いるのは気色の悪い従者達ばかり、もううんざりだった。
そんな気持ちを抱えながら家に帰ると珍しく父様がいて、珍しいなと思っていたところ、声をかけて来た。
父「着いてこい。」
無影「…はぁ…」
僕はため息以外何も出なかった。
ただいまもおかえりもなく、そんな着いてこい以外の何も言わない。
僕はしぶしぶ従った。
向かっている最中ですら、互いに口を開くことはなく、目的地へ到着した。
場所は高級レストランと言われている所、何かを言うこともなく父の後ろをついて行く。
向かった先には既に先客がいたが、構わずに父は指示を出てきた。
父「ここに座れ。」
無影「……」
指示を受けた僕はそこに座り、向かいにいる誰かを一瞬だけ見て顔を伏せた。
頭の中はずっと忙しく、何をしていいのか分からずじっとしている他になかった。
父「今日からお前の婚約者になる朝陽 光流くんだ。」
無影「…へぇ…」
無機質な声色でそう反応を示す。
向かいに座っているやつに興味もない、婚約者?そんなの知らない、どうでもいい。
本当に興味がなかった。
また一瞬だけ光流の方をみた。お前も僕と同じだろ?と思いたかった。
その思いは一瞬で砕かれることになるとも知らずに。
光流は何故か納得したような雰囲気をしていた、意味がわからなかった、混乱した。
なんでこいつは納得している?思考を巡らせている間に光流は声をかけてきた。
光流『光流です。よろしくね?』
そう言いながら笑顔で手を差し出してきた。
朝陽家と父様を横目で確認したところ、談笑をしていたため一瞬で状況を理解した。
あぁ、これを知らないのは僕だけなんだ。
そう理解した。
無影「無影です。」
光流の手は取らなかった。
僕は許嫁だと言われた光流とも、そもそも婚約者として認める気もなかった。
ここからはつまらないだろうなど思いながら外を見た。
ここに来るまでに見た夕焼けはもう既になく、外は暗く、夜が空を支配していた。
今夜は満月で、この空だけが今は僕を癒してくれる気がした。
僕はその安らぎすらもすぐに失うことになる。
父「無影、行ってこい。」
無影「は?どこに。」
父「話を聞いていなかったのか?光流君と無影は婚約者なんだから互いに理解する必要がある、だからふたりでどこかに行ってこいと言っている。」
無影「…なんでも勝手に決めやがって…」
僕の返事なんて聞かずに父は金を渡してきた。
光流も同じように朝陽社長から金を貰っているようで、諦めて父様から金を貰って光流を待たずに出入口の方へ向かう。
光流は後ろから小走りで追いかけて来たのがわかったので一緒に外へ出る。
外へ出たらいいものの行く宛てもなく夜の街を歩く。
光流は僕の後ろを着いて来ていたので足を止めて光流と視線を交わす。
無影「…………」
光流『……どうしたの?』
光流は笑顔だった、その表情に思わず動きを止めてしまい、光流を見つめることおよそ5秒。
無影「…いや、なんで笑ってんだよ…?」
光流『そりゃあ、婚約者の前だからね、情けない顔晒せないでしょ?』
無影「……はぁ、どいつもこいつも……」
僕はイラつきを隠せなかった。
僕は何も知らないのに勝手に他の場所で話を進めて、勝手に連れて行って、勝手に連れて来て、着いてきて………気付けば目から涙が零れていた。
光流『えっ…どうしたの!?』
無影「…どうして……」
光流は僕の涙を見て慌てた様子だった。
僕は涙を止めようと必死になっていたがどうしても涙は止まらない。
そんな様子を見ていた光流は僕の手を引いた。
無影「…おい、どこに……」
光流『いいから』
もうなんでもいいか、と諦めた僕は光流に手を引かれるがままついて行った。
向かった先はホテルの一室だった。
光流はベットに僕を座らせてジャスミン茶を持ってきた。
光流『ほら、これ飲んで?』
無影「…ジャスミン茶…なんて大袈裟な…。」
そういいながらも、用意してくれたものを無下には出来ないため、ジャスミン茶を受け取る。
ジャスミン茶には鎮静作用や抗不安作用があり、リラックス効果があると言われている。
ジャスミン茶を1口飲む。
誰かにこんなことをしてもらったこと…あったっけ……?
頭にふとそんなことが浮かんだ。
いや、無いな。誰かにこうして慰められたことも、こうして手を引いて強引につれていかれたことも、僕を僕として見てくれる人もいなかった。
無影「…余計なことしなくていい、そして僕とも関わらなくていい…。」
光流『無理だよ、婚約者だし。』
あぁ、ほら、こいつも婚約者としか見ない、僕が欲しいものは何一つとして、得られない。
無影「僕は、婚約者なんて、認めてないから…。」
光流『君がそう言ってもこれは決まったことだよ。』
無影「…知らねーよ、勝手に決めてきた許嫁だろ…。」
光流『本当に何も知らないんだね。』
…あぁ、こいつと話していてもイライラする。
こいつが知ってるわけないもんな。
本当に僕は何も知らない、何も聞かされてない、実の父にすら相手にされてない。
召使い達は父に取り入るために僕に媚びを売って来るだけ。
無影「…お前に、僕の気持ちが………やっぱり…なんでもない。」
心を落ち着かせるためにも少しずつジャスミン茶を飲みながら光流に僕の気持ちなんて分かるわけないと言おうと思ったが途中でやめた。
そう、こんなことを誰に言っても意味は無いんだ、こいつにも意味は無い。
また涙が出そうなのを堪えながらジャスミン茶を飲み干し、カップをナイトテーブルの上に置いた。
光琉『…よしよし、辛いね。これからは全部俺が教えてあげるから泣かないで?』
光琉はベットに腰掛けている僕の前にしゃがんで僕を見上げながら頭を撫でた。
無影「…まだ…泣いてない…。」
光琉『まだ、って事はやっぱり泣きそうなんでしょ?』
無影「………そんなことない…。というか…頭撫でるのやめろ。」
図星をつかれて言葉に詰まるが否定をした。
そしてこれ以上は涙腺が限界を迎えそうだったので撫でるのを辞めるように言いながら手を退けた。
光琉『えー、じゃあこっちでいいか』
手を退けたあとそう言ってすぐ隣に移動してきたかと思ったらぎゅっと抱きしめてきた。
無影「…なんでだよ……。」
最早呆れて抵抗する気も起きなかった、というか抵抗しても多分振り解けないと思った。
光琉『ほら、泣いていいよ。本当は泣かないで欲しいんだけど我慢も良くないしね?』
無影「…………」
抑えが効かなくなった。
初めて人に優しくされて、初めて慰められた。
人の体温を感じた、初めて心臓の音を聞いた、妙に落ち着いて、自然と涙が出た。
光琉の体温、心地のいい心音と香りに甘えた。
光琉に腕を回して静かに涙を流した。
…今は誰かに顔を見られることもない…。
何分くらい経ったんだろう。
泣き続けてやっと涙が止まったが、頭がぼーっとする。
途中で手の力が抜けて光琉に抱かれて体重を預けるようになっていた。
無影「…はぁ……」
光琉『落ち着いた?』
無影「…落ち着いた…けど……」
結局泣いてしまって今は頭を撫でられながらあやされてるようになっている。
無影「…もういいから離せよ…。」
光琉『このままでもいいじゃん、婚約者だし。それと知らないこと聞きたいんでしょ?』
無影「…だから僕は婚約者なんて……」
光琉『認めてないんでしょ?でもこれはどうしようもないんだよ』
僕はもうこの状況から抜け出すのを諦めて光琉に任せることにする。
無影「…はぁ……なら説明してくれよ…なんで婚約なんだよ…。」
光琉『まず、朝陽家と天月家は月と太陽の力を借りてるんだよね。名前もそれに関連してるでしょ?』
無影「……そんなの…聞かされてないし…知らない……。」
光琉『無影君を見る限りそうらしいね。それで、朝陽は太陽の力を1部を宿していて、天月家は月の力を1部宿してるんだよね。』
無影「…そんな感覚ないんだけど……」
光琉『まぁ、生まれつき勝手に使われててその制限をしないといけないからさ。近くにいた人間が少し苦しそうにしてたりしたことない?』
無影「……ある…。」
光琉『無影君の月の力は人間に少しの苦しみを与えて吸血鬼には少しの癒しを与える能力だよ。』
無影「……能力を…制御するにはどうしたらいい…?」
光琉『それはね、こうしたらいいよ。』
光琉は僕に能力の制御の仕方を教えてくれた。
十分程度で僕は能力の制御ができるようになった。
無影「…ありがとう…。」
光琉『うん、どういたしまして』
能力の制御を教えて貰う時に僕は解放されて自由に動けるようになった。
僕は泣き疲れたのかあくびをしてベットに横になった。
光琉は僕が横になったベットに腰をかけて頭を撫でる。
無影「……なんで…撫でるんだ…。」
光琉『ん〜、無影君を撫でたいから?』
無影「…答えになってない…。」
光琉『まぁ、細かいことはいいでしょ?』
無影「…子供扱いするな…。」
光琉『してないよ、子供扱いはね』
頭を撫でられて不思議と落ち着いてくるのも事実だが、疲れているのもあってうとうとしてくる。
でも僕は疲れているから横になったのであって寝たいわけではない、出来れば寝たくは無い。
無影「…僕は、お前が婚約者なんて認めて…ないから…。」
光琉『無影君が認めなくてもこれは決まり事だからどうしようもないんだよ』
無影「…好き…でもないやつと…結婚なんてできない…。」
光琉『俺は無影君が好きだよ』
無影「…信用出来ない…それに、会って数時間しか経ってない…。」
光琉『それでも俺は無影君が好きだよ。』
無影「……もういい…。」
僕は寝返りを打って光琉の反対側を向いた。
僕は信用出来ない、僕のことが好きなんて、絶対にありえない、どうせ期待させるだけさせて捨てるんだろ?もうそんな思いはしない。
そして僕は好きでもないやつと恋愛なんてしたくないし恋愛ごっこもごめんだ。
そんなことを考えても光琉は僕の頭を撫で続けて辞めるつもりは無いらしい。
寝たくないと思っているのに僕の意識はそのまま暗闇へ落ちていく。
何も無い、何も見えない。
ただ息苦しい、これもまた悪夢だと認識する。
認識したところで目が覚めることは無い。
冷たい、寒い、苦しい。
誰か助けて欲しい、そう願ってもここには何も無く、僕の目にも何も見えない。
怖いな、でも僕は1人だ。
今回はいつまでこれに耐えればいいんだろう。
夢の中で少し目を閉じた。
次に目を開けた時は自分の部屋にいた。
僕はあぁ、ここまで全部夢だったのかと思った時に部屋に入ってきたのは父親だった。
父「お前やってくれたな。」
無影「…は?何を」
父「光琉君に失礼を働いたそうじゃないか、お陰様で婚約破棄の危機に面している。」
ここでこれは夢かもしれないと少しだけ感じ始めるが完全には気付くことはなく話し続ける。
無影「いや、知らないけど…?」
父「お前のせいだからな。今までずっと朝陽と天月はしきたりを守ってきたと言うのに。」
無影「勝手に持ってきたくせに何言ってんだよ、僕に話すらしなかったくせして」
父「うるさい。お前は従ってればいいんだよ。」
無影「父様は身勝手すぎるだろ…。」
父「黙れ。本来お前はいらない奴だったんだよ。私の血を引かずに人間として生まれた時点でな。能力の継承には影響がなかったからよかったものの、それすらもなければお前は殺していた。」
無影「…そうだったんだ…。」
僕はやっぱりいらなかったのか、そう思いながらも僕にできる術は何もない。
だが僕は本当の現実に引き戻されることになる。
光琉『…お……お…て……おきて……むか……無影……起きて…!無影!』
僕は夢から覚めることが出来た。
目が覚めて初めに見たのは光琉が僕の顔を見ながら身体を揺すって起こしている光景だった。
光琉は僕が目を覚ましたのを確認するとほっとした顔をしていた。
光琉『大丈夫?かなりうなされてたけど…』
無影「……大丈夫…いつもの…事だから…。」
僕は身体を起こそうとした。
それを光琉が後ろから支えてくれて楽に起きることが出来た。
無影「……寒い…。」
光琉『そりゃこれだけ汗かいてたら冷えるよね』
僕の服はかなり濡れていて汗をかいていたことが目に見えてわかった。
僕は夢の内容をはっきりと覚えていた、だからこそ辛かった。
無影「………ど…うしよ……」
光琉『無影君…どうしたの』
無影「…ぼく……僕は…いらない…んだって…さ…。」
少し精神的におかしかったんだろうな、少し笑いながらそんなことを言った。
そんな言葉を発した僕に対して光琉は詰め寄った。
光琉『誰がそんなこと言ったの?教えて?』
無影「……別に…だれも……?……父様…?」
光琉『記憶が錯乱してるね。夢の中と現実の言葉の区別が少し難しいかな?無影君は夢の内容をはっきり覚えてるんだね、だからかな?』
実際夢の内容ははっきり覚えていてリアルな描写だったがために本当に言われたのか夢で言われたのかの区別が脳は判別できていなかった。
無影「……わかん…ない……けど…いらないって……」
光琉『無影君、大丈夫だよ。俺は君が好きだしいらないなんて思ってない。』
無影「…とう…様が…いらない……って……」
光琉『それは夢だよ、天月社長はそんなこと言ってないよ。』
光琉は汗で冷たくなった僕の身体を抱えるように抱きしめて体温を分けた。
光琉『無影君は寒いんだったね。これなら暖かいかな。』
無影「……うん…でも……」
光琉『俺のことは気にしなくていいよ。』
無影「……ん…。」
僕は光琉に甘えることにした、今日2回目になる体温達に自分でもびっくりするくらい安心した。
冷えた僕の身体は光琉の体温を良く感じとった、とても心地がいい。
僕が婚約者として認めてしまえばこの体温も音も心地の良さも僕のものだけになる、そんなことを思う反面、まだ僕は光琉を信用出来ないし、好きという訳でもない。
それにここまで甘えてしまっているがこいつとは会って数時間しか経っていない。
ぼーっと光琉の体温達を感じて10分ほど経った。
やっと夢と現実の区別が付いてふと思ったことがあったのでそれを言葉に出してみる。
無影「……というか…お前…さっき、呼び捨てした…よな…?」
光琉『あ…えっと、ごめんね…?』
無影「…別にいい……無影でいい……僕も光琉にする…。」
光琉『うん。ありがとう、無影。』
無影「……こちらこそ…。」
光琉にはありがとうと言われたが、ありがとうと言わなければいけないのは僕の方である。
こんなに良くしてもらってるのに、まだ信用もできないのだからごめんなさいもいるが。
光琉『…そういえば、夢から覚めたあとはいつもこんな感じなの?』
無影「……まぁ…こうなる時もあるし…そもそも……うん…ひとり…だから…過呼吸になる時が多い……。」
光琉『そうなんだね、それじゃあ今度から俺を呼んで?一緒にいてあげるから。』
無影「…いやそれは…申し訳ないから…。」
光琉『いいんだよ、俺がそうしたいだけだから、ね?』
無影「……わかった…考えとく…。」
光琉『だめ、絶対!ちゃんと呼んで?』
無影「…わかったよ…ちゃんと呼ぶ…。」
光琉『それでいいよ。ほら携帯貸して?』
無影「…ん…。」
僕は光琉にそのまま携帯を渡した。
パスワードも付けていなかったのでそのまま開いて連絡先を交換することが出来たようだ。
光琉『パスワードくらいはつけないとダメだよ?』
無影「…携帯なんて…誰も見ないだろ…。」
光琉『だーめ。パスワードは付けよ?』
無影「…じゃあ付けといて…」
光琉『…警戒心無さすぎるよ。無影。』
光琉は呆れているようにそういった。
呆れながらもパスワードはしっかりつけてくれたようで返された携帯にはロックがかかっていて番号も教えて貰った。
無影「…これ面倒…」
光琉『じゃあ、もう1回携帯貸して』
無影「…どうぞ…。」
光琉『今度は手貸して〜』
無影「…手……まぁいいけど…」
手と聞いて少し躊躇したが、まぁ”バレることは無い”と踏んで潔く手を差し出した。
光琉は色んな角度から指を携帯に押し当てているようで僕は大人しくしていた。
1分ほど経った時にいいよと言われて携帯を手に握らせて開放された。
無影「…何が…変わったんだ…?」
光琉『指紋認証って言ってパスワードを入れなくても指紋でロックを解除できるようにしたんだよ。面倒くさがって携帯開かなくなりそうだったし。』
無影「…まぁ…間違いないけど…。」
光琉『だろうね、そんな感じがするよ。』
無影「…うん…。」
光琉『…ところでさ、無影。』
僕を抱く光琉の手に少しだけ力が入ったのを感じた。
無影「……えっと…どうした…?」
光琉『これ、なにかな?』
片手で僕の手を取って光琉は手首にある無数の切り傷を見た。
バレてしまった。
光琉が僕を抱く手に力が籠ったのは僕を逃がす気がないからだ。
僕は隠すのをやめた、隠した所でバレてしまっているのだ。
無影「……何って…切り傷…。」
光琉『これは故意的にやったものだよね?』
無影「…うん…そう…。」
光琉『なんでこんな事したの?』
無影「…別に…理由なんてない…。」
本当に理由なんてなくて、ただただこの世界が嫌になっただけ、ただそれだけ。
無性にやりたくなっただけ、生きてる実感を得たかっただけ。
吸血鬼と違って傷は治らない、血は純粋な吸血鬼よりも長く流れ、時には痛みと苦しみの境地に立たされる。
何よりも生きてる実感を得られる行為だった。
その赤が何よりも好きだった。
僕の腕に刻まれている傷にはもう治って消えない跡になっているものも多数ある。
別にいいだろう、僕の身体に僕が何をしようと、誰も僕を見る者なんて居なかったんだから。
無影「……別に…いいだろ…?」
光琉『…俺は無影にこんなことして欲しくない。』
無影「…光琉には、関係ない…。」
光琉『そうかもしれないけど…でも、好きな人に傷が着くのは嫌だよ…。』
無影「……それは、僕には…関係ない…。」
光琉『…そっか、そうだよね。今日初めて会ったばっかりだし、そう思われても仕方ないか。』
無影「…わかってるならもう……」
光琉『でも俺は無影の婚約者だから今後は関係あるからね。』
無影「…だから…認めてないって…何度言わせる…?」
光琉『どうせ決まりだから無影にはどうしようもないことだよ。それに離す気は無いから。』
僕を抱く手がさらに力を込める、本当に離す気は無いようだ。
何かをしようとしているのか?
光琉『俺の能力はさっき教えたよね、無影の傷は治してあげる。今後、何度こうやって傷付けても治すから。』
無影「……勝手にしたら…?…どうせ…僕がこれを辞めることは…生涯を、終えるまで付け続けるんだから…。」
光琉『だとしても俺は無影を治し続けるから、あと、そんなこと言って今後どうなるか分からないよ?』
無影「…勝手にしろ…。…今後…何が…起きるって…?」
光琉『さぁね?教えてあげない。』
そういいながら光琉は能力を使って僕の傷を癒し始める。
本当に傷の治りが早いようで少しずつ腕にある無数の傷が治っていく。
今ある傷は治っても跡になっているものは完全には消えないらしい。
僕は大人しく傷が消えるのを待っていた。
逃げることはできないし、光琉に任せる以外の方法が僕にはなかったし、それに治ってもまた傷は増えることになるだろうし。
光琉『はい、もういいよ。』
無影「……綺麗…さっぱり消えたな…。」
光琉『過去にやった跡は消えないけどね。』
無影「…見たら…わかる…。」
光琉『そっかぁ、でももうこれ以上跡が残ることは無いからね。』
光琉はそう言って僕の腕に残る過去の傷を撫でる。残ったって僕はどうだっていいのに。
無影「…どうだろうな……。」
光琉『残らないよ、絶対に。』
無影「…へぇ……」
興味がなかったのでそう返した。
僕はベットに置かれている携帯に手を伸ばすが、抱かれている今の状態ではギリギリ届かなかった。
頑張って取ろうとしてる時に重なるように手が伸びてきて携帯を回収された。
無影「…返せ…。」
光琉『取ってあげたんだからありがとうでしょ?』
無影「……ありがとう…。」
光琉『はい、どういたしまして。』
携帯を受け取って画面を開くと、父様から連絡がいくつか来ていた。
内容はどこにいるのか、光琉とは仲良く出来ているのか、ということだった。
無影「……はぁ…」
僕はため息がでる。
僕が1人の時にこんなことは絶対に送ってこないだろう。
見てしまった以上無視も出来ずに僕は返信する言葉を考える。
光琉『場所は映画館で俺とは仲良くできてるよって返したらいいよ。』
無影「……人の携帯の、画面を覗くとか…悪趣味だぞ…。」
光琉『この体勢だから見えちゃうの。不可抗力だよ。』
無影「…見ないように努力は……?」
光琉『見えるところで開くのも悪いよね。』
僕を抱いている手に少し力が入る、そろそろ少し苦しいんだけどな。
まぁ僕も少し悪いから今回はお互い様ということにして返信は光琉に言われたように返すことにした。
……ホテルにいるなんて言ったらどういう反応をするんだろうか。
そう考える少しの間に返信が帰ってきた。
そうか、必ず光琉君を家に届けてから帰ってくるように。
それにわかったとだけ返信してメールを閉じた。
光琉『無影が俺を家に送るのかぁ、本当は逆の方がいいんだろうけどなー。』
無影「……んなこと言われたって、僕には…何も出来ない…。」
光琉『そんなことないとは思うけどなぁ、まぁいいか。』
無影「…そういうことだから……今日は、送る…。」
光琉『別にいいのになぁ…俺は無影の方が心配だし。』
無影「…別に…僕にも、何も無いだろ…。」
光琉『どっか消えちゃいそうだからさ?』
無影「……どうだろうな…。」
否定はできなかった。
どこかに消えたいとはずっと考えていることだが、消える勇気も、消える場所もないのだから。
僕は顔を伏せる、消えるならどんな場所なんだろうと少し考える。
……僕に、ふさわしい場所はやっぱり暗くて苦しくて、幸せなんてないような……そんな場所なんだろうな。
光が見つかりそうな気がしたけど、きっと僕には勿体なくて、僕なんかに侵される存在じゃない。
光には影を指す、そうすれば僕に勝てる光なんてない。
そんなことを考えながら僕は顔を上げて光琉に声をかける。
無影「……そろそろ…帰るぞ…。」
光琉『もういいの?大丈夫?』
無影「…大丈夫だから、帰るぞ…。…これ以上は、父様がめんどくさいから……。」
光琉『…まぁそうっぽいっし、帰ろうか。今日はよろしくね?』
無影「…あぁ、責任もって、送る…。」
光琉はようやく僕を解放して自由を得た。
忘れ物がないかを確認して、廊下へと繋がる扉を開く。
左右には同じようなドアが並んだ廊下が続いていて、どっちに行けば良いか分からない僕は光琉を前に行かせて僕は後ろを追った。
ホテルから出て身体を少し伸ばし、今度は光琉の横を話しながら歩く。
街を歩き、2駅ほど電車に乗って、10分ほど歩く。
無影は話しながらも道を覚えて、歩いている道の風景を記憶していた。
光琉『着いたよ。これ、俺の家。』
僕は光琉の指を指した家を見る、普通の家より少し大きいしっかりした家だった。
僕はしっかりと家を記憶した。
無影「……覚えとく…。」
光琉『ちょっと入っていく?』
無影「…遠慮、しとく……じゃあな…。」
光琉『わかった、今日はありがとう!また今度ね?』
無影「………また、今度……。」
僕は手を振る光琉に背を向けて来た道を戻っていく。
家を記憶したはいいものの、またここに来るなんてことが本当にあるだろうか。
そんなことを考えながら長く暗い道を歩くと、僕はこれから何をしたらいいのかが分からなくなってくる。
家に帰っても、どうせ付きまとってくる奴らが多いだけだ。
そうは考えても、もうやることもないので帰ってしまおうと決めて、家へ戻ることにした。
さっき降りた駅に行き、さっきとは反対方向に6駅先の駅の切符を買う。
電車を待っている間に自販機で水を買い、水分補給をする。
そんなこんなで電車のアナウンスが流れ、それは最終電車のようで、危なかったなと思いながら電車に乗り、適当な席に座って電車が着くのを待った。
電車を降りて歩くこと25分ほどした頃ようやく家についてドアを開ける。
咲樹「おかえりなさいませ。」
無影「…うん。」
ドアを開けてすぐにメイド長の咲樹が頭を下げながら挨拶をする。
他のメイドじゃなくて良かったと思いながら靴を脱いで部屋へ移動する。
後ろを咲樹が着いてきて、部屋のドアを開けてくれる。
無影「…ありがとう、もういいよ。」
咲樹「かしこまりました。失礼いたします。」
部屋に返して僕はベットに寝転がった。
携帯を開き、父様にメールを送る。
光琉送って帰ったからとそう簡易的なメールを送るとすぐにご苦労。という上から目線な返事が帰ってきて少し苛立ちながら携帯を閉じて枕のヨコに置いた。
さっき、ホテルの中で見た悪夢の続きを見そうで僕は寝る気が起きなかった。
何をしようかと考えながらも天井を見つめるだけではや15分が経った。
寝っ転がるのをやめて大人しく布団にはいって携帯を開くと知らない間にメッセージが届いていて、それを確認すると光琉からだった。
光琉『お疲れ様、帰れた?』
無影「うん。帰れた。」
光琉『良かった!寝れそう?』
無影「いや、さっき寝たから無理そう。」
光琉『そっかぁ、じゃあ通話でもしようか?』
無影「別にいいけど。」
光琉『やった!じゃあ掛けるね!』
と言うやり取りをメッセージで交わし、まもなく光琉から電話が掛かってきた。
光琉『もしもし〜、聞こえてるー?』
無影「…聞こえてる。」
光琉『良かったー、俺も寝れないんだよね、夜行性の方の吸血鬼だから。』
無影「なるほどな、僕はさっき寝たから…。」
光琉『まぁ寝てたねー、眠そうだったけど。』
無影「…寝る度悪夢だから、あんま寝れないんだよ…。」
光琉『あー、さっきもそうだったよねぇ…。』
無影「うん。」
光琉『なんか解決策ないかなぁ…』
無影「わかんね。僕は諦めた。」
光琉『いつか、普通に寝られるようにしようね?』
無影「…さぁ、どうだろうな…?」
光琉『嘘でもわかったって言ってよ!』
無影「…わかったよ。」
光琉『俺も精一杯協力するから、なんでも言っていいからね?』
無影「うん、わかった。」
光琉『そういえば、無影さ、あんまり言葉に詰まってないね?』
無影「……まぁ、顔見えてないしな。」
光琉『通話とかだと平気なの?』
無影「…んー、まぁ、グループの通話だとか、ビデオ通話じゃなければ平気だけど。」
光琉『なるほどね〜、あるあるだよね。』
無影「そうなのか?」
光琉『世界にはよくいるよ。』
無影「…へぇ…。」
光琉『あんまり興味無さそうだね。』
無影「まぁ、気にしてもわかんないし…。」
光琉『えー、実際そうだけどね。』
無影「だろ?」
光琉『うん、そうだよ。』
こんな感じでしばらく会話を交わし、ふと時計を見ると既に時計は2時を周っており、2時間も話していたのかと思いながら僕は眠ることが未だ出来ずにいた。
諦めて勉強でもするべきだろうか?光琉も他にやることもあるだろうし、そんな事を考えて僕は光琉に通話を終わらせようと提案した。
光琉『あー、もう2時なんだね。』
無影「そうなんだよ…話し込みすぎた、そろそろ終わろう。」
光琉『無影がそういうならいいよ。』
無影「あんま寂しそうにすんなよ…。」
光琉『まぁ、実際寂しいからねー、仕方ないけど。』
無影「…素直に言い過ぎだろ。」
光琉『いいでしょ?』
無影「いいのか…。」
光琉『いいんだよ。』
無影「…まぁわかった、とりあえず今日は終わりだ。」
光琉『今日はってことはまた通話してくれるってこと!?』
無影「…そうとは言ってねぇよ……。」
光琉『えー、俺ともっと話そうよ?』
無影「…気が向いたらな。」
光琉『わかったよ、待ってる!』
無影「……。」
光琉『おやすみ、無影。大好きだよ。』
無影「……おやすみ…。」
そこで通話が切れて携帯を枕元に置いた。
別に眠い訳ではなかったし、話すのが嫌な訳でもなかったんだけど、どうせ明日も学校がある、夏休みまでもう少し。
まぁ、夏休みがあったところで僕にはなんの意味もないんだけど。