「おーい、初兎〜。手、届かない?」
台所の棚の上、ちょっと高めの位置に置いた袋菓子を取りたくて、いふが呼んだのは初兎だった。
「なんで僕に聞くの! まろちゃんのほうがでかいじゃん!」
「いや、なんか初兎が背伸びしてるとこ見るの好きでさ〜」
「なっ……!」
初兎は顔を真っ赤にして、ぶすっとした表情でいふを睨む。でもそのまま踵を上げて手を伸ばすところが、らしくて愛しい。
「……届かない……!」
いふがひょい、と後ろから棚に手を伸ばす。余裕の高さ。ついでに初兎の頭に手を置く。
「ふん!……これで満足?」
「うん、ありがと♡かわいかったで」
「その余裕な感じ、やっぱりちょっとむかつく……」
ちょっと照れくさそうにお菓子を受け取る初兎の頬に、いふは思わず指をのばす。
「赤いな。かわいー」
「なっ、なにすんのっ!」
「いや〜、この15cm差、ほんとに癒されるんよな〜」
「もうっ、うるさいっ!」
怒りながらも、目は笑ってる。
身長差なんて、どうでもいいはずなのに。
そのわずかな距離が、ふたりの距離をもっと近づけている――そんな午後だった。
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