案内されたのはこの屋敷の一角にある部屋だった。他の部屋と比べて装飾が煌びやかで、扉の近くには高そうな壺が置かれている。特別なのは明らかだった。
「どうぞ、お入りください。」
「あ、ありがとうございます。」
物々しい雰囲気を放つ扉を開けてくれた天海さんに言われ、部屋に足を踏み入れる。 その先に広がっていたのは、白い壁に囲まれた異質な空間だった。
広い部屋の中にはベッドや机が置かれており、ベッドの上には1人の女の子が横たわっていた。その周りには沢山の医療器具が置いており、見慣れない光景に動揺が隠せない。
「……天海さん。」
不安からか、咄嗟に名前を呼んでしまう。そんな僕の様子に応えるように、背中に手を回されて微笑まれる。
「大丈夫です、きっと。」
添えられていた手で優しく背中を押され、歩みを進める。視界の死角になっていたのか、さっきの2人の姿もあった。
こちらの姿を視界に入れた男が一瞬目を見開いたが、直ぐに視線を逸らされてしまう。何故だか怯えてるみたいで、つくづく氷室さんのことを不思議に思う。
「西山様が参りますので、少々お待ちください。」
ベッドの横まで誘導された僕に深々と頭を下げて天海さんが去っていく。その後に続くように氷室さんも部屋を出ていってしまった。
静かな部屋に心電図の一定の音だけが響く。てっきり男にまた絡まれるかと思ったが、そんなこともないみたいだ。
ふと、ベッドに寝ている女の子へと目を落とす。傍らに置かれた医療器具から沢山の管が繋がれていて、見ていて痛々しい。姿から見るに、凡そ6歳と言ったところか。
「…失礼するよ。すまない、お待たせしたね。」
開かれた扉から1人の男が入ってくる。少々白髪混じりではあるが、綺麗な髪の毛をセンターで分けており、服装も相まって高貴な印象をもてる。
「既に知っているかもしれないが、改めて自己紹介をしよう。この屋敷の主、西山達哉だ。」
西山、と言う苗字には聞き覚えがあった。氷室さんが言っていた名前で、屋敷の主ということにも納得出来る。
「っ、お前か!?ここに連れてきたのは!!ふざけんな早く帰らせろよ!!」
先程まで大人しくしていたはずのガラの悪い男が西山さんに掴みかかりそうな勢いで近付く。そんな様子に、西山さんは表情ひとつも変えずに後ろに居る天海さん達に指先で何かを合図した。
「帰した所でまともに帰れる場所もないだろう、田崎翔平。」
田崎翔平、と言われた男の目が大きく見開かれ、固く握られた拳が震えたのが分かった。
「クソ野郎、調子乗んなよ!!!」
そう叫んだ男が拳を振り上げようとした時、氷室さんが1歩踏み出し、男の手を掴んだ。
「西山様に手を出すなら、帰れる望みはゼロになりますよ。」
有無を言わせないような冷たい口調だった。さっきまでの威勢は完璧に無くなり、借りてきた猫のように縮こまる男の様子に、西山さんが綺麗に作られた笑みを向ける。
「…さあ、空気が悪くなってしまったね。何も私は揉め事を起こしに来たんじゃないんだ。」
ぱちん、と空気を変えるように手のひら同士を合わせて音を立てる西山さんの視線がこちらに向けられた。
「君は、藤澤涼架さんだよね。」
コメント
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空気重っ!!シリアスな展開でハラハラするなあ〜