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🎧短編「冗談の温度」
夜。
スタジオ帰り。
琉夏「……疲れた」
だらっと歩きながら呟く。
冬星「いつも言ってる」
琉夏「いつも疲れてるからな」
どうでもいい会話。
でも。
さっきのことが、少しだけ頭に残ってる。
“付き合ってんの?”
(……は)
思い出して、少しだけ顔をしかめる。
琉夏「……なあ」
冬星「なに」
少しだけ間。
なんとなく。
本当になんとなく。
琉夏「俺らさ」
言いかけて、少し迷う。
でも。
琉夏「付き合う?」
ぽろっと出る。
自分でも、一瞬遅れて気づく。
(……は???)
言ったあとで、思考が追いつく。
(なに言ってんだよ)
すぐに、誤魔化そうとする。
琉夏「いや、今の──」
その前に。
冬星「別にいいけど」
止まる。
完全に。
琉夏「……は?」
思わず振り向く。
冬星は、いつも通りの顔。
冬星「どっちでも」
軽い。
あまりにも軽い。
でも。
否定じゃない。
琉夏「……いや、え」
言葉が詰まる。
さっきまでの“冗談”が。
急に、形を持つ。
琉夏「ノリだろ今の」
無理やり戻そうとする。
冬星「分かってる」
即答。
でも。
少しだけ間を置いて。
冬星「でも、別に困んない」
静かに言う。
(……なんだそれ)
軽いのに。
妙に重い。
少しだけ沈黙。
夜道。
街灯の光。
琉夏「……お前さ」
冬星「なに」
琉夏「そういうの、適当すぎ」
半分本音。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「そう?」
首を傾げる。
冬星「だって今とそんな変わんないでしょ」
息が、止まる。
確かに。
今と。
大して変わらない。
一緒にいて。
音鳴らして。
飯食って。
同じ部屋に帰る。
(……じゃあ、なんで)
引っかかる。
琉夏「……違うだろ」
小さく言う。
冬星「なにが」
答えられない。
“名前がつくこと”
それの、何が違うのか。
分からない。
でも。
分からないままにするには、少しだけ近すぎる。
琉夏「……やめとくわ」
ぽつりと落とす。
冬星「そう」
短い返事。
でも。
否定もしない。
引き止めもしない。
その距離が、余計にリアル。
少しだけ沈黙。
琉夏「……今の忘れろ」
冬星「無理」
即答。
思わず笑う。
琉夏「だよな」
また、歩き出す。
並んで。
距離は、変わらない。
でも。
さっきより、少しだけ。
“意識してる”
名前は、まだない。
でも。
つけようと思えば、つけられる距離。
それが。
一番、危うい。
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