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アオハレ

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第1話 三毛猫

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2024年03月19日

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【アオハレ】 

一話 三毛猫



青く晴れ渡った空。

雲一つない晴天である。

そんな空に、軽やかに浮く青髪の女子。


スタっ


なんて音を立てながら、地面に綺麗に着地する。

手に持った茶色いランドセルを肩に背負い、その少女は言った。

「早く来い、中山」

住宅街の一角、紺色のパーカーを着た少女は、高級機種の車の前でむすっと頬を膨らませる。

三階建ての立派な家から出てきたのは、真っ白なYシャツを着た男だ。

男は慌ててポケットから車の鍵を取り出し、ワンタップで車の鍵を開ける。

少女は助手席に乗り込む。

中山と呼ばれたその男は運転席へ乗り、二人はシートベルトを着用した。

「椋さん、ベランダから飛んで外に出るの、そろそろやめてくださいよ。近所からの苦情が多いんですから」

男はカバンを腕に抱きながら弱気に言う。

椋と呼ばれたその少女は、ランドセルを後部座席へ投げ入れながら答えた。

「何で近所から苦情が来るんだよ」

茶色い目を細めて、鬱陶しそうに、だ。

中山はため息を吐く。

「心臓に悪いんですよ。この間なんて、郵便のお兄さんが腰抜かしちゃって……」

「知らね」

「もう、そろそろやめてくださいねー」

苦笑い状態の中山から目を逸らし、椋は窓の外を見る。何ら変わりない、家の前の風景である。

「出発しますねー」

椋が不機嫌になり兼ねない為、中山はさっさと運転を開始した。


交差点。

商店街。

田んぼ道。


色んな道を通った。

今は大通りの信号に捕まっている。

眠そうな椋は相変わらず窓の外ばかり見て欠伸をしている。

中山はキョロキョロあたりを見回し、落ち着きがない。いつも通りである。

「あっ」

急に中山が声を漏らした。

椋は「どうせしょうもないことなんだろう」と目を向けない。

しかし興奮を抑えきれない中山は声を弾ませて椋に語りかけた。

「見てくださいっ、猫ですよ。三毛猫、久しぶりに見ました」

頬を緩ます中山。

その様子を見て、椋は「中山らしい」と納得した。しかし椋自身は全く猫に興味がなく、猫の方を見向きもしない。

「ねぇ椋さん、見てください。あの猫、背中の毛がハートマークになってるんですよー?」

頑固に粘り強く話しかけてくる中山に折れ、椋は猫を振り向いた。

「そーだね」

それで会話は終わってほしかった。

「首輪付けていませんね。じゃあ野良だ」

中山は自己分析を始めた。

「そうなんじゃない?」

またも興味のなさそうな椋。

「どっちでもいいけど、青」

「青じゃないですよ。白と茶色と黒です。青の三毛猫なんていませんよ」

「違う、信号」

慌ててハンドルを切る中山。

「もう少し焦ってくれてもいいじゃないですか」と椋を責めるも、椋は知らんぷり。たしかに椋は比較的無罪である。


新鮮な木組みの校舎。

朝の学校は爽やかである。

『5-1』と書かれたクラス札が風に靡かされ、キコキコ変な音を立てる。


「清水椋さん」


人数の少ない教室にその声は響いた。

中山の声である。

教卓の前に立ち、クリップボードを手に持った中山。

生徒の出席確認である。

しかし、その『清水椋』とやらの返事がない。

グースカ机で眠っているのだから、それはそうだろう。

隣の席の男子がつんつんと椋を突く。

「起きて、椋」

するとやっと目が覚めたのか、動き始めて「はぁい」と手を上げた。

「椋さん起きてくださーい。まだ朝ですよー」

中山は椋席まで来て肩を揺する。

その手をパシンと払い除け、椋はムクリと起き上がる。

「朝だから寝てたの。私昼しか寝ない時間ない生き物だから」

その目は酷く冷たい。

中山はため息を吐き、「はいはい」と教卓へ戻った。

五年一組。担任中山。問題児、清水椋。




黒板につらつらと書かれた数式。

中山の声が響く教室で、今は算数の授業中だ。

そんな中またも眠りに落ちる椋。

よくもまあこれほど眠れる。逆に関心してしまうだろう。

周りはもう慣れっ子で、彼女が起きていることなどそう滅多にない。

寧ろ、起きていた方が何か心配だ。

こうも寝ていれば授業が分からないだろうが、彼女は教科書を読んで自分で勉強する。

これもまた、ただ教科書を読むだけなのだが。

これでテストが百点取れるから、いい脳味噌をしている。

「じゃあこの問5、分かる人」

中山が黒板から振り返ると、椋の隣の席の男が手を挙げた。

彼は眠る椋を毎時間起こし続ける、根性の天才。

また、成績も常に学年トップで、先生や生徒たちからの信頼も厚い、生徒会会長的人物だ。

名は松ヶ峰裕太という。

癖っ毛な髪の毛と、低いが高い、暖かい声の持ち主で、影で女子にモテている。が、彼は勉強一筋らしい。椋には「勉強バカ」と常日頃から言われ続けている。


「8cm³です」

澄んだ声で答えた。

もちろんその答えは

「うん、正解」

中山は笑みを浮かべた。

かつかつ黒板とチョークの当たる音が響く。

と、その時。

足元が揺れ、ガタガタと机が棚が、音を立てる。

教室の中はざわつき、わっとうるさくなる。

椋もそれに目を覚まし、辺りを見回す。

「何、地震?」

隣の席の男子に聞いた。

こげ茶色の髪をした彼は、首を傾げて答えた。

「そうじゃない?でも、サイレンならないね」

放送でなるはずのサイレンは、微塵も聞こえない。

しかしだったらこれは地震以外に何なのか、という話である。

「地震だとしたら、案外大きいよね」

「うんそーだね」なんて、椋は他人事のように答える。この教室で一番冷静なのはきっと、彼女だろう。

中山は教卓に手をつき、放送を待っているように見える。

すると、ひどく焦った声な放送が聞こえた。

全員そちらに耳を傾ける。

『えぇ、只今、地震が発生しています。ですが、危ないのでその場から動かないでください。また、ガラスが割れると危ないため、カーテンを閉めましょう。繰り返します……』

皆は放送がなり、少し安心したようだったが、中山、椋、裕太は眉をひそめた。

「地震避難訓練のとき、この放送するのって教頭先生だったよね?今、三年生の担任の先生じゃなかった?」

裕太は椋に質問を投げかける。

確かに、と頷く椋。

「それに、地震の際室内にいろと言うのはおかしい。死ねと言っているようなもんだぞ」

「だよね。変だよね」

「変だな」

そう言いながら椋は窓へ近寄った。

カーテンを閉めるためだ。

裕太もそこに駆け寄り、カーテンを握った。

「ん?」

校舎の影に見える、不審なもの。

裕太は椋の肩をつついた。

 「あれ、見える?何だろう」

ここからだと、小さな中庭が見える。

中庭を越えて向こう側には、中学年の校舎。

その向こうに、何か大きな影が見えるのだ。

「……デカくね?」

椋は頬を引きつらせて笑った。

見つめ合う二人。

その顔は、なんとも言えない複雑な焦り顔。

すぐにサッとカーテンを閉め、二人は中山を見た。

その視線に気付いた中山は、こくりと頷く。

それを見た瞬間、二人が咄嗟に走り出した。

教室を出、廊下を猛ダッシュ。

『廊下は歩こう』のポスターをガン無視し、二人は走る。

「三年生の教室前、だよね」

裕太は椋に聞いた。

「ああ。だから三年の担任が放送してたのか」

「っていうか、あんなデカい動物いたんだ?!っていうか、あれが動いて地震起きたってこと?!っていうか、何で全校生徒に隠す必要あるの?!」

「知るか」と冷たかく対応する椋だが、彼女も彼女なりに焦っていた。

不思議なことが多すぎて、頭の整理ができない。

あの巨体なら、動くだけで地震が起きるのはおかしくない。だが、地震が起きたのはついさっきだ。

ここまで来るには動いたはず。だったらそのとき、なぜ揺れなかった?

飛んできたのなら、大きな影ができるはず。それもなかった。

また、全校生徒に「地震が起きた」と偽った理由も不思議だ。

正直に、「ゴ◯ラみたいなデカいバケモン出ました、外には出ないでね」とか言っていればよかった。

なのに、それを言わなかった。

それにはどういう理由があるのか。

児童を混乱させないため?いや、それであれば教員にくらいは連絡してもいいはずだ。

しかし中山にそのような連絡が行ったふうではなかった。

わからない。

わからないことが多すぎて、走る足もスピードが落ちる。


「いたっ」

裕太は“それ”を指差す。

猫の形をした、巨大な“何か”だ。

高さは二階建ての校舎ひとつぶんくらいの大きさだ。

運動場のど真ん中に立ち、ギロリと鋭い目で下を眺めている。

そこには、逃げ遅れた三年生の生徒がいた。

裕太は咄嗟にそちらに向かって走ったが、椋が慌てて引き止める。

「バカかっ!お前が言ったら死人が増えるだけだっつの!」

「はぁっ、それって俺が死ぬって言いたいわけっ?!」

それをきれいにスルーし、椋は屈伸をして準備運動。

ぐいっと背伸びをし、それからすぐに運動場へ走った。

「あ、やべ、何も考えてないのに飛び出しちゃった」

とりまボコる、という考えでバケモノに突っ走っているが、拳でバチコンは流石に無理がありそうだ。

と、走っていると横から竹刀が飛んできた。

それをキャッチし、飛んできた方向を見た。

中山が汗をかいて立っている。

「使ってください!!」

剣道部からの借り物だろう。

大切に使わなければ、とは思うものの、それよりも大切な物があった。


両足に力を込め、空高く飛ぶ。


髪が風になびき、少し邪魔だな、と椋は舌打ちをした。

二階の天井の高さまで飛んだところで、椋は竹刀を構えた。

(ごめんけど、多分折れるわ)

そう県道部員に心中謝りながら、竹刀を左から右に振り下ろした。


鈍い音がその場に響く。

バケモノの頭を叩き、よろめかせる。

右手に持った竹刀は案の定ぽっきり折れている。

あらら、と思いながら地面に着地し、三年生を抱えて走る。

二人だったため、右手と左手に抱え、裕太のもとへ下ろした。

彼は最初、人でないものを見るような目で私を見ていたが、三年生の怖がるような顔を見て、優しく声を掛けた。

「怖かったね。大丈夫だよ、アイツはもう倒したから」

私はそういう励ましというものができない人間のため、それをじっと眺める。

「……流石椋だよね。俺には、あのバケモノより椋がバケモノに見えたよ」

「もういっぺん言ってみろ」

椋が睨むと、ふいっと目を逸らす裕太。

そこへ駆け寄ってきた中山は、肩で息をしている。

「ほんとにっ、心臓が止まるかと……!」

第一声はそれであった。

「それは、どういう意味の?」

椋はあえて聞いた。

バケモノが怖いからか、それとも椋が怖いからか。

「椋さんが無茶するからです」

むすっと不機嫌顔になって中山は言う。

二十八の男がこんな顔をすると、普通気持ちが悪い。が、中山ならどうも変じゃない。幼い顔立ちだからだろうか。

「無茶なんてしたか?あ、竹刀は折っちゃったけど」

「あんなに飛ぶなんて思いませんでした」

「あんなに飛べるとも自分で思わなかった」

「あんなに無鉄砲だとも思いませんでした。素手で殴りに行こうだなんて」

「あんなに自分の拳が信用できるって思わなかった。竹刀折れたし」

中山は、はぁ……と項垂れた。

裕太は二人の会話に苦笑い。

「ほんと、仲良いですよね、二人って」

裕太のその言葉に、椋はきっぱり反論。

「仲良くないから。むしろ、無理」

「その『嫌いです告白』ももう慣れっ子ですよ」

中山は笑った。

椋はその笑顔から目を逸らすように運動場へ目を向けた。

そこには、横たわったバケモノの体と、それと距離をおいて電話をする複数の教師たちがいた。

警察に通報しているのだろう。

「念の為縛っとくか」

椋はその場にあった、ゴミに被せるネットを手に取った。

それを持ってバケモノに近付き、上に被せる。

それから、四方に傘を刺し、そこにネットを引っ掛ける。

もう動けまい。

「よくそんな近づけるよね」

裕太は三年生の前に立って青い顔をする。

「大きいだけで、ただの猫だよ」

裕太に向けて放った言葉だったが、その言葉は中山に飛んだようだ。

ハッとした表情で彼はつぶやく。

「背中のハートの三毛猫……」

今朝、登校中に車内で見た猫と同じだ。

あのときはまだ普通の猫だった。

それが巨大化したのだろうか。

そう考えると、学校で巨大化し、ここで騒ぎになった。すると、ここまで歩いてくる必要がないため、地震も起こらない。

椋はふむ、と考え込み、すぐに顔を上げた。

「短時間でこんなに成長するなんて、どんだけカルシウム摂ったんだろうな」

真面目な顔で冗談を言うものだから、周りにいた教師は吹き出して笑った。

隣にいた裕太は、「違うよ!」と眉を引きつらせる。

「成長っていうのはね、身長も幅も比例してるんだよ!だから、骨が強くなるカルシウムを摂っただけじゃ成長はしな、」

「もーいい、もーいい」

椋は裕太のスネを蹴った。

「こんの勉強バカが」

口を尖らせて言うと、裕太は頬に青筋を浮かべた。

「勉強する人はバカじゃないよ、勉強しない人がバカなの。わかる?椋は授業中寝てるからバカね」

「はぁ?勉強してもバカなやつはバカなの。勉強しなくてもバカじゃないやつはバカじゃない。それが私なの。常に学年二位のこの私」

「いや俺一位だし」

「やっぱ勉強バカじゃん」

そんな二人の会話に、周りの教師たちは気持ちが解れる。

異様な空気が漂っていたが、二人のお陰でそれがなくなった。



しばらくして、警察が来た。

彼らは頭を抱えてため息を吐いた。

「死傷者の人数、こうなった経緯を教えてください」

まずそう言われた。

横たわるバケモノ。

このバケモノをこうやって倒すには、相当な力がいるらしい。そのため警察は、「倒せたのなら死傷者はいて当然」と思ったのだった。

「いません」

そう中山が答えたとき、警察がフリーズしたのがわかった。

「あのすみません、聞こえなかったのでもう一度」

「いません」

彼らはバケモノを二度見した。

「え、これ、死傷者なしで倒したんですか」

「はい。彼女が」

中山の指差す先には、裕太と張り合う椋の姿が。

「……どうやって?」

「竹刀で頭をぶっ叩いて」

中山の口から「ぶっ叩いて」と聞くのは珍しいが、それよりも、警察のおったまげた顔が可笑しい。

「え、本当に?」

しつこい警察である。

頷くと、その警察は頭をかいた。

「最近、この“ヒトモノ”の通報が多いんですよ。でも、死傷者なしっていうのも、倒したっていうのも、これが初めてですよ」

ツンツン髪の彼はずっと頭をかいている。

「これ、ヒトモノって言うんですか」

中山は聞いた。

ちなみに中山はサラサラヘアーである。

「そうです。知りませんでしたか。“人を襲う獣”、略して“ヒトモノ”ですよ。これが大変なんですよねぇ。全国各地で急に広まっちゃって。テレビでの報道はまだ控えてるらしいですけど」

「それはどうして」

「被害が大きすぎて、フラッシュバックとかがあるらしいんです」

なるほど、と思った。

死傷者をまず聞かれるほどに、このヒトモノとやらは強い。

つまり、こらまでに何人もの人が殺められてきたわけである。

つまり、報道する側も、される側も、嫌な記憶を掘り起こす事態となるらしい。

また、報道してもなんの利点もないのが一番の理由かもしれない。

「気をつけろ」と言ったって、気をつけようがないからである。

椋のように人並み外れた身体能力を持っているなら話は別として。


「薬が原因なんですよねぇ」

回収者のようなトラックに、ヒトモノが詰め込まれる様子を眺めながら警察の男はつぶやいた。

それを聞いた裕太と椋は、喧嘩を中断してそちらに耳を傾ける。

「興味があるのかい」

男が聞くと、

「ですね」

「多少」

と裕太、椋がそれぞれ答えた。

「じゃあ話そうかな。少しむずかしい話だけれどね。……薬を服用したり、注入したりすることによって、普通の生物がこうやって凶暴なヒトモノになってしまうんだ」

「デカくなるってことか?」

椋が聞くと、ふるふると首を横に振った。

「必ずしも大きくなるだけ、とは限らない。まぁ、大きくなるのが大半なんだけどね。牙のないものに牙が生えたり、翼が生えたり、まぁそんなところ」

「大変ですね、さぞ忙しいでしょう」

裕太は警察の目の下のくまを見つけていった。

「……まぁ、そうだね。君たちみたいに強い国民ばかりじゃないからね。鉄砲を持つことを許されている、僕たちだからできることがある」

それは、自尊心なのか、それとも自分を励ましているのか。

とりあえず、やりたくてヒトモノの対処をやっているわけではなさそうだった。



その日は昼前に一斉下校になった。

児童が帰ったあと、教員も会議を終えて帰る。

椋は会議が終わるのを待つのが面倒だったため、先に歩いて帰ると言っていた。

しかし、あんなことが起こったあとだ。

心配性な中山は「送って帰る」と常に主張している。

これには椋が折れ、中山の帰りを待ち、車で家まで送ってもらった。



「あ、やってんぞ」

椋はリビングのテレビを見ながら中山に言った。

中山は、椋の座るソファーの前で、正座をしてパソコン業務にあたっている。

ふと顔を上げテレビを見ると、ニュースでヒトモノが報道されている。

「流石に、全くやらないわけにはいきませんよね」

「もっと早くやってくれればよかったのに」

椋はソファーから立ち、キッチンへ向かう。

なにか作業をする椋と、パソコンに向かう中山。

その空間は、テレビの音だけが聞こえたいた。

『“人を襲う獣”、略して“ヒトモノ”という名称で知られています。SNSでは、#ヒトモノが三週間連続トレンド入りするなど、大きな反響を呼んででいます。政府は先程会見を行い、〈ヒトモノ対処・被害拡大対策本部〉のチームを招集しました。また、『自身の身は自身で守るように』と、銃刀法違反などの法律を改める方針を示しました。近日、法律改正が行われるとのことです。続きまして……』

「一気に物が進んで、時代の変わり目ってやつだな」

椋はことん、とマグカップを机において言った。

中山は「ありがとうございます」と笑みを零す。

「確かに、そうですね。なんだか時代だけ進んで、先生たちは時代に置いて行かれている感じがしますよね。……時代遅れというか、時代が早すぎるというか」

紅茶の入ったカップを両手で持ち、中山は心配そうに椋を見た。

「でも、先生がもしヒトモノに殺されても、椋さんなら悲しまないので、こちらとしてもラクですね」

どうしてそんなに悲しい顔で笑うのだろう。

そんな顔をするのなら、言わなければいいのに。

椋はペシっと中山の頭を引っ叩いた。

「そーだね」

不機嫌顔だ。

「何にそんなに怒ってるんですか」

「私もわからん」

ぷふっと笑いを零した中山。

ケラケラひとりで笑い、椋はむすっとした顔でそれを見つめている。

これくらい、ずっと平和なのならいいというのに、それがそうもいかないのが人生たるものだ。

椋はそれを知っていて、笑わなかった。


*一話 三毛猫 完



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