テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
124
16
放課後、 五人は誰もいない教室に集まった。 窓の外は、もう夕方だった。 仁人は窓際の席に座り、何度も言葉を探していた。
「……ちゃんと話すから」
四人は黙って待っている。
「俺たちが前世で別れた理由」
仁人はゆっくり息を吐いた。
「俺だけが決めたことじゃないんだ」
勇斗が顔を上げる。
「……どういうこと?」
「みんなで決めた」
その瞬間、舜太が眉を寄せた。
「俺らが?」
「うん」
仁人は頷いた。
「何度も同じ人生を繰り返してるうちに、俺たちは気づいたんだ」
何度生まれ変わっても、 五人は出会った。 友達になった。 笑い合った。 そして――必ず別れた。
「最初は、偶然だと思ってた」
仁人は話し続ける。
「でも、何度繰り返しても同じだった」
四人の誰かが遠くへ行く。 大切な人を失う。 そして残された四人が苦しむ。 それでも、次の人生ではまた五人で出会ってしまう。
「だから、最後の人生で……みんなが言った」
仁人は目を伏せた。
「もう、会わないようにしようって」
「……」
「俺たちが出会わなければ、少なくとも別れることもない」
柔太朗が静かに聞いた。
「それで、仁ちゃんは納得したの?」
「……できなかった」
仁人は苦笑した。
「でも、みんなが決めたことだったから」
そのとき、 勇斗の中に、また記憶が蘇った。 雨の夜。 五人で座っている。 泣いている仁人。 そして、自分が言っている。
『これが最後だ』
『次の人生では、俺たちを探さないで』
「……俺が言った」
勇斗が呟いた。 仁人が顔を上げる。
「何を?」
「『次の人生では、俺たちを探さないで』って」
仁人の目が揺れた。
「……うん」
「俺が……そんなこと言ったの?」
「みんな言ったよ」
舜太が頭を抱えた。
「……最悪やな、俺ら」
「舜太……」
「だって、仁ちゃんだけ置いてくみたいになっとるやん」
「違う」
仁人が首を振る。
「みんな、俺のことを心配してた」
「でも結果的に、仁人は一人になった」
太智が静かに言った。
「……」
「それを、俺らは忘れてた」
仁人は何も言えなかった。 太智は少し笑った。
「そら、怒ってもええやろ」
「怒ってないよ」
「じゃあ、悲しかった?」
仁人の目から涙が落ちた。
「……うん」
それだけだった。 勇斗は立ち上がった。
「仁人」
「……なに?」
「ごめん」
そう言って、勇斗は優しく仁人を抱き締めた。
「……」
「前世の俺たちが何を決めたとしても」
勇斗はまっすぐ仁人を見る。
「今の俺は、あの約束を守るつもりない」
仁人が目を見開く。
「……どうして」
「だって、今の俺は」
一度言葉を止めて。
「お前に会えて、嬉しかったから」
仁人の唇が震えた。
「俺も」
柔太朗が続ける。
「五人でいるの、嫌じゃない」
「俺もや」
舜太が笑った。
「昔の俺らが何を決めたか知らんけど、今の俺は仁ちゃんと一緒におりたい」
太智も頷く。
「俺も。せっかくまた会えたんやから」
仁人は四人を見つめた。
「……でも、また誰かがいなくなったら?」
誰もすぐには答えなかった。 怖い。 それは四人も同じだった。 けれど、 勇斗が言った。
「そのときは、そのときだよ」
「……」
「まだ起きてない未来のために、今を捨てるのはやめよう」
仁人は俯いた。 涙が机の上に落ちる。
「……ずるい」
また、その言葉。
「仁ちゃん、それ好きだね」
柔太朗が笑う。
「だって……」
仁人も泣きながら笑った。
「俺が何年も悩んでたこと、そんな簡単に言うんだもん」
「簡単じゃないよ」
勇斗が言った。
「怖いよ。俺だって」
その言葉に、仁人が顔を上げる。
「でも、一人で怖がるより」
勇斗は四人を見る。
「五人で怖がった方がいいだろ」
しばらく沈黙が続いた。 やがて、 舜太が手を差し出した。
「……じゃあ、もう一回やり直そか」
「何を?」
「俺らの約束」
太智も手を重ねる。
「今度は五人で決めよ」
柔太朗。 勇斗。 そして最後に 仁人。
五人の手が重なった。
「……何を願う?」
仁人が聞く。 勇斗は少し考えて。
「また五人でいられますように、じゃない?」
「それじゃ、また来世の話になっちゃうよ」
柔太朗が笑う。
「じゃあ……」
仁人が呟いた。
「今を、五人で大切にできますように」
四人が頷く。
「それがいい」
その瞬間、 窓から風が入り込んだ。 机の上に置かれていた古い写真が、ひらりと床へ落ちる。 裏返った写真。 そこには、前世の五人が写っている。 そして、 今まで誰も気づかなかった写真の隅に 小さな文字が残っていた。
――『次に会えたら、今度こそ最後まで』
仁人はそれを見つめた。
「……これ」
勇斗が写真を拾う。
「誰が書いたんだろう」
誰がこの言葉を残したのか。
そして――
なぜ前世の五人は、この言葉を残したあとに「会わない」という約束をしたのか。 五人の本当の過去は、 まだ、終わっていなかった。
コメント
1件
うわあ、このエピソード…すごく沁みました。前世で「もう会わない」と決めたのに、それでも今の人生でまた出会ってしまった五人の選択が、本当に切なくて温かかったです。特に「一人で怖がるより五人で怖がった方がいい」という勇斗の言葉、ものすごく刺さりました。あと最後の写真の隅にあった「次に会えたら、今度こそ最後まで」という一文が新たな謎を投げかけていて、続きが気になって仕方ないです。設定の緻密さと心情描写の丁寧さに、ただただ引き込まれました。