アリアから連絡を受けた私はフェルと別れて宇宙開発局の事務所へとやってきた。ザッカル局長からの呼び出し、絶対に良いことじゃない筈だから気分が滅入るよ。
「来たか、ティナ。戻って早々悪いが、仕事が発生した」
「はい」
よし、切り替えよう。間違いなく宇宙関連の仕事なんだから。
「済まんな。つい先程救難信号を受信した。場所はラーナ星系にある開拓惑星ラーナ4だ」
『開拓時代に居留地が設置された惑星です。ゲートを使えば半日で辿り着ける距離です』
「そこには開拓時代に移住した人々が今も暮らしている。とは言え、惑星の環境は生活に適しているとは言えん。ティナが活動を開始したことで我々も宇宙に取り残された同胞とのコンタクトを再開したのだ」
「そして、ラーナ星系から応答があったと」
「ああ、前回と同じ過ちを繰り返すわけにはいかん。相変わらず政府は君のみにしか許可を出さない。頼めるか?」
今アード人で宇宙へ出られるのは私だけだ。局長を含め他の宇宙開発局のスタッフは今も宇宙へと出ることはできない。
おかしな話だけど、政府の方針だからどうにもならない。
「今すぐに向かいます」
「済まんな……君のような子供に頼るしかない我が身の不甲斐なさを痛感する。プラネット号だったか?既に整備は完了している。軌道エレベーターの許可も出した」
ザッカル局長も、本当なら真っ先に駆け付けたいんだろうな……今度は間に合わせる!
家に戻った私は事情をお母さんに説明した。
「慌ただしいわね、まだ医療シートは出来てないわよ?」
「現地に行って助けたら一旦アードへ戻るから、その時にお願い。フェルは休んでて良いよ?」
「私の居場所はティナの隣なんでしょう?一緒に行きます。何処までも」
出来ればフェルを休ませてあげたいけど……申し出は素直に嬉しい。
「分かった、一緒に行こう!アリア、プラネット号の準備を!私たちは軌道エレベーターで向かうから!」
『既に動力炉を点火しています。乗り込み次第発進できますよ』
「ありがとう!お母さん、行ってきます!」
「行ってきます!」
「二人とも、気をつけてね。怪我しちゃダメよ」
「「はい!!」」
家を飛び出した私達はそのまま軌道エレベーターのある島へ転送ステーションを使って移動、軌道上のドッグでプラネット号へ飛び込んだ。
「アリア!ラーナ星系への最短距離を設定!一気に行くよ!」
『畏まりました。ゲートオープン、進路ラーナ星系』
プラネット号は慌ただしくゲートへ飛び込んだ。目的地まで半日の距離。それまでに私とフェルは受け入れの準備を始めた。
怪我人に備えて医療シート100枚と医療ポットを幾つか積み込んでるから、それの動作確認。非常食を含む食料や飲料の用意も怠らない。
『惑星へ降下する必要がありますが、本艦に大気圏内航行能力はありません』
「いざとなれば、ギャラクシー号で往復するだけだよ。トランクもあるしね」
私が最初に使ってたトランクはまだ積み込んだままだ。中身である部屋はプラネット号へ移したから、トランクの中には何もない空間しか存在しないけど、人を運ぶには充分だ。
「一度に10人くらいは運べるんじゃないかな?」
「何もない空間ですが、そこは我慢して貰いましょう」
「ん、助けたらすぐにアードへ引き返そう。本格的な医療シートや医療ポットはあるけどね」
半日掛けてフェルと準備をしていると、アリアが到着を知らせてきたので私達はブリッジへと戻った。
『目的地へ到着、ゲートアウトします』
ラーナ星系は赤色矮星の恒星と5つの惑星から成り立ってる星系。赤色矮星だから放出されるエネルギーは少ないけど、その為に“ダイソン球”を設置してる。
ダイソン球って言うのは、物凄く大雑把に言えば恒星の周りを覆って放出されるエネルギーを無駄無く回収するための巨大な建造物だ。恒星を覆うことでその莫大なエネルギーをそのまま利用できる。
もちろん、アードも恒星にダイソン球を建設してる。惑星にある資源だけじゃ発展には限界があるからね。当然隠蔽魔法で隠してる。
ラーナ星系4番目の惑星、ラーナ4を植民惑星として開発したと。
『正確には、水資源を中心とした資源採取のための惑星ですね』
「なるほど」
見る限り宇宙ステーションは存在しない……!?
センサーにセンチネル反応!?
「アリア!」
『ステルスモードは起動していますよ、ティナ。ご安心を』
「流石アリア、頼りになるね。フェル、状況を!」
「ラーナ4の衛星軌道にセンチネル艦隊を確認しました!数は3隻!規模からして、偵察艦隊だと思われます!最大望遠で映像を回します!」
ブリッジのモニターに、大きな鮫のような形をした軍艦が3隻映し出された。隠蔽魔法を使ったステルスモードだけど、艦艇に搭載されているものはアード本星を隠しているものとは質が違う。
だからステルスにも限界があって、ある程度接近したら探知されてしまうんだよね。
「アリア、偵察艦隊の反対側へ移動して」
『救難信号発信源の裏側になってしまいます』
「その代わり、探知されるのを防げる。惑星にはギャラクシー号で降りる。フェルは……」
「一緒に行きますよ?」
さらっと言ってのけた。
「ん、一緒にいく。トランクがあればある程度は人を乗せられるから」
私はアリアに説明しながら戦術モニターに計画を書き出す。
「私達は惑星の裏側から侵入、大気圏内を移動して居留地へ接近。生存者と接触して、トランクへ収納。そのままギャラクシー号で脱出する。プラネット号は軌道上で待機、センチネル艦隊に見付からないようにして」
『畏まりました。しかし、おそらく居留地は攻撃を受けています。センチネルが我々の存在に気付くのも時間の問題かと』
「賭けだよ」
だって私達しか居ないんだから、他に手段がない。幸いまだセンチネルの艦隊は3隻だけ。増援を呼ばれる前に生存者を収容してゲートへ飛び込めば何とかなる!
格納庫へ移動して、手早く宇宙服を身に纏う。背中にバックパックのような膨らみがあって、そこに翼を納められるアード人仕様。フェルも問題なさそうだ。
装備はいつものやつを選択。フェルも魔法が使えるけど、ビームガンを持たせた。意外と射撃も上手い。少なくとも私よりは。
「行きましょう、ティナ」
「うん、今度こそ間に合わせる!」
決意を新たに私達はギャラクシー号へ乗り込んだ。あっ、一応フェルのために複座に改修済みだよ。
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