テラーノベル
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「久しぶりだね」
「少し忙しくて···」
ソファに座って2人で軽めのお酒を飲む。いつも明るい彼が少し沈んで見えた。
「うん、お疲れ様。うさぎちゃんはがんばりやさんだ」
そう言って笑う声もやっぱりどこか元気がない。 そっとその頬に手を伸ばすと困ったように口元だけで笑った。
「ごめん、少しだけ落ち込んでてね···自分のせいだから仕方ないんだけど、つい気が緩んじゃった」
素直に自分の気持ちを言ってくれたクロさんが僕の肩にそっともたれ掛かった。若井も、元貴もほとんどそういったことを言わないから、甘えるようなその仕草が新鮮に映る。
彼らは疲れたとか諦めるとかそういことは言わない。
そういうところを尊敬しているしカッコいいと思うけど、弱音を吐くのはそんなにだめなことなのかってたまに心配になる。
「···自分の気持ちに素直になるのっていけないことなのかな···?僕はいつも頑張ってる人こそ、たまにはそんな時もあるって、弱いんだって言ってもいいと思うよ···そんな人を愛おしいって思う」
仮面の奥でクロさんの瞳が揺れた気がした。泣いちゃうんじゃないかって感じた瞬間、強く抱きしめられて首元に顔を寄せられて吐息を感じる。
「···っ」
「好きな人にはもっと素直になったら良かった。ただ好きだって言えば···」
きっとクロさんが抱きしめているのは僕じゃなく別の誰かなんだろう。
それでも彼の気持ちが少しでも癒されるならそれでいいって思って強く抱きしめ返す。
「···その言葉は、もう間に合わないの?」
「···他に好きな人が出来たんだって、だからもう···」
周りに人はいたけど、色んな音が重なっていて小さな話声はかき消されて、ここでは抱き合うことも当たり前で僕たちに注目する人はいなかった。
「ごめん···ありがとう」
そう言って離れたクロさんに僕は自然とキスをしていた。
「うさぎちゃん···?」
「だめ?今、こうしていたい気持ちなんだ」
元貴に似ている彼が弱っているのが愛おしい。
それに欲しかった優しさを持っているこの人に元貴を重ねる。
周りなんてなんにも気にならなかった。 甘いキスを繰り返し、 彼の唇が優しく唇や首筋、胸元に触れて時々強く吸われる。
まるで元貴とくっついてるみたいだ。
ほんの少しの時間、だた甘いだけの時が過ぎていく···僕は満たされて幸せだった。
コメント
3件
はぁ、なんだか切ない…。 お互い別の好きな人を重ねていて、慰め合っている様な感じですよね……悲しい😢 また次のお話も楽しみに待っています🥰
なんてこった!お互い他に好きな人がいたのか。切なすぎるわ。
続きが楽しみ!