テラーノベル
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海が広がり潮風香る浜辺に、どこか落ち着く田舎町の小さな校舎。
どこまでも続く線路とボロい停留所。
有名なお店など無く、昔ながらのものが続く帰り道。
たまに寄る馴染みのバー。見慣れた家に見慣れた空。
あの夏の日ある女の子が海に帰った。
小さな窓から見える大きな海。潮風と共に聞こえる時計の音。
砂浜のようなグラウンドは夏の暑さに油を注ぐかのように熱が籠っている。
それもそのはず、外は男子が体育の時間だからだ。
退屈でつまらないこの時間は私にとって苦痛そのもの。
どこにいても楽しいことなどひとつもない。
そんなことを考えながら真っ白なノートにサンゴの絵を描く。
なかなかの上出来だと我ながら思う。
チャイムの音が教室上に響き渡り、四限が終了した。
その瞬間、皆が一斉に購買に向かったことが分かる。
なぜなら今日は焼きそばパンとカレーパンが出るかららしい。
私は興味無いのでいつもの屋上に向かう。
天使の階段下のように待ち伏せる長い階段を次々と上っていく。
ここの屋上はいつも開けっ放しだから気前がいい。
しばらく昇ってるとやっと終わりが見えてきた。
扉を開きズンズンとなかにはいる。
何時もは誰もいないはずなのに「先客」が居るみたいだ。
その先客は茶髪のくせっ毛の大きなポニーテール。
カバンにはサンゴのキーホルダーを付けているみたいだ。
何気なく声をかけることにしてみた。特に目論見とかは無い。
ただいつもの場所を邪魔されたことへの報復といった所だろうか。
「あの」
そう言葉をかけると気づいたようにこちらを振り向いた。
「あ、君雨三瀬 海月さんだよね?」
どうやら私のことを知ってるらしい。理由はだいたいつく。
「その白い髪に水色がかった目。結構有名だよ。」
やっぱりだ。別に目立ちたい訳では無いんだけど、仕方ないこと。
確かに私の髪や容姿はかなり目立つ方だ。おまけに背も低い。
ふと思い私はその人に名前を尋ねる。
「あっあたしの名前?星川 三五だよ。」
これといって接点は無いが噂のようなものは耳にしたことがある。
ギャルで有名な三五。キラキラしたJKといったところだ。羨ましい。
でもなんでそんな人が屋上なんかに来るのだろうか。
とても不思議でたまらなかった。特に意味は無いが聞いてみた。
「なんであなたは屋上に来たんですか。」
そう言うと少し固まり、そっと口を開いた。
「友達と喧嘩しちゃったの。一番の親友。」
親友。私はその言葉は好きではない。だけど、少し気になったので話を聞くことにした。
あれはほんの数週間前。私が中心の輪でみんなと話すそんな時間が続いていた時。
その輪が一瞬にして途切れ壊れた瞬間が来てしまったのだ。
クラスに入ってくる1人の女。
「えー。今日からこのクラスの一員になる亀戸 海さんだ。」
「亀戸 海です。よろしくお願いします。 」
針で喉をつかれてる感覚がした。まるで今から全て壊されるようだ。
黒髪ロングで絵に描いたような清楚系女子。
まるで裏表なんてないとおも語ってるその目付き。
モヤモヤとした気持ちを持ちながらも私はその時は気にしないようにした。
その日から数日たったある日のこと。
私が教室に入るなり、冷たい視線が私へと向けられた。
しかも私の親友までもがその視線を向けてきたのだ。
「あ、私なにかしちゃった?」
その問いかけに答えるかのように1人の男子が口を開く。
「お前、最低だな。いくは海さんが、可愛いからってここまですんのか?」
身に覚えのないことをみんな口を揃えて私にぶつけてくる。
知らない。私こんなの知らない。私なわけない。
ふと亀戸の方を見ると泣いていた。だが、その口元は何故か笑っていた。
私は亀戸に何もしていないし接点だって作っていない。
なら、どうして。
ずっと泣くふりをしながら嘲笑うかのように亀戸が口を開いた。
「酷いよ。三五ちゃん。私の大事なもの盗んで壊すなんて。」
その発言に火がついたのか私はいつの間か私は亀戸を突き飛ばしていた。
それを待っていたかのように亀戸は泣き出した。
皆はそれを援護するように私に罵声を浴びせる。
どうして?私が何をしたの?その言葉をぎゅっと飲み込み、教室を飛び出した。
その日を境に私は日に日に自分が分からなくなった。
多分、亀戸は私が気に入らなかったのだろう。いつも陽気に笑う私が。
一通り話したところで三五は黙った。顔は俯き見えなかった。
だが涙を流していたと思う。
「ごめんね。突然変なこと言って。ごめん。」
そう謝ると顔を上げほほ笑みを浮かべた。
私はどうしたらいいか分からなかった。
でもこれだけは言える。いや、言わなきゃ行けない。
「もうすぐチャイムなるし、飛ぶのはまた後でにしよ。」
しぼりだしてそれしか出てこなかったけど。
持っていたサンゴのキーホルダーを渡して逃げるようにその場を後にした。
帰り際に見た三五の瞳は青く澄み切っていたと思う。
その日から数日が経った。
あの日以来、屋上には誰も来ていない。
悪い噂も聞いてもいないし、平和だと思う。
そんなことを考えながら私は、ノートに書いてあったサンゴの絵をくろく塗りつぶす。
風の噂で聞いたけど三五は仲直りしたみたい。
疑いも晴れて今は楽しく生きてるみたいだ。
あの日以来会うこともないけど、幸せならいいと思う。
午後の授業が終わるチャイムがなり私は鞄を手に取る。
夕暮れとともに広がる海を見つめながら私は停留所に座った。
その時、体がいくらか軽くなった。
いいことをするのは楽しいのかもしれない。
潮風と共にバスが来た。
さぁ、帰ろう
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