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柘榴とAI

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#没入感フィクション
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「あぁぁぁぁ……駄目になる。コレは、駄目になります。超美味しい……」
「お、お口にあったなら、何よりです。えとっ! 他にも欲しい物があったら、言って下さいね! 色々買って来たので、結構リクエストに応えられると思います!」
白川君の家にお泊り、なんていうアレなイベントな為、まぁこちらとしてもある意味緊張していたのだが。
むしろ遅くなってもタクシーで帰るし、流石にお泊りは不味いし。
なんて思っていた……筈なのに。
彼の家にお邪魔して、妹である夢月さんからあれもこれもとお世話され始めたら。
ごめん、帰りたくない。
もうずっとココに居たい。
普段帰ったら冷蔵庫に何も無いし、忙しさにかまけて散らかった部屋があるだけだし。
それくらべて、白川君の家はどうだ。
ものっ凄く綺麗だし、どれもこれもちゃんと整頓されてますって感じが凄い。
飾り気自体は少ないのかもしれないけど、なんて言うかキチッとされていて普通なのに超綺麗。
それだけではなく、私が顔を出した時から。
夢月さん……本当に高校生の女の子? とか思っちゃうくらいに、物凄くテキパキよく動く。
そこまで気を使わないでいただいて……とか言う間もなく。
食卓には豪華な夕食が並び、あれよあれよと言う間に食事が始まってしまった。
「どうですか、早乙女さん。ウチの妹、凄いでしょう」
「一家に一人、欲しい。というか本気で欲しい! だってこれ、全部妹さんが用意したんでしょう!? 買って来て出しただけって訳でもなく!」
目の前に並んでいるご飯のメイン、なんとしゃぶしゃぶ。
これすらも、「本当に何から何まで手作りだと嫌がる人も居るだろうから……」と気を使ってくれた結果らしい。
しかしかしながら、店とかでしか見ないような、ソレ用のナベというか。
あれがテーブルの真ん中に鎮座しているのだ。
それだけではない。
副菜と呼ぶのが申し訳ない程の数々のおかずが並んでいる。
こっちは完全に妹さんの手作り、一から十まで妹製。
どれを食べても凄く美味しい……どころではなく、もはやメインにしても良いでしょうって言う様な物すら並んでいる程。
「な、何かある度にお兄ちゃんが買ってくれまして……道具自体は、結構色々あるんです」
「夢月は基本欲しがらないからな、自分から外食もしたいって言わないし。なので、家でも出来る様にしてるだけです」
「けど、買ってもらったのになかなか使わないのは申し訳ないよ……」
「良いんです、たまにでも使ってくれるから良いのです」
とか何とか兄妹の会話が繰り広げられているが。
こういう鍋とか色々買って、一番得しているのは誰か。
間違い無く白川君ですよね?
お前家でもこんな美味しい物毎日食べてるのか、多分同じフロアの面々が見たら血の涙を流すぞ。
今週は頑張ったから、ちょっと居酒屋行っちゃおうかなぁ? なんて、絶対思わないだろこの食生活。
お店でそこそこなお金払うより、お酒はコンビニで買って、家に帰った方が食事は豪華って何だ。
うっまぁ……。
しゃぶしゃぶするのは流石に自分でやっているんだけど、これも夢月さんに任せたら完璧な状態でお肉が提供されそう。
というかスープとタレ! ものっ凄く美味しいけど、コレ手作りってどういう事!?
これにも気を使っていた様で「既製品も買ってありますので、そっちの方がよろしければ……」と自信無さげに提案されたが、迷わず妹製を選ばせて頂いた。
こんなの素人に作れるの!? とかなんとか、いろんな個所に感動しつつ夕食を味わっていれば。
「ぁ、えっと……お酒のお供になりそうな物も、それなりに作っておいたので。ほんと、ごゆっくりしていただければと。普段からお世話になりっぱなしですので……」
さっきから私が褒め殺しだった影響なのか、少々照れた様子でそんな事を言い出す夢月さん。
この子が、あの“シックス”なんだもんなぁ……。
世界って、分かんない事だらけだわ。
「もうここに住みたい……今日帰りたくない……」
「えとっ! ちゃんとお布団とかも準備しておきましたので! お風呂とかも全部、学校から帰って来てから大掃除しておきました!」
そんな事を言いながら、グッと拳を握り締める彼女。
普通の高校生は、こんな事までしないんですよ……。
◆
「夢月、さっきも言った通り早乙女さんも見てはいるが……あんまり気にするな。あくまでもいつも通り、目の前の事に集中しろ」
『りょ、了解。頑張って、かっこ悪い姿見せない様にするね』
夕食後、お仕事の話の前に……普段白川君と6keyが行っている訓練の様子を見せてもらう事になった。
彼は私の部下ではあるが、“サポーター”という意味では同等。
私だって元々この手のゲームが凄く得意って訳でも無いし、他のモノでも誰かの戦闘サポートに専念するという経験はほぼなかった。
だからこそ、これは私にとっての勉強でもある。
なんて事を思いつつも、二人も今日は軽めにって事らしくので。
私も白川君もお酒を片手にしている状況だけど。
「にしても……凄いわね、コレ。アンタの場合出社するより、家に居た方が効率良いんじゃないかって思っちゃうわ」
ちょっとだけ呆れた声を上げつつ、彼の部屋に置いてある電子機器各種へと視線を向けるが。
何かもう……凄い。
パソコンが置いてある一角だけ、もはやアニメとかに出て来るコックピットみたいになってる。
席に座った人間を包み込む様に設置されたモニターに、見た事も無いようなデバイスまでズラリ。
「まぁ機械に関しては、実際その通りですね。とは言っても、これも6keyのサポートをする上で必要だったんで。足りない物が発生する度に増やしてる感じですけど」
「シスコン……」
マジか、コイツ。
夢月さんのサポートを徹底する為だけに、こういうの買い揃えたのか。
実際ソレを活用できている時点で凄い事ではあるんだけど、色々ヤバイな。
などと思っている内に、モニターに映った6keyが行動を開始した様だ。
センターに写っているその映像は、私もよく見る賞金首の観察映像。
なのだが……周囲のモニターに映っている情報量が、エグい。
各所の監視カメラが分割されて写っているし、彼が何かを操作する度に必要な情報が次々と画面に表示されていくではないか。
仕事が出来るとは前々から思っていたけど……白川君が本気を出すと、マルチタスクどころではない様だ。
敵の配置は当然の事、周囲の交通状況から近くを通る電車の動きまで。
現在シックスが動いている地点を中心として、周囲の“環境そのもの”を監視していると言って良いだろう。
彼が戦闘イベント本番の度に在宅で仕事をしようとする理由、そして6keyがあれだけ強い理由の一片が垣間見えた気がする。
彼女本人の能力も物凄いけど、サポートする側の底力が計り知れない。
この男と比べたら、多分私達のサポートなんて子供の遊びみたいなものだ。
今までどれ程賞金首達の実力に助けられていたのか、嫌でも実感してしまうというもの。
「夢月、遅いぞ。あと15秒以内にそのエリアを抜けろ」
『了解!』
「角を曲がったらそのまま走れ、逃走ルートの隣を電車が8秒間通過する。コレで北側からは姿が隠せる筈だ。全力疾走」
『8秒……分かった!』
ゾクッと背筋が冷えた気がした。
この兄妹、本当に普通じゃない。
賞金首と私達の様な関係ではなく、共に高いレベル……それどころか、白川君だって別方向で賞金首をやれそうなくらいに能力が高い気がする。
多分、これまでキルログを残した他の賞金首だって、この男がサポーターであれば失態を犯さなかった可能性だってあるのだ。
それくらいに凄いというか、もはや未来予測とも言える助言を繰り返す。
そして彼の指示は結構な無茶を言っている気がするのに、妹の夢月さんも完璧にこれに応えるという。
これが、賞金首の六番目。
シックスの強さの秘密。
まさに二人で一人と言えるような環境を目にして、声を掛ける事も忘れて息を飲んでしまった程だ。
そりゃこんな能力があれば、相応しい環境で仕事をしたくなるわよね。
というか、シックスがキルログを残した時。
会社のサポーター専用の仕事部屋で、普段の彼だったら絶対出さない様な声を上げながら悔しがっていた理由は、コレか。
彼女、というかモニターに映っている渋いおじさん。
6keyがキルログを残した、チームイベント。
あの時は会社でサポートをしていた上に、チームの連携を邪魔しない様にと、我々からのサポートは最低限に絞っていたのだ。
だからこそ、生まれてしまったシックスの初めての敗北。
そしてその後に続くチームイベントで、夢月さん以外が全滅した際。
ガンサバの主人公みたいになっているシックスだけが、時間制限いっぱいまで生き残った理由でもあると言う訳だ。
他の面々が居なくなれば、彼が“本気で”サポート体勢に入れるから。
これまでずっと、6keyという名の賞金首が凄いのだと思っていた。
会社に居る皆だって、同じ感想だったからこそシックスを注目しているのが分かる。
けど、違う。
この二人は、一緒に戦ってこそ“シックス”なんだ。
「ヤッバ……白川君、普段からこんな感じなの……?」
「えぇ、これでも普段より気を抜いてますよ。夢月の方は、本番じゃもっとヤバイです」
「…………」
もはや言葉が出てこなかった。
これが、賞金首の“サポーター”であるという事。
彼等彼女等が一番目立てるように、そしてその実力を全て発揮できる環境を“その場”で作る。
その“本物”ってヤツの実力を、今私は……目の前で、見せつけられた。
「それで……白川君のお願いが、この企画書。“コラボ商品”の二つ目……でも今回はシックス専用武器として登場する、カスタムパーツ各種を含む新規格のハンドガン……」
「その通りです。元の銃その物もトイガン製作会社の著作物ですから、向こうも慎重になると思います。更には、発売されたばっかのモデルですからね」
「これをそのままゲームに導入して、更にはオリジナル要素まで“向こう”に作らせて、実際にシックスに使わせる……アンタ、この意味分かってる? 相手方の会社にとっちゃ、今後も売上を期待している商品の印象を、シックスに全振りする勢いなのよ? しかもカスタムパーツなんて言っても、向こうに任せるって事は“プロ”にお願いするって事なんだからね?」
ハッキリ言って、ネトゲのイベント一つでどうにかする規模じゃない。
かなり売れているゲームシリーズでトイガンを出すのだって、物凄いお金が動くのだ。
だがソレは会社同士のやり取りであり、普通なら過去の物のカスタムモデルとかを作り、再び最熱させるというのが大体のパターン。
だというのに、今回使おうとしているのは……思いっ切り、現行型。
更にはこの売上に直結する印象と“販促”を、たった一人の女の子に託す様な真似をする事になるのだから。
“当たれば”デカいが、失敗した時のリスクはかなり大きいと思って良いだろう。
「以前コラボしてもらった会社ですからね、繋がりが出来た以上交渉はしやすいかと。前回のモデルガンも、夢月だけの影響ではない事は承知の上ですが、6keyが売り上げに貢献しているのは間違いない。コレを交渉材料として最大限に使います」
「無茶言ってくれちゃって……マジでやるなら、コケたら頭下げるだけじゃ済まないわよ?」
「問題ありません。だって使うのは……ウチの妹、賞金首の“シックス”ですから。どこまでも目立たせてみせますよ、ウチの6keyを」
くっそ、その自信満々な態度がムカつく。
けど、こんな夢物語みたいな話が。
映像を見ている限り……本当に叶ってしまうのではないかと思える動きを繰り返す、賞金首の6番目。
訓練の映像だというのに、本当に格好良いなぁ。
こんなのが話題を掻っ攫いそうな新型武器を掴めば、それこそまた新しいPVなんて簡単に作れちゃいそうだ。
そしてソレが前回同様話題になれば、しかもトイガンの方でもコラボ商品なんて出せちゃったりしたら。
本当に、売り上げは凄い事になりそうって思ってしまう。
正直、物凄い博打だってのは誰が見ても明らかなのだが。
しかしコレが現実のモノとなった場合。
こちらに関しては、間違いなく“夢月さんの実績”を証明する結果になる訳だ。
多分、この男が狙っているのはソコ。
会社に貢献、開発チームに関わっているから売れて欲しい。
そんな次元じゃなく、彼の心はリアルの妹へと向かっている。
彼女が達成したという実績を、確かなモノにする為に。
たったそれだけの為に、ウチの会社どころか他の所まで巻き込んで祭りを始めようとしているのだ。
実力だけは人一倍で、けどこれまで目立たない様にひっそりと仕事をして来た様な奴が。
「……マジでシスコン」
「誉め言葉として受け取っておきます」
軽口を叩いてから、手に持っていたお酒を一気飲みするのであった。
こりゃ私も、これまで以上に本腰入れないと不味いかな。
今以上の責任を負う覚悟と、sevenのサポーターとしても更に上を目指さないと。
このままでは多分、他の賞金首が置いて行かれる。
今でも目立ち続けているシックス。
けど他のナンバーズだって、決して“オマケ”ではないのだから。
なら、目立たせるのは。
勝たせるのは、私達の仕事だ。
「アンタが最初言っていた様に、“きっかけ”になれば更に他の賞金首も目立たせる事が出来る。ならまぁ……試しにやってみますか。言っておくけど、リアルのコラボ商品とかはすぐ出せないからね? 例え上手く行っても、次のイベントに合わせてとか無理だからね?」
「そりゃ分かってますよ、あぁいうのはパッと出来る訳じゃないですからね。けど此方は、データさえもらえればゲーム内で実装出来ますから」
「ついでに……私達も、死ぬほど忙しくなるけどね」
「ま、そっちも承知してます」
そんな事を言い放ったサポーターは、その後も6keyに指示を出し続け。
画面に映る仮想世界の殺し屋は、本日もまた当たり前の様に生き残るのであったとさ。
ハッハッハ、お泊り会だ何だと言っていたのに。
夜になって、頭が完全仕事モードになってしまったよまったく。
コメント
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第98話、読ませてもらいました! 夢月さんのご飯エピソードから始まって、白川君の超本気サポート体制が明らかになる流れ、めちゃくちゃ痺れました…。「二人で一人がシックス」って、もうその関係性が尊すぎるし、早乙女さんが圧倒されてる感じも分かるなあ。そしてシスコン全開の白川君の「ウチの6keyをどこまでも目立たせる」って言葉、重い執着が滲んでて好きです(笑) この兄妹の信頼関係、これからも見守りたいです!