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ルル
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「……ふざけやがって。配信なんて二度とするかッ!」
地下最奥の【古代魔導核】の過熱事故を防ぎ、無事にアクセスコードを入手した……はずだった。
だが、現代日本の魔道科学都市の治安維持システムは、どこまでも俺の安眠を邪魔してくる。最奥エリアの「認可ID」を完全に有効化するには、最新の都市型危険区域——すなわち【人工魔導ダンジョン】での実戦データをリアルタイム配信し、IDスコアを『SSSランク』まで引き上げる必要があるというのだ。
「あははははッ! ロードさん、コメント欄の『ロード様暴れてー!』ってリクエストが止まらないよーっ!!」
すぐ隣で、最新型の浮遊配信ドローンをぶん回しながら、アニ・サンダーライトが腹を抱えて爆笑している。
画面端のホログラムディスプレイには、数十万人規模の視聴者が残したコメントが、狂気的な速さでスクロールしていた。
『キタキタキタwww ロード様のダンジョン配信www』
『前回の拳銃ぶっぱからファンになりました!』
『最深部ボスまで徒歩5分の世界記録(RTA)見せてくれwww』
『ロード様イライラで草』
(……ハッ。現代人の娯楽欲は反吐が出るな)
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、目の前に出現した【A級魔導モンスター・大角岩石竜(グランゴーレム)】の群れを見下ろした。
体長五メートル。硬度ダイヤモンド級の岩石装甲を纏い、通常の魔導士小隊なら一時間の包囲戦を余儀なくされる巨大モンスター。
「……ハッ。まどろっこしい真似ができるか」
俺は外套の内側から愛用の**【消音拳銃(サイレンサー)】**を引き抜いた。
普通に撃てば弾丸が弾かれる? 攻略手順を守れ?
知るか。俺はドブネズミの暗殺者だ。時間と弾薬の無駄遣いほど嫌いなものはない。
「……【時間加速(タイム・アクセル)・極小収束】」
俺は指先に僅かな魔力を走らせ、消音拳銃の薬室に装填された特殊対人・対物弾の弾頭へ、局所的な『時加速魔法』を強制付与した。
ポス、ポポポポスッ――!!
消音器を通り抜けたのは、静音とは思えない異様な重低音。
撃ち出された四発の弾丸は、時加速の補正を受けて音速の十倍を超える【超高初速・超重粒子弾】へと変貌し、コンマ01秒で岩石竜の眉間、頸椎、魔力核、そして足首の関節隙間を寸分違わず穿ち抜いた。
「ガ……ッ!?」
巨体が断末魔を上げる暇すら与えない。
四頭の巨大ゴーレムが、同時に内部から崩壊を起こして一瞬でただの土の小山へと変わった。
「……次だ。さっさと終わらせるぞ」
俺は不機嫌そうに銃口の煙を吹き消し、ダンジョンの奥へと踏み出した。
現れる毒蜘蛛の群れ——急所の複眼を一瞬で八連射。
襲い来る空中魔獣——翼の基部と魔力器官を時加速弾で撃ち抜き落墜。
ダンジョンの最深部に鎮座していた【階層主(エリアボス)・古代魔導巨兵】——起動のコンマ05秒前に、関節の隙間へ時加速・過圧弾を三発叩き込んで内部爆縮。
所要時間、わずか三分四十秒。
「……はぁ。どいつもこいつも、ノロマで退屈なデタラメばかりだ」
俺は壊れた巨大ゴーレムの頭の上に腰掛け、冷えた缶コーヒーのプルタブを雑に開けた。
カメラの向こうのコメント欄は、もはや言葉を失っていた。
『え』
『今何が起きた????』
『ボスが起動する前に死んだんだが???』
『時加速魔法を拳銃の弾丸に付与して超高初速連射……!?』
『そんな魔導理論、教科書に載ってねえよwwwwww』
『マジで徒歩4分でダンジョン攻略しちゃった……』
『【朗報】ロード様、世界最速RTA記録を大幅更新wwwwww』
「あははははッ! 最高だよロードさん!! 配信適正高すぎるよーーっ! コメント欄も投げ銭も大爆発してる!!」
アニが涙を流して腹を抱え、床を叩いて転げ回っている。
その能天気に笑い転げる人間の少女と、画面の向こうで『神回www』『伝説の配信』『ロード様一生配信してくれ』と盛り上がるバカどもに向かって、俺は冷え切った消音拳銃を突きつけ、怒号を叩きつけた。
「ふざけやがって!! 配信なんて二度とするかバカ野郎どもッ!! 俺の安眠とコーヒータイムを奪ったツケは、このダンジョンの全ドロップ素材と特務機関の裏予算で利息をつけてたっぷり払ってもらうからなッ!!」
八つ当たり気味に叫んだその一言が、さらに『切り抜き動画』としてネット上を駆け巡り、人間界のトレンド第一位を独占して爆発的にバズり散らかすことになるとは——この時の俺は、まだ知る由もなかった。
【Side:シエル】
「……ふふ。大変なことになってる」
要塞都市・クロードの管理端末に映し出されたのは、人間界の動画サイト……だけではない。
魔界の闇通信格子(ハンスネットワーク)を通じて、魔族の若者たちの間に爆発的な勢いで拡散している『切り抜き動画』の数々だった。
『【神回】新魔王クロード様(偽名:ロード)、配信でキレてカメラをブチ抜くwww』
『【RTA】時加速弾連射でダンジョンボスを徒歩4分で全滅させる我らが魔王様』
『「配信なんて二度とするか!」と叫びながら素材を全回収するツンデレ暗殺魔王』
魔界の街頭モニターや居酒屋、兵士たちの詰所では、どこへ行ってもこの話題で持ちきりらしい。
「見たかよ!? 今度の魔王様、めちゃくちゃ強くてカッコいいのに、偽名が『ロード』だぜ!?」
「威厳ぶった歴代の魔王と違って、毒舌だけど親しみやすすぎるだろ!」
「不機嫌そうな顔で缶コーヒー飲んでるの、マジで最高にクールだな……!」
かつては「冷酷無比な暗殺者」「ハーフの不気味な新魔王」と恐れられていたクロードの支持率が、この数日間の配信騒動によって『親しみやすく圧倒的に強い我らが魔王様』として、鰻登りに跳ね上がっていた。
「……ちょっと、シエル! これどういうことよーっ!?」
執務室の扉を勢いよく開けて飛び込んできたセリス様が、顔を真っ赤にして叫んだ。
「魔界中の民草が『ロード様推し』になってるじゃない! 街の露店じゃ『ロード様愛用の缶コーヒー』とか『偽名Tシャツ』まで売られ始めてるわよ!?」
「アタシたちの魔王様が、いつの間にか人間界でも魔界でも大人気アイドルみたいになってるんだけど!?」
エレナ様も頭を抱えて、紫電をバチバチと火花させながら困惑している。
「でもでも! あの『配信なんて二度とするかーっ!』ってブチギレてるクロード、爆発的に可愛かったわよねーっ!?」
シャーロット様だけは、目を輝かせて端末の画面を何度もループ再生していた。
「……クロード本人は、たぶんものすごく嫌がる」
私は苦めのコーヒーを注いだカップを静かにトレイに乗せながら、ほんの少しだけ目を細めた。
あの男は、目立つことが嫌いだ。
暗闇に潜み、泥を啜り、誰にも気づかれないうちに完璧な成果を出して、静かに苦いコーヒーを飲むことだけを望んでいる。
なのに——持ち前の圧倒的な能力と、隠しきれないカリスマ性のせいで、どこへ行っても勝手に周囲を巻き込み、こうして大バズりしてしまう。
「……でも、これでいい」
「え? なにがよ、シエル?」
セリス様が不思議そうに首をかしげる。
「……昔のクロードは、ハーフだからって誰からも蔑まれて、日陰を歩かされてた。……でも今は、人間界のバカどもも、魔界の民も、みんなクロードの強さと面白さに夢中になってる」
あいつが望んだ形ではないかもしれない。
けれど、もう誰もクロードを「出来損ない」なんて呼ぶ者はいない。
「……シエル、満足」
「満足って……あいつが帰ってきたら、この大反響を知って『ふざけやがって!』ってまた盛大に欠伸噛み殺しながらキレるわよ!?」
「そうよ! 自分の切り抜き動画が魔界中に流れてるの知ったら、発狂して要塞の地雷原に引きこもりかねないわ!」
セリス様とエレナ様の危惧も、きっとその通りになる。
「……大丈夫。……帰ってきたら、私が一番苦いコーヒーを淹れて、あいつの頭を撫でてあげる」
手元の端末では、転移ゲートからこの要塞都市へ向けて移動を開始したクロードの反応が点滅していた。
「……お帰り、クロード。……人間界をバズらせてきた、私たちの最高に格好いい魔王様」
大騒ぎの要塞で、私は淹れたてのコーヒーの香りを纏いながら、もうすぐドアを蹴破って帰ってくるであろう愛しい相棒の姿を、心待ちに静かに待ち続けたのだった。
コメント
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第50話、一気に読んじゃいました! ロードさんの「配信なんて二度とするか!」ってキレっぷりが痛快で、でもその実力が圧倒的すぎて笑っちゃいました。時加速魔法を拳銃に付与してボスを秒♡♡♡る発想、魔導体系の設計がしっかりしてるからこそ説得力がありますね。シエルさんが静かにコーヒーを淹れて待ってるラストも、この世界の空気感にぴったりで好きです。続き、楽しみにしてます!