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ーー


昨日の事でハルとはぎくしゃくしたまま、3人でゆきの家に泊まることになった。

何となく、ゆきは俺とハルを仲良くしようとしているのが分かる。ゆきは知らないだろうが、俺はハルと2人で会話をした事がほとんど無い。ゆきがいるから表面上仲良く見えている、それだけだ。

俺は畳の上であぐらをかいていた。すると、ゆきが俺の隣に座った。

「ハルは忘れ物したから家に取りに行くって」

そう言ったゆきの横顔を見る。

この家はゆきには似合わないな。

「そっか」

2人、きり。どうしてか、2人きりになるのはとても久しぶりに感じた。

「……い」

「え?」

ゆきが小さな声で何か言ったようだが、余計なことを考えていたせいで聞き逃してしまった。

「あ、ごめん。なんでもない」

と、ゆきは誤魔化すように笑う。

…なにか引っかかる。

「さっき何て言った?」

「…」

その瞬間、ゆきの手が俺の背中へと伸び、ぎゅっと体が密着する。

「、ゆき?」

…ゆきが抱きついて来た。

心臓がまたうるさく鳴り、耳が熱くなる。やばい。

「…」

そっと手をゆきの背中にのせる。

細い。…折れてしまいそうだ。

甘い香りに頭が真っ白になるのをぐっとこらえる。

…俺の聞き間違いかもしれないが、ツライ、と、そう言っていたような気がする。

「…もし、ゆきが」

ピンポーン

インターホンが鳴った。ハルが戻ってきたのだろう。

「…行ってくる」

ゆきは玄関へ向かった。


「ハル、それ何?」

「ドーナツ。母さんが持ってけって」

「流石玲子さん!明日ありがとうって伝えなきゃ」

「俺が持って来たんだぞ?まて、それは俺のだ」

「じゃあこれにする。あ、京介はどれがいい?」

「俺はいい。ゆきが食べて」

「え、ありがとう」

「お前1人で何個食う気だよ」

ハルとゆきの陽気な声が響く中、俺は1人考えていた。

さっきのは、何だったんだろう。

時間が経ち、時計は12時を指した。

「怖いの?」

「は?怖くねーし」

「 早く寝るぞ…」

プルルルル

突然、電話が鳴る。ゆきとハルがどっちが電話をとるか討論し始めたから俺は受話器を取った。

受話器から飛び込んできた火事という言葉。

一瞬で夢から覚めたような気分になった。




燃え盛る炎。

「どうして火事なんか…」

気の毒そうな顔をした野次馬の声。

そして、野次馬の中で見つけた、見慣れた顔。

「離せ!!」

ハルの叫び声。

気がつけば俺は、火の海に飛び込もうとするハルの手を掴んでいた。

ハルは正気を失っている。家が、家族が燃えているのだ。パニックになるのは当たり前だろう。大人たちがすぐさま駆けつけ、ハルを取り押さえた。

壮大に燃え上がる家、懸命に消化活動をする消防士。警報や、戸惑いの声。

……結衣が放火したのだろうか。そうだとしたら、俺にも関係があるだろう。

野次馬に目を向ける。結月の姿は既に無くなっていた。

建物が崩壊する。中にいたハルの家族はもう助からないはずだ。

「っ……」

罪悪感に苛まれ、胸を貫くような痛みを感じた。それなのに、俺は笑みを浮かべていた。

両手で顔を覆う。

俺はおかしくなったのだろうか。どうして、笑みが零れるんだろう。

煙の匂い。周りの音が遠く感じ、ぼんやりと赤い光を眺めた。

これでゆきが、「ハルの家」という居場所を失う。




火事が起きてから数日で、いつもの日々は戻って来た。ただハルが、晴輝が居なくなっただけだ。

ゆきは机に頬ずえをつき窓の外を見つめていた。

「おはよ」

声をかけると、振り向いたゆきが「おはよう」と返す。ゆきはその数日でいつも通りに戻っていた。

最初からあいつなんか居なかったように、2人で言葉を交わす。

嬉しかった。

この時間が一生続けばいいとそう思えるほどに。


でも、楽しい時間はすぐに壊れてしまった。

「…お前ゆきに何した?」

「…殴りたきゃ殴れよ。それで、お前の気が済むんなら」

胸ぐらを掴んでいた手に、さらに力を込める。

これほどまでに怒りを覚えたのは初めてだった。

明確な殺意だったのかもしれない。

「…死ねよ晴輝」

思いっきり壁に突き放す。

「ッ……」

「ストップ、京介」

突然結月が割り込んできた。晴輝を見た結月は、笑顔を見せた。

「1日で家族が全員死ぬなんて可哀想だね」

「…あんた誰だよ」

「俺が殺した犯人」

「は?」


ハル家族の死因は火事ではなかった。家に侵入した何者かが、家にいた3人を惨殺し、その上に火をつけたのだ。

結月は人の心なんか持って居なかった。

事件が起きた夜、結月から聞いた言葉。それはあまりにも悲惨だった。


「俺には関係ない」

事実を知り青ざめた顔をした晴輝を見捨て、俺は部屋を後にした。

もし、俺が結月を止める事が出来るのだとしても、俺があいつを助ける義理なんかない。


その日の夜、姿を見せた結月はずぶ濡れで酷く血の臭いがした。

結月はとても機嫌が良さそうに言った。

「何があったか知りたい?」


「…ああ」
















死ぬ前に恋でもしようか

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コメント

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ユーザー

事件の裏ですね。 1週間ぶりとなりました。これからは週一更新を目指します。 たぶん書かないので補足↓

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